*** june typhoon tokyo ***

Eric Benet@BLUENOTE TOKYO

■ エリック・ベネイ@ブルーノート東京

Ericbenet_theone
 

 愛という大海原に打ち寄せるファルセットの波。

 ネオソウルの愛の伝道師、エリック・ベネイのブルーノート東京公演を観賞。東京の最終日、2ndショウ。
 会場へ20時前頃駆けつけると、ロビーは意外にもガランとしていた。恐らく、受付待ちで並ぶ人が多かったので、受付時間を繰り上げたのではないか。自分が受け付けを終えた時の整理番号は既に60番台。このところ、ブルーノートでこれほど後ろの受付番号をもらった覚えがなかった。それだけの人気を集めているということだろう。

 ディアンジェロ、マックスウェルらと並びネオソウル(ニュー・クラシック・ソウル)・ブームで大いなる注目を浴びたのもだいぶ前となるが、エリックはややアコースティック寄りのアルバム『ハリケーン』(2005)から再び注目を集め出し、『愛すること、生きること。』(2008)と『ロスト・イン・タイム』(2010)で60、70年代ソウルへの回帰や正統派R&Bを継承する作品群を制作すると、彼への評判や人気も確固たるものとなった。そして、今回、自身のレーベル“Jordan House Records”からのリリースとなる『ザ・ワン』を引っ提げての東京公演。一昨日の5月15日には、新宿のタワーレコードにてイヴェントが開催されたが、イヴェントスペースに溢れんばかりの人を集め、好評のうちに終わっていた。その時に、2コーラスほどのショート・ヴァージョンで最新作から「リアル・ラヴ」を生声で披露してくれたが、やや前日までの公演で喉の調子が良くなかったにも関わらず、極上のスウィート・ファルセットを効かせての歌のサプライズに、会場に集まった人たちから多くの拍手や熱いまなざしが注がれ、感歎の溜息が漏れていた。
 
 そんな期待を煽られての東京最終日、入場すると見渡す限り人、人、人。座席は埋め尽くされ、多くの立ち見も出た。熱気が籠もるなか、バンド・メンバーがステージへ。左からバンド・マスター/キーボードのジョン・リッチモンド、中央にドラムスのジョン“スティックス”マクヴィッカー、続いてベースのアフトン・ジョンソン、右端にギターのマイク・ファインゴールド。ギターのマイク以外のリズム隊は前回と同様。そして、キーボードとドラムスの両“ジョン”の間の前方にバック・ヴォーカルのデニース・ジャネイという布陣だ。
 個人的に期待していたのがバック・ヴォーカルやコーラスの有無だったのだが、今回はデニース・ジャネイが参加となった。エリックの醍醐味としてスウィートなヴォーカルは言うまでもないが、デュエット曲の秀抜さというのもあるだろう。そういう意味では、デニースの参加は大変ステージを期待させるものとなった。

 最近のエリックのライヴでは、2007年のベル・ジョンソン以来のバック・ヴォーカルとなった。2009年のクリスマス・ライヴではベース兼任でのヴォーカル名義はあった。また、前述のベル・ジョンソンの時は、“ERIC BENET with MICHAEL PAULO BAND”としての公演であったから、純粋にエリック・ベネイとしての公演となると、帯同していたら2007年以前まで遡らなければならないことになる。

※近年のライヴの模様はこちらから。
2011年09月@BLUENOTE TOKYO
2009年12月@BLUENOTE TOKYO
2009年02月@Billboard Live TOKYO
2007年09月@BLUENOTE TOKYO

Ericbenet_201205 結果的にいえば、やはりデニースの帯同は大正解だった。「スペンド・マイ・ライフ・ウィズ・ユー」では、一気にパワーを爆発させ圧倒するというタイプではないが、はにかむような表情を見せながらも次第に熱を帯びていく感情の込め具合とその情熱がスパークした時の色めき立ちは、セクシーでありながらも華やか。「フィール・グッド」では、はじめはエリックがちょっかいを出しながらリードするが、エリックが「リードしてよ」というと、それまでの恥じらいが一転。狂おしいほどの恋情がこぼれだすヴォーカルへ。これにはエリックもさらに上機嫌。
 実は、「リアル・ラヴ」に入る前、ミスで一瞬ラップトップから「フィール・グッド」のイントロが流れた。すぐにエリックは「NO,NO,NO,NO~(これじゃないよ)」と言ってから、「リアル・ラヴ」に入った訳だが、個人的にはライヴで特に聴きたかった楽曲の一つが「フィール・グッド」だったので(あとはレディシとの「グッド・ライフ」も)、「リアル・ラヴ」前半の時では、言葉はおかしいが「リアル・ラヴ」への没頭半分、「フィール・グッド」の期待への入れ込み半分といった状態だった。
 その後、正真正銘で「フィール・グッド」がスタート。ちょっぴりおどけたやり取りが楽しいデュエットだが、デニースはしっかりこの曲の世界観を演出するに充分のパフォーマンスを見せてくれた。この曲を披露する直前、エリックが言う。「次にやるのは素晴らしいシンガー、フェイス・エヴァンスとの曲なんだ。ただ、残念ながら、ここには彼女はいない。でも、いいかい。ここには今夜の舞台に相応しい素晴らしい歌姫がいるんだ。そう、僕たちにはデニースがいる!」(超意訳) その言葉に照れ笑いするデニース。何とも可愛らしかった。
 それにしても、フェイス・エヴァンスとエリックの相性の良さは何だろう。正直、フェイス・エヴァンスはオリジナルよりエリックとのデュエット曲の方が出来が素晴らしいとさえ思ってしまうのだが。

 驚きは、このバック・ヴォーカルとのパフォーマンスという嬉しい驚きだけではなかった。こちらは嬉しいというものとは異なるが、フロアを埋め尽くすほどの満席ぶりとさらには観客が冒頭からスタンディングで盛り上げるという光景に驚いた。もちろん、これまでもスタンディングで盛り上がることは常にあったし、エリックのライヴでは珍しいことではない。ただ、その熱度というか、観客の感情移入度が、これまで以上のものを肌で感じたのだ。
 オープニングは、メンバーが先にステージに上がり、その後エリックが(たぶん)「ラヴ・ドント・ラヴ・ミー」が流れるなか登場するのだが、ステージに迎え入れた後も多くの観客がスタンディングで踊る姿というのは、近年では見たことがなかった。東京最終日のラスト・ステージということもあるが、2005年の『ハリケーン』以降、特に『愛すること、生きること。』『ロスト・イン・タイム』で生音を重視したソウル/R&Bの本来のあり方を追求してきた態度が、リスナーに認知、評価されてきた証拠ではないか。そして、リード曲「リアル・ラヴ」を聴き、さらなる期待を高めたファンたちの新作『ザ・ワン』やそれを引っ提げてのライヴに馳せた想いが、のっけからのスタンディングという形で爆発したのかもしれない。

 エリックはMCも楽しげなものが多い。「スペンド・マイ・ライフ」の前には、エリックがデニースに名前を聞くと“デニース”と答えたのに対し、デニースもエリックに名前は何?と聞くと、エリックはちょっとタメながら「僕の名前は……“LOVE”さ」。愛の伝道師ゆえに許される答えをキザっぽく言う。会場に笑いが起こる。どうすれば最高のステージになるかを常に考えているのだ。(途中で「サイコー!」って叫んでたりも)
 そのエッセンスの一つが微笑みのためのちょっとした小話やジョークなら、歌の素晴らしさを堪能させるための切り札も持っている。それが彼から発せられる甘くとろけるような声だ。そして、時に息を呑み、時に恍惚へといざなるハイトーンのファルセットだ。
 定番となったほぼ全編ファルセットで押し通す「サムタイムス・アイ・クライ」は、この日も極上。“Cry”という言葉ではたった一つのワードを、寂しさ、嘆き、絶望……などを感じる声色でさまざまな“Cry”を表現するそのヴォーカル・ワークは、ソウル・シンガーの面目躍如でもあり、彼がなぜ“愛の伝道師”であるかという答えでもあった。

 さらにトピックとしては、スペイン語から幕を開ける「ホワイ・ユー・フォロー・ミー」も。これまでは「スパニッシュ・フライ」という楽曲でラテン風味を楽しませてくれたが、この曲ではデニースとサルサのダンスを交えての情熱的なステージを展開。容姿も含めて、こういった悩ましい演出はことのほか似合う。
 そして、本編ラストの「ユーアー・ジ・オンリー・ワン」(“You're the only one I love, you're the only one I need in my life~”のコール&レスポンスは、よく聴き歌い込んでないと難しい…苦笑)を終えて、エリックだけがバック・ステージに下がると、やおらアンコール、そして、おなじみの「ジョージィ・ポージィ」(この“Georgy Porgy pudding pie~”のコール&レスポンスも簡単ではないのだが…笑)。エリックはステージへ直接行かずに、フロア後方の通路へ。観客とハグやダンスを繰り返しながら、ステージへ戻ってきた。フックでは観客が手を挙げてその光景を盛り立てる。何とも愉快で興奮する瞬間だ。まぁ、たぶんラストは「ジョージィ・ポージィ」だろうなぁ……とは思ってたし、予想通り。ただ、この曲がはじまると、急にアドレナリンが放出されるのはどうしてだろう。マンネリと言う人もいるだろうが、それはマンネリと言うよりも勧善懲悪もののような定番の“待ってました”な展開といった方が正しい。エリックのステージを存分に楽しめたことのご褒美、文字通りの“アンコール”なナンバーなのだ。

 これで、バック・ヴォーカルのほかにコーラスがいて、さらにはホーン・セクションなどもあって、ラップトップからの音源がなければ、もっと完璧……などと望みは尽きないが、現状でのソウル・シンガーによる最高峰のヴォーカル・ステージの一つということには異論がないだろう。二日前の新宿・タワーレコードのイヴェントでは喉の調子が良くなかったこともあり、少なからずその影響はあるだろうなと感じていた。だが、このファイナルはどうだ。その不安は杞憂どころか、その記憶すら消え去るほどのヴォーカル・パフォーマンス。当分、このファルセット天国からは抜け出せそうにない。


◇◇◇

<SET LIST>

00 INTRODUCTION
01 Love Don't Love Me
02 Spiritual Thang
03 Feel Like Makin' Love
04 Harriet Jones
05 Spend My Life With You
06 Sometimes I Cry
07 Real Love
08 Don't Let Go
09 Feel Good
10 Why You Follow Me
11 You're The Only One
≪ENCORE≫
12 Georgy Porgy


<MEMBER>

Eric Benét(vo)

Denise Jenae(back vo)
Jon Richmond(key)
Mike Feingold(g)
Afton Johnson(b)
John "Stixx" McVicker(ds)
 

◇◇◇




 

 
Ericbenet_20120517 
 
 


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