手に汗握る展開のなか、7回裏に阿部のタイムリーで勝ち越した巨人が、その後継投で粘る日本ハムを抑えて、3年ぶり22回目の優勝を果たした。MVPはシリーズ2勝を挙げた内海。
巨人は武田勝の立ち上がりを捕らえ、初回矢野が2点先制打、2回裏には長野のソロ本塁打でペースを握る。だが、3回以降ランナーは出すものの追加点が奪えない状況が続くと、5回まで2安打と好投していた澤村が捕まる。日本ハムは6回表、二死1塁から糸井の右前打で二死1、3塁とすると、4番中田翔がレフトへ値千金の3ランで同点。
6回裏の巨人、二死2塁のチャンスで澤村の代打・エドガーが見逃し三振で終えると、流れは日本ハムへ。7回表、澤村に代わった福田の制球が整わずピンチを迎える。金子誠内野安打、大野犠打、ホフパワー左飛、陽四球の後、暴投も重なって二死2、3塁。ここで今浪勝負もストレートの四球で二死満塁。打者糸井の場面で、福田に代わった高木京介がマウンドへ。大きな当たりだったが、ライトフライに討ち取り無失点で切り抜ける。これが大きかった。
その裏、日本ハムのマウンドは石井。先頭打者の長野を四球で出すと、松本は犠打。坂本は三振に倒れて、バッターは4番阿部。3ボール1ストライクからストライクを取りに入ったところを見逃さず、センター前へタイムリーヒット。結果的にこれが決勝点となった。8回はマシソンが抑え、9回は山口。日本ハムも二死1、2塁と一打同点の場面を作るが、糸井がショートゴロでゲームセット。鍔迫り合いの争いは、最後に巨人に軍配があがった。
巨人は澤村の好投ですんなり行くと思ったが、中田翔への一球で無念。もしそのまま抑えていれば、MVPとなってもおかしくなかっただけに悔やまれる。日本ハムは武田勝が2回しか持たなかったのが大誤算だった。その後の継投陣が試合を作っていただけに、後手の展開が最後まで響いたか。
シリーズを通しては、巨人は序盤から陽、糸井を抑えていたのが良かった。打線は本来の力を発揮したというより、ボウカー、矢野ら試合ごとにラッキーボーイ的な存在が出たのが大きかった。とはいえ、そのような流れになったのも、日本ハムの先発陣、特に吉川の不調の影響が大きかった。結局、吉川、武田勝(第2戦は長野の本塁打1本だけだったが)で1勝も挙げられなかったのは、栗山監督にとっては計算外だっただろう。
一方、巨人の投手陣は万全だったかというとまったくそうではなく、中継ぎ、抑えが不安定。左対策で投入した山口は糸井らに打ち込まれる場面も多く、西村はクライマックスシリーズから安定せず、結局このシリーズでも確実なストッパーとしての活躍は出来ずに終わった。その中で、今日の試合でも試合を決する場面で糸井を抑えきった高木京、クライマックスシリーズから復活の手ごたえを感じさせたマシソンはいい投球をしていた。先発陣では、杉内が離脱し、ホールトンも調子が上がらないなかで、内海、澤村が試合を作ったのは大きい。宮國も勝利投手にはなれなかったが、7回3安打無失点で試合を作っていた。
2勝2敗で迎えた札幌ドームでの第5戦、札幌で日本ハムに3連勝となっては分が悪かった巨人だが、そこで踏ん張ったのがエース内海だった。と、表向きにはそうなるが、この日は吉川がまったくピリッとせず、ボウカーら打線が火を噴いて序盤から大量リードしたことで精神的に楽になったことが大きかった。それと、あまり触れられていないが、この時の捕手・加藤のリードも巧みだった。この日は多田野の危険球騒動で一転して悪役となってしまった加藤だが、阿部のリードの残像を利用して、調子の悪い内海を8回2失点へと導いた功績は褒められて良い。もしこのリードがなければ、内海と吉川の結果が逆になっても不思議ではない……そのくらいの出来の悪さだったからだ。
日本シリーズは4勝2敗で巨人が優勝で幕を降ろした。だが、また次の日からチームの向上への修正が始まる。契約更改、そしてトレードや戦力外通告などストーブリーグが活発になるだろう。このシリーズで活躍した選手でも、確実に来季のプレーを保障されている選手は多くない。ひとまず、2012年の頂点への戦いは終止符を打ったが、補強点をしっかり見極めて、さらなる進化を遂げてもらいたいところだ。
◇◇◇
巨人×日本ハム
日本シリーズ 6回戦 東京ドーム(18:10~)
F 000 003 000 3
G 210 000 10X 4
【勝】
(巨):高木京(1勝0敗0S)
【敗】
(日):石井(0勝1敗0S)
【S】
(巨):山口(0勝0敗1S)
【本塁打】
(巨):長野(2回裏ソロ)
(日):中田翔(6回表3ラン)
【バッテリー】
(日):武田勝、谷元、宮西、石井、増井-大野
(巨):澤村、福田、高木京、マシソン、山口-阿部
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≪日本シリーズ≫
10月27日(土) 第1戦 東京ドーム 巨人 8-1 日本ハム
【勝】内海【敗】吉川
10月28日(日) 第2戦 東京ドーム 巨人 1-0 日本ハム
【勝】沢村【S】マシソン【敗】武田勝
10月30日(火) 第3戦 札幌ドーム 日本ハム 7-3 巨人
【勝】ウルフ【敗】ホールトン
10月31日(水) 第4戦 札幌ドーム 日本ハム 1-0 巨人
【勝】宮西【敗】西村
11月01日(木) 第5戦 札幌ドーム 日本ハム 2-10 巨人
【勝】内海【敗】吉川
11月03日(土) 第6戦 東京ドーム 巨人 4-3 日本ハム
【勝】高木京【S】山口【敗】石井
≪表彰選手≫
【最高殊勲選手】内海哲也(巨)
【優秀選手賞】長野久義(巨)、J.ボウカー(巨)、阿部慎之助(巨)
【敢闘選手賞】稲葉篤紀(日)
≪コナミ特別賞≫
【みんなで選ぶコナミ賞】(プレーで最も元気を与えた選手)
阿部慎之助(巨)
【プロ野球ドリームナイン賞】(人々に最も夢を与えた選手)
稲葉篤紀(日)
【ベースボールヒーローズ賞】(ファインプレーで最も大会を沸かせた選手)
松本哲也(巨)
【パワフルプロ野球賞】(最もパワフルなプレーをした打者)
長野久義(巨)
【プロ野球スピリッツ賞】(ピッチングに最も魂(スピリッツ)が感じられた投手)
内海哲也(巨)
矢野の先制打で沸くジャイアンツファン。
懸命に応援を続けるファイターズファン。
7回裏“闘魂込めて”。
この後に勝ち越しとなる。
巨人優勝の瞬間!!
原監督胴上げ。11回宙を舞う。
優勝バンザイのスタンド。
原監督インタヴュー。
MVPは内海!
レフトスタンドのファイターズファンに挨拶する日ハム戦士たち。
ジャイアンツ選手の場内一周。
ジャビットたちも一緒に。
チアリーダー(チームヴィーナス)も一周。
日本一おめでとう!!!
◇◇◇
■ 日本シリーズ第5戦、多田野の危険球判定と加藤への批判について
試合後もマスコミやネット等で論議が絶えない第5戦の“誤審”の話題だが、個人的な感想を。
まず、状況から。4回表、5-2でリードしている巨人の攻撃。先頭打者・寺内がショート金子誠のエラーで出塁し、無死1塁。加藤の打席で日本ハム・多田野がバントの構えをした加藤の頭部付近に投球。避けようとした加藤が仰け反って倒れ込むと、判定はファウル。ここでベンチから原監督らが飛び出す。すると、加藤は一塁へ歩き出し、死球の判定に。さらに、投球が危険球と判定され、多田野は退場。これに栗山監督が抗議をする…という流れだ。
栗山監督が「バントにいっていたから空振り、ストライクでは?」の主張に、球審の柳田は「ヘルメットに当たったと判断したから危険球退場とした」と説明したという。
この後、日本ハムファンから加藤は大ブーイングを受けることになる。マスコミも「誤審」やら「加藤の小芝居」などで煽るが、ハッキリ言って加藤へのブーイングや批判、悪者とするのはお門違いもいいところだ。
まず100%悪いのは球審。これは間違いない。死球か否かということについては、何度繰り返しリプレイを見ても、加藤にボールは当たっていない。日本ハムの捕手・鶴岡は「バットの音がした。球審の柳田は最初ファウルと言ったが(原監督が出てきてから)判定が変わった」と話したという。
この場面では加藤が倒れこんでボールデッドとなっている。ということは、ファウルあるいは死球と球審が判断したということになる。バットに当たったと判断したならばストライクカウントが増え、死球と判断したならば、無死1、2塁となる。もし、バットにも当たらず、死球でもなかった場合は、インプレーとなり、この時捕手はボールをミットから逸らしているので、1塁走者はフリーで進塁出来ることになる。しかしながら、原監督が駆け寄った時に球審はそれを制することはなかった。逆に言えば、原監督はジャッジがなされた(=ボールデッドになった)から駆け寄ったということだろう。ということは、一度ファウルか死球かを判断しているということになる。当初から死球と判断していたのならば、球審の誤審ということだ。
そもそも危険球という判定は、真っ先に危険球だと認める判定をするのが筋だろう。その後バットに当たったか当たらなかったかではなく、危険とみなされる投球と瞬時に認められたならば、その事後にどのようなことが起ころうとも、最初に危険球と判断する。その手順にない限り、遡ってその球種に危険球判定を下すことはあってはならないことだ。だが、それについても、球審は判断を誤ったことになる。ここで、二重の誤審が生まれている訳だ。その点に関しては、異論を挟む余地はないだろう。
次に物議を醸しているのが、加藤のボールを避けた反応がフェアプレイではないとの声だが、日本一を決める大舞台で瞬間的に感情的になるのも理解出来ない訳じゃないが、そのやり場のない怒りを加藤にぶつけるというのは、どうにも残念で仕方がない。
加藤は以前、頭部に死球を受けた経験があった(その後故・木村拓也が代わりにマスクを被った試合として覚えている人もいるかもしれない)。大袈裟だとの声もあるが、硬式で野球を経験したことがある人は解かるだろうが、あの硬いボールを140キロ前後、時には150キロ以上のボールが投げ込まれる世界だ。0.何秒のせめぎ合いのなか、一瞬の判断ミスが文字通り致命的なものになりかねない。反応が大袈裟に見えるのは、ボールと身体の反応のスピードが違い過ぎることからそう視覚的に捉えられるだけで、リプレイ映像などではそれが特に顕著になってしまうことによるものだ。
そして、その後加藤は倒れ込んだが、ボールに当たったというアピールは一度たりともしていない。ただ倒れ込んだ衝撃なのか、避けた際にバットが自分の顔かあるいはヘルメットに当たったのか、そう思えるところで痛みを感じたように見えているだけだ。その間に球審が死球と判定すれば、結果当たってなくても1塁へ歩き出すのは、プロ野球では当然のこと。勝負にこだわっているなかで、わざわざ「当たってない」と主張して、誤審を訂正させる馬鹿がどこにいるのか。それを「小芝居」だの「フェアプレー精神にない」だのと主張するのは、全くナンセンスだ。
あえてもう一つ誤審の原因を作ったというのならば、それは加藤ではなく、多田野(日本ハムバッテリー)だろう。無死1塁、打者が9番の加藤。送りバントが予測出来るなかで、その通り加藤はバントの構えをしてきた。そこへ頭部付近への投球をしてしまったのが多田野なのだから。あれくらいが危険球なのかという意見もあるが、危険球というルールがあり、頭部付近へのボールはそういう判定を下される可能性があるというなかでプレイをしているのだから、たとえ誤審であったとはいえ、そう判断されかねない可能性があるところへ投球ミスしてしまったことが、この危険球騒動を生んだ一つの要因になっているといえる。あえて言ったが、これは多田野が悪くないとか悪いとかそういう問題ではなく、一つの要因として多田野の投球が挙げられるというだけだ。ただ、投球ミスをしたということは事実で、その証拠に捕手の鶴岡はこの投球を捕球出来ていない。
一部マスコミでは、多田野の話として「だます方もだます方。だまされる方もだまされる方」と審判の判定と加藤への不満を言ったと報じている。仮にこの話が事実であるならば、球審への判定への不満は当然だとしても、「危険球に取られるボールではないと思う」くらいの発言でよかったものを、「だます方もだます方」という多田野の加藤への不満は全く道理にないと言わざるを得ない。これが自身の投球ミスが招いた結果と判断出来ないのは、精神技術ともに未熟の現れと思われても仕方ないところだ。仮にこの報道が本当であるならば、の話だが。
また、これについて上記の映像では、解説の古田が「誤審ですね」で終わらせている。この前後の解説を全て聞き逃さずにいた訳ではないので何ともいえないが、もしそれだけで片付けてしまっているのならば、これはこれで解説としては不十分であるといわざるを得ない。誤審を誤審だと発言することだけが解説なのではなくて、その後加藤の打席でブーイングが起こった際に、「その気持ちも解かるが、厳しい世界で懸命にプレイしているなかで起きた反応」という説明をして、硬式でしかもプロのレヴェルでの野球の危険性を、あまり実践に触れていないファンや視聴者らに対してわからせてあげることも必要なのだと思う。
テレビ、ラジオ、スポーツ紙等々、話題性の側面の傍らでそういうフォローをしていかないと、ファンの観る目も養えない。木を見て森を見ずという状況になるのが、一番良くないことなのだから。もしそれが解からずに徒に話題を煽っているだけならば、マスコミも日本シリーズの誤審騒動に手を貸したことと同罪だ。
この日の試合で加藤の反応には言及していても、その裏で内海を巧みにリードしたことについて触れた報道がどれだけあったか。知るところでは、ラジオの解説をしていた野村克也以外では、加藤のリードの良さを指摘した解説者は皆無だった。熱戦に水を差さないためにも、また折角の両リーグを代表するチームの好試合の後味を悪くしないためにも、解説などを務めるプロ野球OBたちにも、プロ野球の質の向上のため、そのような努力をしてもらいたいところだ。