七夕の夜、新宿に降り立った4人4色のオリジナリティ。
喧騒激しい新宿からはやや離れたライヴハウス新宿Red Clothにてフィメール・シンガーが集ったイヴェント〈Like Sugar〉が開催されると聞き、一路東新宿へ。ステージ奥に赤い下地に金色で“紅布”と書かれた中華風の看板が掲げられ、フロア前方上には大きなミラーボール、開演前にはエスニックな薫り漂うBGMが流れるなど、広くはない手狭なフロアスケールも相まって、どこか知る人ぞ知る秘密のアジトのようなミステリアスなムードを漂わせるが、ミラーボールを含めたライティングや音響の良さなど、なかなか味わい深いハコだ。新宿というより新大久保にほど近いというのも、いわゆる新宿とは異なるエスニックなムードを感じる一因なのかもしれない。
目当てのミアナシメントは6月のモナ・レコードでの主宰フリーライヴ〈Friday Night〉(記事→「Mia Nascimento @mona records」)以来、天野なつは3月の恵比寿・Time Out Cafe & Dinerでの脇田もなり主宰イヴェント〈MONARI WAKITA“HIGHBALL HOUR”〉(記事→「脇田もなり / 天野なつ @Time Out Cafe & Diner」)でのゲスト出演以来のライヴ観賞となる。相谷レイナと工藤ちゃんはまったくの初見。
トップバッターはミアナシメント。最近はモナ・レコードでのライヴを観ることが多かったが、これまでに観賞していた時にはおそらく挿入していなかったイントロダクション(出囃子)やインタールード(オーヴァーチュア)を組み入れてくるなど、イヴェントでのステージながら展開を踏まえての構成に。もの憂げなミディアムスローR&B「Forget」や、外面ではアンニュイながら、内では熱情を迸らせるアンビエント/オルタナティヴR&B「Night」、90年代R&Bのミディアム・バラードの薫りをアクセントにコンテンポラリーなビートトラックと融合させたナイーヴなミッドナイトグルーヴァー「Rainy day」と、ミアナシメントの真骨頂である“夜”に共鳴する楽曲群は、フロアいっぱいに輝かせるミラーボールと非常にマッチしていて、良いムードとグルーヴを創出していた。
そこへ、ウィスパーなアプローチのポエトリーラップ「kumo」や、キャラクターどおりの陽気なブラジリアンなイメージをポップなサウンドで投影した「Summer me, Winter me」や鼓動を高めるダンサブルなキラー・トラック「Shake」といった、前述のナイトモードな楽曲とは感じの異なる楽曲を挟み込んで、音楽的振幅の広さをしっかりと提示していた。
ラストはこの日に間に合わせたという新曲を。全編を通してカッティングギターが走るなかで、ライトなソウル/ファンクを彩るというのは、たとえばジャミロクワイの「リトル・L」やテイスト・オブ・ハニー「今夜はブギ・ウギ・ウギ」あたりの展開にも似ている感じもするが、これらの楽曲のように“ハネる”ところや“抜け”がこの新曲にはあまり感じられないので、初めて聴いた人にはやや物足りない印象を与えるかもしれない。その意味では「Shake」などのキラー・トラックではないかもしれないが、即時性というよりも長く聴かれてその良さが発揮されるタイプだろう。アルバムのうちの1曲に差し込まれることで、他の楽曲を引き立てながら、後からジワジワとその味わいが伝わるような“渋さ”を有しているとでも言おうか。代表曲として早くから名を挙げられることはないだろうが、ミアナシメントの音楽性の奥行きや懐の広さをもたらすところで気を利かせる、バイプレイヤーのような位置づけの楽曲になるのではないだろうか。
続いては、まったく事前情報もない相谷レイナ。2019年に相谷麗菜のソロ・プロジェクト“Re:inA”として始動し、同年に相谷レイナへ改名。2019年始動以前は、ミライスカートや我儘ラキアといったアイドル・グループで活動していたとのこと。阪大出身という才女でもある。ステージにはテーブルにラップトップとオランウータン(?)のぬいぐるみが鎮座し、時にショルダーキーボードやカウベルを使って演奏する。(背中に選手名とナンバーが入った)アメフトなどのメジャーリーグ風の(チャンピオン?)の赤いTシャツに団子ヘアという出で立ちは、レーベルのオフィシャル(よしもとミュージック)のクールなモデルやロック・ミュージシャン風のアーティスト写真の雰囲気とは別物でビックリ。どちらかというとおっとりしたカワイイ系のヴィジュアルだ。登場後にWindows(XPか)の起動音、終演する際に同シャットダウン音を鳴らしたりと、サブカルチャーライクな一面も見て取れた。
テイストはハウス、テクノのクラブ・ミュージックからニューウェイヴ、オルタナティヴロック、インディポップあたりを包含したエレクトロニック・ミュージックに重心を置いているようだ。ヴォーカルは強烈なヴォーカルで外へ誇示するのではなく、自身の手が届く範囲の距離感で浮遊感を帯びたソフトタッチのスウィート・ヴォイスを吐露するスタンスゆえ、2010年代後半より台頭してきたベッドルームポップを意識しているか。ただし、まったりという緩さはあまりなく、突き抜けないながらもチラリと棘やタイトなビートが見え隠れするなど、UKテイストが仄かに漂う。
ラストでは、それまで披露した楽曲とはタイプを異にする、縦ノリのダンス・ビートのよる、プログレッシヴハウスやハードコアテクノあたりを意識したような「Let me feel」を披露。ナードに佇むだけではないエッジな資質も見せたりと、柔和なルックスからは想像が難しい、なかなかに拘りもありそうな骨の強いキャラクターなのかもしれない。音楽的な伸張性もありそうな、面白い存在だと感じた。
七夕ということで、白をベースにした浴衣で登場してきたのが、天野なつ。動きも制限されるとあってか、普段のダンサーを率いて披露するようなダンサブルやアッパーな楽曲よりも、バラードやアレンジ・カヴァーなどを含む、ヴァラエティに富んだ構成でのステージに。本人いわく、浴衣については、今年は“年相応”をテーマに派手めではない大人っぽい白にしたというが、声色や表情含めて、いくらでも歌唱で雰囲気を変化させられる持ち主ゆえ、いくつ年を重ねようとも、笑顔が眩しいタイプよろしく明るくチアフルな色の衣装でもよかったのではとも思う。もちろん、白の浴衣が不似合いだったということはないが。
中盤ではアニメ『ルパン三世』のエンディング・テーマとなった、通称“峰不二子のテーマ”と呼ばれる「ラブ・スコール」やORIGINAL LOVEの代表曲「接吻」といったカヴァーや、自身の「Secret703」のレゲエ・ヴァージョンなどを披露したのだが、個人的には諸手を挙げて楽しめたかというと、首を縦に振れなかった。その要因の大きな部分の一つは、選曲だ。なかなかオリジナル楽曲が増えないなかで、カヴァー曲で彩りを変えようという試み自体は悪いとは思わない。ただ、「ラブ・スコール」にしろ「接吻」にしろ、そのほかでも、たとえば、シティポップブームに感化されて竹内まりや「プラスティック・ラブ」だの松原みき「真夜中のドア」だのを歌いたくなる気持ちは分からなくもないが、多くの他のアーティストが歌っている、言うなれば手垢のついた昔の楽曲をことさら歌う必要があるのか。カヴァーというのは入口は容易いのかもしれないが、オリジナル・アーティストがいて、さらに多くのカヴァー・アーティストがいるなかで、それを超えた、あるいは、それらに埋もれないオリジナリティに溢れるヴォーカルワークやアレンジで見せてこそ“活きてくる”のではないかと思う。これは天野だけに限らずカヴァー曲を歌うシンガー全般に言えることだが、全てのカヴァーを、森鴎外によるハンス・クリスチャン・アンデルセン『即興詩人』の日本語訳よろしく原作以上の解釈にしろとは言わないが、何か一つでも原曲や他のアーティストにない独自の色を醸し出すカヴァーでないと、外にはなかなか届いていかない。天野は「ラブ・スコール」を歌う際に「私は(この曲を)知らなかった」と言っていたので、おそらくそれ相応の上の年代の制作陣や関係者が天野に助言や進言をしたのだろうが、懐古的なセレクトで若い世代に歌わせるというのは、あまりにも安易ではないか。別に昔の楽曲が全て悪いという訳ではないが、その楽曲にある物語性をより咀嚼して表現しなければ、多くの同じようなカヴァーのなかの一曲として埋没するだけで、自身がリアルタイムで知り得なかった楽曲であれば、なおさらだ。
もちろんファンたちには(天野のファンの世代には懐かしかったり、ドンピシャな層に近いだろうから)ウケはいいのかもしれない。「Secret703」のレゲエ・ヴァージョンがアフタービートにもかかわらず、前拍でクラップをしているオーディエンスが多かったから、選曲に対してもそれほどこだわりなく、楽曲が天野の歌声で聴けることで充分に喜びを感じているのだと思う。ただ、天野もアルバム『Across The Great Divide』をリリースしてから2年、舞台女優を精力的に行なうなかでの歌手活動というところもあるが、シンガーとして次なるフェーズへ上昇するためには、そろそろ分水嶺となる時期なのかと思う。歌唱については、ステージを重ねていくたびに高音もより安定感が増すなど、元来の資質は高いものを有しているだけに、そのポテンシャルを活かせなくなってしまうことだけは避けたい。今回はダンスなしということで、目先の色を変えたカヴァーやアレンジ・ヴァージョンにチャレンジしたが、そのチャレンジの質にも拘ってもらいたかったのが、正直なところ。ノー・リスク、ノー・ゲイン(No risk, No gain)、失敗は怖いかもしれないが、恐れずに一方踏み出して、正統派ポップ・シンガーとしてもう一皮剥けた姿を見せてもらいたいと思う。
ラストは、弾き語りシンガー・ソングライターの工藤ちゃん。20代後半くらいだが、音楽活動歴は長そうで、今回の4組のなかでは色が異なるタイプ。自身も「他の人と違って、基本暗い曲かも」「ポップではないし、同じような弾き語りなので退屈しちゃうかもしれない」「最後まで残ってくれたのは(終演後に)物販があるからですかね」などとボソボソと自虐的に話すキャラクターは、なかなか個性的だ。
「あんまりないんですけど、明るめの曲やろうかなと思って、考えてるんですが……うーん、みなさんは自分の曲をすぐに思い出せたりしますか」などと腕時計を見て持ち時間(35分)を考えながら、演奏を止めてその場で考え込んだりする姿からは、かなりの場数を経験している感じが窺える。ライヴ出演数はかなりのもので、CDは会場限定作品やCD-Rなどを含めて多くの作品を発表。常に曲を作り、歌を歌い、表現を続けていないと自身が保たれない……もしかしたら、泳ぎを止めると死んでしまうマグロのシンガー・ソングライター版といったタイプなのかもしれない。
前述のように“暗い”“退屈”などと自虐していたが、多作家のようだから、楽曲のタイプも幅広いとは思う。今回は歌い上げたり、ギターを掻き鳴らすといった激しさはなく、沸々と内に宿る情感を比較的訥々と歌っている楽曲が多かった。確かにギター弾き語りだから、同期音源と比べれば寂寥な感じもあるかもしれないが、よく耳を立てて聴けば、自虐の言葉の数々が嘘のようなピュアな声色で、心情がストレートに伝わりやすいヴォーカルのよう。派手な動きはないけれども、不器用に思いの丈を走らせる姿には、揺るがない何か強い想いも垣間見えた。ルックスも垢抜けた感じではないが、おっとりした可憐なお姉さん風。イメージとしては奇抜に叫ばない鳥居みゆきみたいな感じか。平凡に見えて、何故かどこか引っ掛かる。彼女の日常から滲み出た言葉は、周波に触れた人たちにとって、気になって仕方ない訴求力を持っているのかもしれない。楽曲はどれも初めて聴いたのだが、高円寺を舞台に「工藤ちゃんて呼ばないで」と繰り返すセンチメンタルなミディアム「君のいる町」が耳に残った。そして、マイクやギターのカポタスト(弦をまとめて押さえる道具)に塗布されていたピンクの色が、彼女のアイデンティティをさりげなく主張しているようにも思えた。まったくの見当違いかもしれないが。
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<SET LIST>
《Mia Nascimento》
00 INTRODUCTION
01 Forget
02 Overture~Night
03 Night
04 kumo
05 Rainy day
06 Summer me, Winter me
07 Shake
08 New Song
《相谷レイナ》
《天野なつ》
INTRODUCTION(phrase of “Après la pluie, le beau temps” intro)
midnight
願い
LOVE SQUALL(Original by Sandra Hohn, Theme of “LUPIN THE THIRD” Part 2 a.k.a Fujiko Mine's Theme)
接吻(Reggae Remix Ver.)(Original by ORIGINAL LOVE)
Secret703(Reggae Remix Ver.)
Super Super Hero
Labyrinth Game
《工藤ちゃん》
<MEMBER>
Mia Nascimento / ミアナシメント(vo)
Reina Aitani / 相谷レイナ(vo, key, perc)
Natsu Amano / 天野なつ(vo)
Kudo chan / 工藤ちゃん(vo,g)
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【Mia Nascimentoに関する記事】
2017/11/15 MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO
2018/01/25 MILLI MILLI BAR@北参道STROBE CAFE
2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
2018/09/05 MILLI MILLI BAR@北参道ストロボカフェ
2018/10/14 Mia Nascimento with 田辺真成香@星空カフェgift
2019/01/24 Mia Nascimento@下北沢BAR?CCO
2019/03/01 LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ
2021/05/08 〈LOLIPOP〉@mona records【Mia Nascimento】
2021/05/30 Mia Nascimento @渋谷La mama
2021/09/10 Mia Nascimento / ddm @mona records
2021/10/17 Mia Nascimento / WAY WAVE @GARRET udagawa
2021/11/19 Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records
2022/01/28 Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records
2022/06/17 Mia Nascimento @mona records
2022/07/07 〈Like Sugar〉@新宿Red Cloth(本記事)
【天野なつに関する記事】
2020/01/08 〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO
2020/07/13 天野なつ『Across The Great Divide』
2020/08/07 天野なつ @タワーレコード錦糸町パルコ【インストアライヴ】
2020/08/20 天野なつ @下北沢 CLUB251
2020/11/03 天野なつ @HMV record shop 新宿ALTA【インストアライヴ】
2020/11/07 天野なつ @渋谷La.mama
2020/12/21 天野なつ @下北沢 CLUB251
2021/04/09 天野なつ ✕ WAY WAVE @下北沢CLUB251
2021/05/07 天野なつ ✕ 仮谷せいら @下北沢CLUB251
2021/10/30 天野なつ @下北沢CLUB251
2022/03/27 脇田もなり / 天野なつ @Time Out Cafe & Diner
2022/07/07 〈Like Sugar〉@新宿Red Cloth(本記事)
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