煌びやかなモダン・ヴィンテージ・ディスコ・ショウを快演。
メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンによるディスコ/ファンク・プロジェクト、タキシード。近年のディスコ/ブギー・ムーヴメントやダンスクラシックスやディスコ好き以外にもウケていて、来日を重ねている(先日は渋谷のクラブにもDJセットで公演も果たした)。今夏もサマソニ出演のエクストラ公演〈Billboard JAPAN Party × SUMMER SONIC Extra〉としてビルボードライブで単独公演を開催。その東京2デイズの二日目に足を運んだ。
前回彼らを観賞したのは昨年(2016年)1月のリキッドルーム公演(記事→「Tuxedo@LIQUIDROOM」)。この時はバンド・セットとしての公演でベースとドラムを配していたが、今回は不参加。左にキーボードのサム・ウィシュコスキ、右にギターのクリスチャン・ヴンダリッヒという前回も名を連ねたメンバーと、バック・ヴォーカルとしてジェシー・パヨが中央奥に陣取る。前回はアフロヘアでキュートなドナ・サマー風ともいえるギャヴィン・テューレックがバック・ヴォーカルを務めていたが、タキシード効果かアルバム『グッド・ルック・フォー・ユー』をリリースしたりと多忙になったのか、このツアーには帯同せず。ジェシー・パヨはテューレック同様、ロサンゼルスを拠点とするシンガー・ソングライター。ケリー・クラークソンを手掛けたアーベン・ユーバンクスのプロデュース曲があり、R&Bの下地はあるものの、フォーク、ブルーグラス、カントリー、オルタナティヴ、アメリカーナあたりを主軸にしているようだ。弾き語りでのライヴ・スタイルも多く、一見ディスコやファンクとの相性を考えてしまうところだが、とはいえ、線が細い訳ではなくしっかりとパンチとセクシーな佇まいもあり、キラキラとミラーボールのように輝くスパンコール服を身に纏いながら、ゴールドのセミボブヘアを揺らして歌い踊る姿は、テューレックほどのファンクネスまではいかなくとも、80年代の音楽をモダン・ヴィンテージなクラブショウへと模したタキシードのステージには見映え良く収まっていた。遠目から見るとモデルの佐田真由美風なルックスにも思えたり。
メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンは普段着どおりといった感じでリラックスのなかでダンス・ミュージックを楽しむといった趣。ベースとドラムが不在の打ち込みゆえ、音圧という意味では物足りなさを感じた観客もいたかもしれないが、そもそも覆面(匿名)バンドとしてスタートした、誤解を恐れずに言えば“お遊び”プロジェクトであるとしてタキシードは、ストイックに音を追求するというよりも、ステージを存分に楽しむということがメインテーマ。歌い踊りハッピーに過ごすというスタイルが持ち味と考えれば、余計な邪推は無粋というもの。何よりもパーティを楽しむことに主眼を置いているこのユニットにおいては、いかに心地良く過ごせたかが重要なのだ。
選曲は『タキシードII』をメインに、デビュー作『タキシード』からも「ナンバー・ワン」「ザ・ライト・タイム」など、さらにメイヤー・ホーソーンの楽曲も取り混ぜながらの構成。二人ともに音楽への探求心が濃いゆえ、曲間などにちょっとしたフレーズを組み込んでみたりという遊び心満載なプロダクションは相変わらず。メイヤー・ホーソーンは繋ぎでラップ・スタイルの歌唱も披露。当初はキーボードの前で左右に揺れてほぼダンスしかしていなかったジェイク・ワンも、フロアの熱が上昇していくのを追うようにヴォーカルやホーソーンとの掛け合いもみせていく。「デザイナー・ドラッグ」やアンコールラストで当公演のサービスエリアに特別に用意されたカクテルとの“コラボレーション”にもなった「ヘニー&ジンジャーエール」といったメイヤー・ホーソーン楽曲は、純粋な“タキシード”のリスナーには認知度がそれほど高くなかったのか、やや爆発的な反応は影を潜めた感じもしたが(個人的にはメイヤー・ホーソーン楽曲も好みなのでさらりと組み込んでくるのは嬉しい)、自らグラスを持って観客と乾杯して歩くパフォーマンスなどもあって、微笑ましい和やかなムードもありながらファンキーなグルーヴに身を委ねる空間と化していた。
ディスコやブギー、ファンク一辺倒だと飽きを感じさせそうにも思えるが、そのあたりは彼ら自身も考えているのだろう。アレンジとしてさまざまな楽曲のキラーフレーズを組み込むのはもちろん、「ソー・グッド」ではホーソーンが歌詞の“マジック・タッチ”のタイミングで観客と人差し指同士で“タッチ”して回ったり、軽やかなホーンとキュートなコーラスが身体を揺らせる「バック・イン・タウン」ではメンバーとのダンスでの絡みも見せつつ、最後にホーソーンとジェイク・ワンが“キメ”ポーズで締める演出。また、ライヴを重ねているうちに思いついた“ライヴ用”楽曲として制作したらしい「テイク・ア・ピクチャー」では、ホーソーンが自身のスマートフォンでフロアやメンバーを動画撮影したかと思えば、フロアの観客をバックにホーソーンとジェイク・ワンがこれまたポーズをキメて写真を撮るなど、タイトルに紛うことなき“テイク・ア・ピクチャー”を展開(実際に曲中にカメラのシャッター音がサンプリングされている)し、場内を沸かせていた。
本編ラストでの、おそらく観客の多くがタキシードを知り、ハマるきっかけになったと思われる「ドゥ・イット」でも、さりげなく導入にモンテル・ジョーダンの90年代R&B/ヒップホップ・ソウルの金字塔といってもいい「ディス・イズ・ハウ・ウィ・ドゥ・イット」(この曲のタイトルの一部の“ドゥ・イット”を重ねているはず)を挿し込んで、しかも下敷きにはア・テイスト・オブ・ハニー「ブギ・ウギ・ウギ」マナーのギター・リフを用いてファンクネスも備えているなど、触れ出したらキリがない音楽“オタク”ぶりも忍ばせながら、ショータイムをエンジョイすることを第一義としたパフォーマンスに終始。リラックスしたアティテュードではあるが、ツボを押さえたサウンドやパフォーマンス、ネオンラインが輝く照明やラストには背後のカーテンが開いて夜景の中での「ドゥ・イット」を披露するといったステージングのなかで、シンプルに音楽を愉しみ、心地良く踊るという一貫したスタイルは寧ろ潔し。こまごまとしたことに眉を顰めるのではなく、音の感ずるままに音に溺れるのが、この夜をエンジョイするための最適解なのだと思う。
元来はそれぞれ“本業”といえるソロ活動を持ちながら、思いの外人気を獲得してしまったタキシード。アルバム2作を経て、次なるフェーズへの進展はあるのか。個人的には本業のソロにも注視しつつ、今後の動向を見守りたいところだ。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Scooters Groove (*2)
02 Fux With The Tux (*2)
03 The Right Time (*1)
04 2nd Time Around (*2)
05 Designer Drug(Original by Mayer Hawthorne)
06 Number One (*1)
07 U Like It (*2)
08 July (*2)
09 So Good (*2)
10 Special (*2)
11 Rotational (*2)
12 Back In Town (*2)
13 Tuxedo Groove (*2)
14 I Got U (*1)
15 Take A Picture (*2)
16 Shine (*2)
17 I Want To Thank You(Original by Alicia Myers)
18 Thank You
19 Do It(Including phrase of“This Is How We Do It”by Montell Jordan)(*1)
≪ENCORE≫
20 Henny & Gingerale(Original by Mayer Hawthorne)
(*1)song from album“Tuxedo”
(*2)song from album“Tuxedo II”
※ 2nd showではおそらく17・18はカット
<MEMBER>
Mayer Hawthorne(Lead Vocals)
Jake One(Production, Voclas)
Jessie Payo(Vocals)
Samuel Wishkoski(Keyboards)
Christian Wunderlich(Guitar)
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