*** june typhoon tokyo ***

一十三十一 @Billboard Live TOKYO



 懐かしい“トイクラシックス“も交えた、ウィンター・アーバン・フライデーナイト。

 「アーバンしてね!」のフレーズでいざなう一十三十一恒例のビルボードライブ東京公演が、コロナウィルスの話題で世間がやきもきしているなか「花粉やらいろいろなものが舞っているなか掻い潜ってきた」多くの“一十三十一フリーク”を集めて開催。金曜の夜ということもあり、自身のアルバム『Surfbank Social Club』(2013)『Snowbank Social Club』(2014)になぞらえて〈~Friday Night Social Club~〉と冠したタイトルのもと、“金曜”にちなんだコンセプトのステージに。
 一十三十一作品のMVやヴィジュアル、衣装関連をつかさどるアートディレクター、弓削匠デザインによる青色系の生地に白のリップ柄を散りばめたドレスを着こなす一十三十一(リップ柄の“元ネタ“”は弓削の唇とのこと)をはじめ、ストライプやチェックを配した白やグレーの淡色系のジャケットやコートなどでまとめたお馴染みのバンドメンバーとともに、六本木の喧騒から僅かに逃れた東京ミッドタウンにて、スタイリッシュ&アーバンな宴を堪能した。個人的には、ビルボードライブ公演は(残念ながら昨年の前回公演は行けなかったので)2018年3月公演(記事はこちら→「一十三十一@billboard Live TOKYO」)以来の観賞になる。

 冬の季節での〈~Friday Night Social Club~〉というタイトルからは当然『Snowbank Social Club』からの楽曲を中心にセットするのかと思いきや、前述したように“金曜”を意識した楽曲にフォーカス。同じ『Social Club』シリーズといっても夏の『Surfbank Social Club』からは「LAST FRIDAY NIGHT SUMMER RAIN」、中盤では“白金”からの連想(?)とも思しき「プラチナ」や、「フライデー!」の掛け声からスタートしたそのものずばりな「フライデイ」を“懐かしい楽曲シリーズ”と題して披露したりと、近年『CITY DIVE』以降の楽曲が多い傾向にあるなかで、比較的にヴァラエティに富んだ構成となった。



 個人的なトピックは三つ。まずは、懐かしい楽曲シリーズでの「フライデイ」。2002年の1stシングル「煙色の恋人達」のカップリングで、一十三十一との初めての接点となった一十三十一クラシックスの一つ。当時は声質やルックスも含めて今ほどのエレガントやアーバンというイメージはなく、どちらかというと“ちょっと垢抜けない丸顔のbird”といった印象を持っていた記憶が(ごめんなさい)。序盤のスタイリッシュ・メロウなムードとは異にしたアシッド・ジャズ・フレイヴァに満ちたアレンジが、軽快なグルーヴを伴って上質でソフィスティケイトな音空間を創出していた。思い返してみれば「煙色の恋人達」同様に「フライデイ」もJazztronikこと野崎良太の提供曲ゆえ、洒脱なジャジィ・グルーヴとの相性の良さは当然。特に南條レオのベースラインが心地よく、無駄に微笑んでしまった。

 続いて、文字通り目を惹いたのは「DIVE」での演出。ライヴでの“掴み”となるオープナーやホットなテンションへとギアを上げるために使われたりと、近年のライヴでは定番のユーティリティな楽曲だが、イントロの演奏とともに背後のカーテンがオープン。ガラス張りの向こう側に光るネオンライトとフロアに注ぐライトが反射するなかで奏でられる「DIVE」は、まさしくアーバン・グルーヴ。“DIVE 飛び込んだ 週末が フラッシュライト 暗がりを照らしてく”という詞も“金曜”の夜を暗示しているようで、コンセプトとしても最適だ。フック後のコケティッシュなスキャットも、ラグジュアリーな大人の色香も添えていて、これぞ一十三十一ワールドといえる妙に。

 三つ目は、脇田もなり「エスパドリーユでつかまえて」のカヴァー。「昨日、新潟のテレビ局の『想い出喫茶ヒッソリー。』という番組にKASHIFくんと一緒に出たんですけど(中略)、その時に“想い出ソングカヴァー”ということで小沢健二 feat. スチャダラパー〈今夜はブギーバック〉をやったんですね。(ウワーッという観客からの声に)あ、今日はそれをやる訳じゃなくて、はい(笑)。KASHIFくんいないんで」という前フリから、「2017年の『ECSTASY』以来アルバムを出していないんですけど、2019年は近年の一十三十一史上で一番ライヴをやった年で。そろそろアルバム作らなきゃと思いながら、コラボレーションやら曲提供などがあってなかなか制作出来てないんですが、そのなかで昨夏に脇田もなりちゃんに詞を書いたんですね。その曲をカヴァーしようかなと」ということで(「みなさん、エスパドリーユって何か分かりますか? あ、そういえば、Twitterで〈一十三十一 つかまえがち〉っていうのがあったんですけど」と小ネタを挟みながら)「エスパドリーユでつかまえて」へ。



 この日の一十三十一は(近年その傾向が強いけれど)ハイトーンが出しづらいようで、序盤には声が途切れる場面も(その後に一瞬見せた「あー、なんとかならないかなぁー」という不満顔もキュートに映ってしまうから不思議)。以前に喉の手術を受けた影響は少なからずあるだろうから、ヴォーカルの質という意味では“本家”の脇田もなりの伸びやかな声の方が優れているのだが、楽曲の世界観の表現力は見事だ。口元あたりでふわっと含んだような絶妙な間が爽やかな艶となって発せられる歌い口が、楽曲のアーバンなポップネスと相乗効果をもたらし、気づくと一十三十一ワールドへと引き込まれている。

 今でも“媚薬系”との惹句でも紹介される彼女だが、以前「媚薬系とは何なのか」と考えたことがあった。正直なところ、歌唱においてはずば抜けた声圧やピッチの安定がある訳でもない彼女の歌声に惹かれるのは何故なのかと。そして、脇田もなりの歌唱を思い浮かべつつ、一十三十一版「エスパドリーユでつかまえて」を聴きながら感じたのは、非常に長けた楽曲の咀嚼力と表現の独創性ということだった。

 特に「エスパドリーユでつかまえて」は、そもそも一十三十一&Dorianコンビによる一十三十一マナーと呼ぶべき楽曲ということもあって、同曲が持ついじらしい表現の“ツボ”を的確に突いてくる。タイプは全く異なるが、音域がそれほど広くなく、どちらかといえば抑揚の波長が現れにくい平坦な歌唱タイプの安室奈美恵がおおよそのトラックを安室奈美恵マナーに仕立て上げ、趣向性を高めてしまうのと似ているのかもしれない。単に甘い香りを醸し出すだけでなく、エレガントとセクシーの襞を添うような絶妙な音像を詞世界ともに描き上げるという“マジック”が、媚薬系の本質なのだろう。それが、ホイチョイ映画のヒロインの権化ともいえるようなトレンディなシチュエーションを具現化したキャラクターとシンクロして彼女しか出せない世界観を演出し、媚薬となってリスナーやオーディエンスを虜にしてしまうのだと思う。
 メンバー紹介がてら各メンバーに話を聞いた際、南條が「それにしても今日はコーラスのところ間違えたり酷いでしょ」とコメントしたように、歌唱の質という面では間違っても最高と呼べるものではなかったが、それでも聴後感に嫌悪や不満が残らないのは、彼女が持つ“マジック”=演出力が心を引き寄せて離さないということに他ならない。



 アンコールには、こちらも懐かしいシーナ・イーストンの1981年の1stアルバム『テイク・マイ・タイム』(邦題『モダンガール』)に収録された「9-5」。ドリー・パートンとの同名異曲と区別するためにシングルの際に「モーニング・トレイン」のサブタイトルが付加された曲だ。ここでは“モーニング”らしく歌いながら目覚めの“ノビ”をする仕草などをしたりと、颯爽で軽快な曲風をキュートに披露してみせた。ラストはライヴの大定番。「最後はみんなも知ってる、踊れる曲だからねぇぇ!」とフロアの方々を指さしながら観客を煽って、「恋は思いのまま」へ。ステージを照らすカクテルのように煌めくライティングとバックの夜景の輝きが一層スタイリッシュ&アーバンな効果をもたらした、魅惑のエンディングで週末の夜の宴は幕を下ろした。

◇◇◇

<SET LIST>
01 Frozen Horizon (*Sn)
02 LAST FRIDAY NIGHT SUMMER RAIN (*Su)
03 Flash of Light (*EC)
04 プラチナ (*SS)
05 フライデイ (*36)
06 DIVE (*CD)
07 ハーバーライト (*CD) 
08 エスパドリーユでつかまえて(Original by 脇田もなり)
09 Diamond Dust (*Sn)
10 ロンリーウーマン (*MH)
≪ENCORE≫
11 9 TO 5(MORNING TRAIN)(Original by Sheena Easton)
12 恋は思いのまま (*CD)

(*36):song from album『360°』
(*SS):song from album『Synchronized Singing』
(*CD):song from album『CITY DIVE』
(*Su):song from album『Surfbank Social Club』
(*Sn):song from album『Snowbank Social Club』
(*MH):song from album『THE MEMORY HOTEL』
(*EC):song from album『ECSTASY』


<MEMBER>
一十三十一(vo)

奥田健介(g/NONA REEVES)
南條レオ(b)
冨田謙(key)
小松シゲル(ds/NONA REEVES)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)




◇◇◇

【一十三十一のライヴ観賞記事】
・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2017/08/31 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2018/03/02 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2019/07/12 一十三十一 @EBiS 303
・2020/02/21 一十三十一 @Billboard Live TOKYO(本記事)

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