ミュージック・“ファルセット”チャイルド。
フィリー・ソウルの申し子ともいうべきR&B/ソウル・シーンの人気シンガー、ミュージック・ソウルチャイルドのライヴを観賞。2009年以来の来日となる(その時の記事はこちら)。ビルボードライブ東京での2ndショウ。
前回では女性ばかりのメンバーを揃えてきたが、今回はバックヴォーカルのエンジェルだけが再び参加。あとは男性陣で固められた。左からギターのアイザック・トンプソン、ベースのジョナサン・トロイ、ラップトップを挟んで中央やや右にドラムのペイジ・クーパー、右にキーボードのフィリップ・コーニッシュ。フィリップの前にバックヴォーカルのエンジェルとジェイソン・ウッズが並ぶという布陣だ。
開演時刻の21時30分になっても、まだ背後の黒いカーテンは開いたまま(通常、ライヴが始まる直前に閉まる)。先にバンド・メンバーの何人かはステージへ上がっていたが、何やらメンバー同士や係員と相談をしている。慌てて別のラップトップを係員が運んできたのをみると、機器にトラブルが発生したか。何か嫌な予感もしながら、しばらくの間、調整を見届けていたが、約20分遅れての21時50分、ミュージック・ソウルチャイルドが登場。ショウはスタートした。
構成は前回とほぼ同様で、人気曲やヒット曲をメドレー・スタイルで次々と披露していく。普段はライヴ直前に上げられているスクリーンはそのままで、PVやアーティスト・ショットを編集した映像を映し出していく。ミュージック・ソウルチャイルドはノリもよく、観客をのせるのも上手い。スキルを見せ付けるダンスがある訳でもなく、“決め”のあるポーズも、目を惹くルックスがある訳でもないが、ずんぐりむっくりなシルエットや茶目っ気のある表情としぐさによって、巧みに観客の心を掴んでいく。 だが、しかし、である。この日のミュージック・ソウルチャイルドは喉の調子が悪かったようで、ヴォーカルのメロディ・ラインがかなり不安定。ピッチもままならず、アドリブを多用するヴォーカルだった。よく言えば、ライヴならではの大胆なアレンジで攻めてきたともいえなくもない。が、やっぱり、メロディ・ラインが取れないヴォーカルは、聴いていて不快感を消し去ることが出来なかった。CD通りが素晴らしいというつもりは毛頭ないが、じんわりと染み渡るような温かみのある声質が魅力の彼だけに、(CDでは多重にヴォーカルを重ねているだろうとはいえ)そのヴォーカルの醍醐味を感じられなかったのは、残念でならなかった。
以前、ローリン・ヒルが“スプリングルーヴ”直前に横浜BLITZにて公演したことがあったのだが、開演時間から2時間以上開演が遅れ(一応、完璧なステージにするため準備に時間がかかっていたという理由)、出てきたものの喉はガラガラ、ビッグバンドをバックにするもアレンジを大幅に変更し過ぎて(単純に音がでか過ぎてつぶれていたということもあるか)、原曲をとどめないシロモノでパフォーマンスしたことがあった。これには賛否両論で良かったという声もあったが、失望したという声も挙がったりした(その後のアメリカ?でのステージでは、観客から罵声を浴びせられたこともあったようだ)。一瞬その時のことを思い出してしまったほどの声の調子の悪さだった。
とはいえ、彼が憎めないのはそういう悪条件という自覚もあったのだろうが、不調の中でも何か盛り上げる方策はないかと懸命にパフォーマンスしたところか。自身の不調の声を存分に聴かせるより、バック・ヴォーカルとの掛け合いを多めにとってフックをこなしたり、観客に委ねてみたり、コール&レスポンスにしてみたりと、あらゆる方法を探りながら盛り上げに尽くしていたことからは、真摯な態度がうかがえた。そのあたりは、前述のローリン・ヒルとは異なるところだ。
そして、その不調を何とかやり過ごすべく多用したのがフェイクやファルセットだった。「イエス」の中盤からアニタ・ベイカーの名曲「スウィート・ラヴ」を組み込んだというより切り替えて、ファルセット全開で歌い続けたのは妙案だった。好不調関係なく当初から考えていたのかもしれないが、この日はその不調を交わすだけの熱量がそこにはあったので、観客もヴォルテージを上げていったのだと思う。
冒頭に“ミュージック・“ファルセット”チャイルド”と記したのは、そういう意味だ。フェイクも多用していたので、“ミュージック・“フェイク”チャイルド”と皮肉を込めてもよかったのだが、やはり好きなシンガーということもあり、それはさすがに導入句としては持っていけなかった。そして、好きだからこそ厳しい目で見てしまうということを許してもらえれば幸いだ。
また、バック・ヴォーカルの二人は声も歌唱も素晴らしかったが、運悪くこのライヴとしての座席の位置が悪かったのか、なにせマイクの音量が小さくてあまり聴くことが出来なかった。彼らのヴォーカルが良く聴こえていれば、コーラス・パートを任せてもそれほど違和感はなかったのかもしれない。エンジェルの安定感はもちろん、ジェイソン・ウッズは線が細いと思ったが予想は外れ、かなり浸透力のある器用なシンガーだっただけに残念だった。
そこで目立った音を鳴らしていたのは、ドラムのペイジ・クーパーだった。ワイルドで力強いドラミングで、どうだ!と言わんばかりの煽りを入れ込みながらの演奏は会場に熱をもたらすのに十二分の働きだったが、これも個人的にはやや粗い感じに聴こえてしまった。正確には粗いというよりも、力みといった方が近いのかもしれない。開演前の機材トラブル、ミュージックの声の不調。そういったなかで、観客をのせなければというプレッシャーが、やや粗めのドラミングに聴こえてしまった理由なのかもしれない。
先ほどのスクリーンも開演前にそのまま残されているのを見て、「ああ、これは、「エニシング」の時に客演のスウィズ・ビーツが映って……という演出なのかな」と期待していたものの、そのような効果的な使い方をせずに終わってしまったのも、もったいないなと思わせたことだった。
このように書いていくと、なんだか不満だらけのステージのように思えるかもしれない。しかしながら、彼の楽曲が持つ魅力がどんなに素晴らしいかは知っている。バンド・メンバーの演奏も、トラブルがありながらも、ミュージックのスムースなサウンド・イメージから一変した、クールでエネルギッシュなアレンジを繰り出してきた。そのグルーヴの上昇度は、観客の身体を揺らすのに充分だったことは間違いない。だが、サーヴィス・エリアで1万円超、カジュアル・シートで8500円という値段のライヴとして考えると、少々消化不良だった点は否めないというのが、率直な感想だ。
ライヴ終了後、今回はあまり披露しなかったが直近作『ミュージックインザマジック』を聴きながら帰途に着いた。スムースで溶け込むようなヴォーカルは、やはり彼の生命線だなと感じた。この日は彼の声の“マジック”は残念ながら不発に終わったが、本当の彼の素晴らしさや才能は誰もが認めるところだと思う。いつぞやその声の“マジック”で魅了するために、次回にリヴェンジを期待したいところだ。
◇◇◇
<SET LIST>
01 Until
02 Halfcrazy
03 If U Leave
04 Teachme
05 Yes(including“Sweet Love”by Anita Baker)
06 Dontchange
07 Love
08 So Beatiful
09 Whoknows
10 Future
11 Just Friends(Sunny)
12 Ridiculous
13 MakeYouHappy
14 B.U.D.D.Y.
15 Anything
16 Forthenight
≪ENCORE≫
17 Everybody Loves The Sunshine(Original by Roy Ayers)
<MEMBER>
Musiq Soulchild(Vocals)
Angel(Background Vocals)
Jason Woods(Background Vocals)
Philip Cornish(Keyboards)
Isaac Thompsn(Guitar)
Jonathan Troy(Bass)
Payge Cooper(Drums)
◇◇◇
Musiq Soulchild - So Beautiful
Musiq Soulchild - Yes
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野球狂。

machu
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