ジャケット・ヴィジュアルに潜む、歌手としての原点と成熟への矜持。
7インチ・シングル「PLACE」の発売当日より始まった脇田もなりのリリース・イヴェントのラストは、渋谷modi(モディ)にあるHMV&BOOKS SHIBUYAにて開催。金曜夜とはいえ、ウィークデーの18時からという、ファン層を考えると集客が難しい時間帯であったが、先日水曜に行なわれたリリース・イヴェント3日目と同様、ソーシャルディスタンスを保つには程よい集客で、無事にインストア・イヴェント・シリーズを駆け抜けた。
新作「PLACE」「ONDO」の大まかな部分については、前述の水曜のエントリー記事(「脇田もなり @タワーレコード渋谷【インストア】」)に譲るとして、この日にメインの「PLACE」「ONDO」に添えられたのは、「風船」「TAKE IT LUCKY!!!!」の2曲。さらに、リリース・イヴェントのラストかつ早い時間帯からのスタートということもあってか、アンコールに応える一幕もあり、ファンからの大きな拍手に迎えられて、「passing by」を披露した。
「そこそこ集まってくださって…ありがとうございます(笑)」と軽いジョークを放ちつつ、「それでは1曲目を聴いてください。〈TAKE IT LUCKY!!!!〉」と曲フリをするものの、実際は「風船」からの予定だったため、音出しのスタッフが「?」な顔に。「あ、そっち(TAKE IT LUCKY!!!!)に変えます?(笑)」と返され、改めて脇田が「じゃあ、それでは〈風船〉」と曲フリすると、今度は音出しのタイミングが合わず。スタッフの「もう一度(曲フリを)お願いします」との声掛けから、ようやく演奏がスタート。ハプニングというほどでもないが、ちょっとした“ズレ”が招いたやり取りから、和やかなムードがフロアを包んでいったのが、なんとも彼女“らしい”。いい意味で緊張が解けたこともあろうか。
「PLACE」では1曲を作ることの難しさや大切さなどを知る、学ぶ機会となったことを痛感したとのこと。日常において感じた思いを詞にしたためていて、是非歌詞にも注目して欲しいと話していたが、楽曲を制作する側に立ってみて、これまで以上に“自らのメッセージが広く届いて欲しい”という感情が芽生えているのかもしれない。
「ONDO」は音数がそれほど多くない、浮遊感も醸し出す展開のなかで、ハイトーンやファルセットを駆使する難曲だが(とはいえ、たとえばエリック・ベネイの「サムタイムズ・アイ・クライ」ほどの超絶ファルセット展開とまではいかないが)、それほど力むことなくゆったりとしたリズムに身を任せるように歌っているのがいい。
また、ジャケット・ヴィジュアルについて、防波堤みたいなところで座っている写真(おそらく“波止場”のことを言いたかったのだろうが、防波堤も波止場も違いはあれどほぼ同義で通用しているので、ヨシ!)をサリー久保田がアレンジしたものなのだが、元々は上京する前に「これから頑張っていくんだぞ」という後ろ姿を、自身を励ます意味もあってか、姉に撮影してもらった写真とのこと。自身がSNSにもアップしている大切な写真を今作「PLACE」のヴィジュアル素材に採用したというのは、自身が制作にもかかわった点も含め、この楽曲・作品に対する想いの深さが強く窺えるエピソードだ。“私の居場所”を意味するという“PLACE”は、彼女が歌手としての決意を胸にした“原点”でもあり、紆余曲折があったとしても、そこへ立ち返る気持ちでこれからを歩んでいきたいという、自らへの意思表示なのかもしれない。
元来資質にある強度がある歌唱に、歌うことへの喜びを素直に実感するような柔軟性に富む自然体のヴォーカルワークがプラスされ、ようやく表現力として成熟の域に入って来たとも思えるが、それはアンコールで披露したアルバム『RIGHT HERE』の最後を飾る「passing by」でより顕著に。エンディングへ向かうほどにセンチメンタルとノスタルジーという陰を落としていくなかで、これまであまり見たことがなかった、感情の波に委ねたスキャットやフェイクを繰り出す姿に、その一端を見た気がした。
惜しむらくは、コロナ禍により満足なライヴ活動が難しい状況に当たってしまっていること。だが、そのコロナ禍によって、自らを見つめ直し、歌唱のみならず制作という形で表現することの大切さや意欲が宿ったのであれば、その過程はきっと次へと繋がるはず。真の意味で歌手としてのネクストレヴェルへとステップアップした、脇田もなりの今後に期待したい(“なーんて思うよー” by passing by)。
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【脇田もなり「PLACE」リリース記念ミニ・ライブ&特典会】
<SET LIST>
01 風船
02 TAKE IT LUCKY!!!!
03 ONDO (*)
04 PLACE (*)
≪ENCORE≫
05 passing by
(*): song from 7inch analog「PLACE」
<MEMBER>
脇田もなり(vo)
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■ 脇田もなり / PLACE(2021/06/12)
HCR9705 VIVID SOUND / HIGH CONTRAST
※7インチ(DLコード付き)
※RECORD STORE DAY 2021 エントリー・アイテム
Side-A: PLACE
Side-B: ONDO
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【脇田もなりに関する記事】
・2016/09/23 星野みちるの黄昏流星群Vol.5@代官山UNIT
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・2017/07/28 脇田もなり@タワーレコード錦糸町【インストア】
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・2017/11/25 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
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・2020/02/14 脇田もなり @Motion Blue Yokohama
・2020/02/19 脇田もなり @HMV&BOOKS SHIBUYA【インストア】
・2021/02/21 脇田もなり @COTTON CLUB
・2021/05/31 〈HOME~Thank You “Daikanyama LOOP” Last Day~〉@ 代官山LOOP
・2021/06/16 脇田もなり @タワーレコード渋谷【インストア】
・2021/06/18 脇田もなり @HMV&BOOKS SHIBUYA【インストア】(本記事)
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