2003年にデビューし、2005年にはブルーノートと契約。ヒップホップ、R&B、ゴスペルなどのブラック・ミュージックを中心に、オルタナティヴ・ロックやエレクトロなど多彩なエッセンスを用いた革新的なスタイルのジャズを奏でて人気ユニットとなったロバート・グラスパー率いる“エクスペリメント”としてのステージ。“サマーソニック”の出演を経ての東京公演の初日、2ndショウ。
これまで、2012年6月、2013年1月、2013年9月(リンク先に当時の記事あり)とロバート・グラスパーの公演を観賞し、今回が4回目となる。この東京公演は3日間ともソールドアウトの模様。この公演ではベースがデリック・ホッジからバーニス・トラヴィスへ代わっていたが、それ以外は不動。ステージ左奥にドラムのマーク・コレンバーグ、その横にバーニス・トラヴィス、中央にはヴォコーダーセットを横に従えたケイシー・ベンジャミン、右にはシンセを前面に奥に生ピアノを置き、それに挟まれた形でロバート・グラスパーがゆったりと座している。
前回から本公演の間にアルバム『ブラック・レディオ2』をリリースしたこともあり、同アルバム収録曲も披露するほか、流行りを考えてかダフト・パンク「ゲット・ラッキー」も組み込んでくるサーヴィスぶり。もちろん、原曲のようなディスコ・ファンク仕様ではなく、かなりエレクトロ/テクノな仕上がりのカヴァーだったが。
ロバート・グラスパーの静かなる海が風に吹かれて波が立っていくような鍵盤と、野性的な粗っぽい打ち鳴らしからドラムンベースへと狂喜乱舞するマーク・コレンバーグのドラムとのバトルとも呼べるいつもの競演もあったが、このステージではケイシー・ベンジャミンの働きっぷりが強く印象に残った。今回も肩掛け鍵盤とヴォコーダー、時にサックスへと持ち替えて、浮遊感漂う空間へ手を引き導く。ベンジャミンが強く印象に残ったのは、「チェリッシュ・ザ・デイ」「アイ・スタンド・アローン」などアルバムではフィーチャリング・ヴォーカリストが歌うナンバーを彼が歌っていたからかも知れない。
4人が有機的に奏でる音空間は、一瞬にして時が刻々と進むせわしなさを排除する。それは神秘的に闇夜に映える音のカーテン、はたまた、深海から太陽の光が射す水上を見上げるような“グランブルー”ファンタジーとでも言えるような幻想の世界へのいざないだ。
先日観賞したエリマージと圧倒的に異なるのは、ロバート・グラスパーはアプローチや音の表出方法は斬新だったりするが、基本はビートに沿ってメロウな、チルアウト的なサウンド構築なところ。オルタナティヴや前衛的なところもあるが、ビートとメロディはスムーズだ。そのため、奇抜なアレンジメントでもスッと身体に入ってくる。そして何より洗練されているということだろうか。
ほぼノンストップで約1時間。ステージアウト後にアンコールの拍手が鳴りやまないが、しばらくしてから場内が明転してアナウンスが流れたことでアンコールはなし。おそらく初日だったからだろう。“サマソニ”ではニルヴァーナ「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」も演奏したというので、東京の最終公演あたりではアンコールでこの曲を演奏するかもしれない。
これまでエクスペリメント単独以外にレイラ・ハサウェイ、ヤシーン・ベイ(f.k.a. モス・デフ)とのフィーチャーリング公演を開催してきた彼ら。個人的には、『ブラック・レディオ2』ではブランディが参加しているので、ブランディを迎えた公演などが実現したら嬉々としてしまうのだが、どうだろうか。
当初はジャズという大地にブラック・ミュージックという雨を降らした……と感じていたこともあったが、今日を含めてこれまでの彼らのステージを見てきて、ジャズとかブラックとかというせせこましさを超えた“感覚的”音楽と考えた方がしっくりするようだ。そこには独創的なセンスが脈々と息づいている。次はどのような刺激を与えてくるのか、非常に楽しみだ。
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<MEMBER>
Robert Glasper (key)
Casey Benjamin (sax,Vocoder,synth)
Burniss Travis (b)
Mark Colenburg (ds)
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<strong>Robert Glasper Experiment - Get Lucky
Robert Glasper Experiment - I Stand Alone / Smells Like Teen Spirit