ブルーイ率いる人気のアシッド・ジャズ・ユニット、インコグニートの結成35周年を記念したツアー“INCOGNITO -35th Anniversary Tour- with special guest MAYSA”を観賞。会場は、インコグニートの近年のホームグラウンドとも言えるブルーノート東京。日本ではお盆休みにあたる時期だが、東京公演は5日間各2公演全てソールドアウト。その前にはモーションブルーでも公演しているし、このユニットの日本での絶大なる人気を証明した形だ。
35周年を祝ってということもあり、久しぶりに“ヴォイス・オブ・インコグニート”ことメイサ(メイザ・リーク)が参加。ゴージャスなショウがさらに絢爛を増したハッピーなヴァイブスが溢れるステージとなった。
ブルーイが工場でフォークリフトを運転した時にラジオから自身の楽曲が流れてきてから30余年。アシッド・ジャズというムーヴメントにも乗り世界的成功を果たした彼ら。その強みは何といっても、ブルーイを中心とした音楽へ対する愛、音楽を通じての人間への愛だろう。その根底が崩れないから、あらゆる国・地域から集まる多国籍軍であっても、音楽を通じてユナイトする。それはステージのみならず、そこにいる観客も一緒。アップ・テンポのナンバーやスローなバラード、パーティ・ソングや哀愁漂うノスタルジックな曲であっても、芯にあるのは偏見なく愛するという“地球家族”であり続けるという信念だ。人生、さまざまな境遇が訪れるけれど、みんなで助け合っていければ、きっとハッピーな瞬間が訪れるはず……いつでもそう伝えてくれるのだ。それを示してくれる代表的なものが「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」であったり「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」だったりする訳だ。
時に、一聴してそれと分かるサウンドは“マンネリ”という障壁にぶち当たることも少なくない。インコグニートの楽曲に“金太郎飴”的な感想を思い浮かべる人もいるのかもしれない。ただ、それでも人気を維持出来るのは、メンバーチェンジが頻繁に行なわれていてもブレないアンサンブルとヴォーカル陣のクオリティの高さだ。今回も、前回から復帰したトニー・モムレル、すでに現・インコグニートのメイン・ディーヴァともいえるヴァネッサ・ヘインズに、ロック・ソウル的な歌唱のケイティ・レオーネのヴォーカル陣のハーモニーは素晴らしく、変幻自在の鍵盤師マット・クーパー、漆黒のボトムを鳴らすフランシス・ヒルトンの常駐メンバーに加え、強烈なグルーヴを叩き出すソロ・バトルとも言えるソロ・パートを披露したフランチェスコ・メンドリアとジョアン・カエタノのパーカッション陣、こちらも前回から参加のナイジェル・ヒッチコックに、シド・ゴウルド、アリスター・ホワイトと並んだホーン隊が、それぞれの個性を出しながら絶妙なチームワークを見せていく。
そこへ35周年記念としてメイサが華を添える。94年までリード・ヴォーカルを務めていた“レジェンド”が途中からステージに登場すると、やはり空気も一変する。濃密なバラード「ディープ・ウォーター」で深みのある世界を演出した後は、「トーキング・ラウド」や「コリブリ」で情熱的な歌唱を披露。やはり、ブルーイとゴールデンコンビとしてやってきたメイサならではの格別な味わいをもたらしてくれる。
そして、サプライズも。「コリブリ」途中でブルーイが“チョットマッテ”と演奏を止める。やおら話し出し、99年の大阪公演の時に生まれたメイサの子供(ジャズ君)が14歳になって今回来日してるととステージへと迎え入れる。“ジャズクンデスヨ~”とブルーイに紹介されたメイサ・ジュニアはステージ中央で母親メイサとハグ。「コリブリ」が再び始まると、ジャズ君はマラカスで演奏に参加。微笑ましい光景に会場は熱気とはまた違ったほんわかとした温かい空気に包まれた。
曲構成は上述したもの(「ディープ・ウォーター」「トーキング・ラウド」「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」「コリブリ」「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」)に加え、「グッド・ラヴ」「エヴリデイ」「アス」などの代表曲に、春にリリースした16枚目のスタジオ・アルバム『アンプリファイド・ソウル』から「ハンズ・アップ・イフ・ユー・ワナ・ビー・ラヴド」「ハッツ」「シルヴァー・シャドウ」など新旧取り揃えた2014年版ベストといった内容。それほど斬新なセット・リストではないが、エンジョイさせる手段を熟知しているブルーイが知らず知らずに躍らせてくれるステージ。すぐにオーディエンスが総立ちになってしまうのは、ツボを押さえた選曲というよりも、楽曲に毎回何らかの新たな息吹を、そのステージでしか感じ得ないパッションをもたらしてくれるからだろう。
楽しめるという意味では抜群のショウであることに違いなく、35年を経た今、その新鮮さとグルーヴには陰りどころか続々と新たな生命が誕生していくかのような活力が漲っている。さすがに10代や20代前半といった若者は見当たらないが、老いも若きも興奮し楽しめるステージはそうそうない。未見の人は是非これからでも体験してもらいたいライヴだ。
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ところで、今回、オープニング・アクトとしてポルトガルのギタリスト、フランシスコ・サレスが3曲ほど披露した。なんでもブルーイのお気に入りのギタリストらしく、“もしスティーリー・ダン、スティーヴィー・ワンダー、スティング、アデル、ブルーノ・マーズ、ファレル・ウィリアムスといったトップアーティストたちにギタリストを推薦してくれと尋ねられたら、フランシスコをリストのトップに挙げるね”といった思い入れよう。アコースティック・ギターを爪弾いた曲と、機器を使ったソロ多重録音スタイルのパフォーマンスを披露。単純にギター・ソロだけでなく、エレクトロやヒップホップ的な手法は、物凄く珍しいということではないが、自身の音楽性の幅を広げていくという意味でも面白い試み。多くを聴いた訳ではないが、今後注視していきたいアーティストではある。なにせ、世界各国でさまざまなアーティストを発掘しているブルーイが薦めるのだから、無頓着しては勿体ないというものだろう。
以下、これまでの(当ブログにおける)観賞記録を挙げておく。
2005年12月
2007年03月
2008年03月
2008年12月
2010年01月
2010年11月
2011年04月
2011年08月
2012年08月
2013年12月
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<SET LIST>
01 PARISIENNE GIRL
02 HATS(T)
03 SILVER SHADOW(V)
04 HANDS UP(K)
05 DEEP WATERS(M)
06 TALKIN' LOUD(M)
07 STILL A FRIEND OF MINE(M/T)~Short ver.~
08 COLOBRI(M)
09 PERCUSSION&DRUM SOLO
10 BRAZILIAN LOVE AFFAIR
11 GOOD LOVE(K)
12 AS(T)
13 I HEAR YOUR NAME(K)
14 EVERYDAY(V)
15 GIVING IT UP(M)
≪ENCORE≫
16 DON'T YOU WORRY 'BOUT A THING(M)
※ Main Vocalist
(K):Katie Leone
(M):Maysa
(T):Tony Momrelle
(V):Vanessa Haynes
<MEMBER>
Jean-Paul "Bluey" Maunick(g)
Maysa(vo)
Tony Momrelle(vo)
Vanessa Haynes(vo)
Katie Leone(vo)
Matt Cooper(key)
Francis Hylton(b)
Francesco Mendolia(ds)
João Caetano(per)
Sid Gauld(tp)
Nigel Hitchcock(sax)
Alistair White(tb)
Francisco Sales(g)
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Francisco Sales - Fall
今回は演奏しなかった「ナイツ・オーヴァー・エジプト」。
https://www.youtube.com/watch?v=I_lELlE34Es