プリンスにその才能を絶賛されオープニングアクトに抜擢、ロバート・グラスパーはグラミー・アルバム『ブラック・レディオ』に起用するなど大きく注目された、パリス、アンバーの双子のストローザー姉妹とその親友アニータ・バイアスによるドリーミー・ソウル・ユニット、キングのワールドツアーの一環で行なわれた来日公演。ワールドツアーは9月29日の地元・ロサンゼルスから始まり、北米、アイスランド、オランダ、イギリス、スウェーデン、デンマーク、リトアニア、ドイツ、スイス、イタリア、ポルトガルを経て、大阪、東京と回り、2016年のワールドツアーの最終公演がジャパンツアーの東京公演となった。
2016年5月の初来日公演(記事はこちら→KING@Billboard Live TOKYO)はソールドアウトとなり、その後夏にサマーソニックでの再来日を促したが、今回は月曜夜ということと4月中旬の“プリンス死去”直後の5月の初来日時よりはその喧騒もようやくひと段落ついたこともあろうか、客足も思ったほどは伸びなかったようだ(それでも2~300人は集まったか)。シャーデーの楽曲がBGMで流れるなか、定刻より約5分遅れで暗転。2度目の単独来日公演がスタートした。
大陸的な彩りを思わせる極彩色のドレスを纏った3人がおもむろにステージイン。パリスがキーボードに囲まれた中央に佇み、両サイドにアンバー(右)とアニタ(左)のスタンドマイクが立つという構図とこの3人だけでライヴを完遂するという姿勢は、前回と変わりなし。スモークがステージ上を覆うなかでスポットライトが走り、蜃気楼のようなおぼろげな空間が創り出されると、その様子を音像化したような浮遊感を帯びた鍵盤が漂い始める。“ドリーミー・ソウル”とは言い得て妙なサウンドが、キングの音を愛するオーディエンスたちにゆっくりと包み込んでいく。
ただ、冒頭から「ザ・ライト・ワン」あたりまではシンセの低音が強すぎたのと序盤の緊張からかヴォーカルもそれほど滑らかさを帯びず、やや音が噛み合わずにくぐもってしまった印象。そのあたりは会場の機器とのバランスがとれていなかったのかも知れない。
だが、「ザ・ライト・ワン」からそのまま「イン・ザ・ミーンタイム」へ移行する際、シンセをミュートさせてハーモニーを強調させるように演出したくらいから次第に全体的にメリハリが生まれ、酩酊感をもたらすヴォーカルワークと多彩な音色を奏でるシンセが溶け合い始める。
やはり序盤は声があまり出ていなかったのだろう。中盤以降はしっかりとしたブラックネスを感じさせる声圧の高いヴォーカルとささやかに寄り添うようなハーモニーを巧みなバランスで押し引きしていく。CD音源のような幻想的なドリーミング・サウンドとはまた異なる90年代R&Bらしいスムーズなグルーヴがフロアを支配し、オーディエンスの身体をやわらかな炎で温めていくよう。そのなかで、エレピでの弾き語り風の「ヘイ」やたゆたうようなファルセット・コーラスを駆使した「ネイティヴ・ランド」など、彼女らのファンタジックなハーモニーにフォーカスした楽曲を投下していく。
そうかと思えば、それまでの彩度とは一変した赤いライトでフロアを染めた「キャリー・オン」でスムーズとパッショネットを行き交うような演出を見せるなど、単なるシンセとヴォーカルの組み合わせとは思えない“想像世界を有機的に再現した”とでも言えそうな音を紡ぎ出していく。
アニタのスポークン・パートのある「オー・プリーズ!」でオーディエンスとコール&レスポンスしながら(煽りを受けて観客がもっと歌えればより盛り上がっただろうが、おそらく歌詞が分からないので歌えない人が多かった)、多幸感に満たされると本編は幕。鳴りやまない拍手に時間をそれほど置かずに3人は再登場。日本のファンへの感謝を述べた後、ロバート・グラスパー『ブラック・レディオ』への参加曲「ムーヴ・ラヴ」を披露して、東京でのドリーミー・ソウル・ナイトは終わりを告げた。
正味70分とコンパクトなステージとシャイな佇まいは以前と同じだったが、まだデビュー・アルバムを出して間もないということもあり(EP『The Story』はリリースしているが、同作収録曲はほとんどがデビュー・アルバムにも収録)、現時点においての尺については致し方のないところ。無理にカヴァー曲などをふんだんに採り入れることも可能だろうが、それによって彼女らが構築する世界観が崩れてしまっては本末転倒だ。他の干渉に脅かされずに自身のコントロール下でステージをやり切る強い意志を謳っている彼女たちだけに、楽曲数が充実してくれば、その課題は次第に解消されることだろう。
観賞も二度ほどゆえ、明確なことは言えないが、個人的には今回のリキッドルームのようなスタンディングのライヴハウスよりもビルボードライブの方が、彼女らのパフォーマンスを最大限に発揮させるという意味では良かったと感じた。爆音や尖った音はもちろん、ファットなボトムや派手やかな音で圧倒するタイプではないので、会場の相性は意外と影響が出てしまうのかもしれない。
次の来日は2ndアルバムが出て以降となろうか。まだ全くの未定だが、新たな楽曲が増えてくれば、ヴァリエーションに富んだステージになってくるだろう。進化と成長を遂げたドリーミー・ソウル・アクトに期待したい。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Mister Chameleon
02 The Greatest
03 The Right One
04 In The Meantime
05 Love Song
06 Red Eye
07(Runaway)
08 Supernatural
09 Hey
10 The Story
11 Computer Love(Original by Zapp & Roger)
12 Native Land
13 Carry On
14 Oh, Please!
≪ENCORE≫
15 Move Love(Original by Robert Glasper Experiment featuring KING)
<MEMBER>
KING are:
Paris Strother
Amber Strother
Anita Bias
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