インディからのリリースで、全8曲(約31分)という決してヴォリュームが多い作品ではないが、一曲それぞれにJAZZYの資質とヒット・ポテンシャルの高さが窺える。
特色は何といっても“ポスト・ビヨンセ”とでもいいたくなるようなヴォーカリゼーション。今やトップ・エンターテイナーの地位にいる本家・ビヨンセには貫禄という点では劣るのは致し方ないが、独特な揺らぎ唱法を用いたハイトーン・ヴォイスは、まろやかなビヨンセといってもいい。オープナーのミッド「Make Up」、男性ヴォーカルの吐息をサンプリング・ループさせたオリエンタルなメロディが特色の「Body」で、これらがしっかりと確認できる。
これだけだと単なるビヨンセ・フォロワーという評価でしかないが、彼女を“ポスト・ビヨンセ”と表現したのは、音楽的な振幅がしっかりとあるからだ。「Ticket」はヒップホップ・ソウル・スタイルのマイナー調ミッド・スローだが、落ち着いたヴァースから明瞭なコーラスまで、力みなくメロディへ添えていくようなヴォーカルは、メアリー・J.ブライジをも彷彿とさせる。
スリリングなストリングスのサンプリングが緊迫感を描写するのに効果的となっているマイナー調ミッド「Be With U」では、ストレートなR&Bサウンド展開にピッタリの心地良い佇まいのヴォーカルを披露している。
サウンドはメロウなムードを保ったR&B~ヒップホップ・ソウルがベース。全曲でBobbie Cheri FriffinとJazmine Baileyによるプロデューサー・チーム“The Write Chix”が絡んでおり、インパクトはそれほど大きくはないが中毒性のあるサウンドを創りあげている。奇を衒うことなく正攻法で制作したアーバンR&Bといったところか。ラスト前のミディアム・スロー・チューン「Already Knew」は、フックで上下幅が比較的大きいメロディ・ラインをみせるが、彼らの純粋な資質がそのまま表現されたコンテンポラリーなR&Bといえる。
とはいえ、サウンド・ワークの工夫はさまざまなところにみられる。そこが中毒性を生むゆえんでもあるのだが。
時間軸を失くすような悠久さが感じられる胡弓(二胡)を用いた「In Love」がその白眉だろう。メロディはいたってオーソドックスなUSマナーのR&Bだが、アコースティック・ギターと胡弓、さらにクラップ・ビートを加えることで、単なるオリエンタル風ではないノスタルジーとアーバンを行き交うような雰囲気を抽出。
美しいハープの音をバックに配したアレンジが成功したダウナー系スロー「If」も中毒性の高い一曲。ゆったりとしたグルーヴに乗る優しいJAZZYのヴォーカルが素晴らしい。どこか既聴感のあるメロディにバランスをしっかりとキープしながら耳に溶け込むヴォーカル・スタイルは、モニカあたりに近いか。
ラストは悲壮感の漂う重厚なムードで展開するミディアム・チューン「Open」。荘厳ささえ携えたサウンドにも臆することなく、そのムードをしっかり吸収し咀嚼してから体現する抑え目のヴォーカルが出色だ。
彼女のフェイヴァリットは、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)、アニタ・ベイカー(Anita Baker)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、インディア・アリー(India Arie)、アッシャー(Usher)あたりという。そして、当然のことだがビヨンセ(Beyonce)も。単純にアーバンなUSコンテンポラリーではなく、ところどころにオーガニックな雰囲気を垣間見せたりするのは、エリカ・バドゥやインディア・アリーらの影響も強いのだろう。やはり、その音楽性の振幅とバランスが素晴らしい。特に、抑え目のヴォーカルを意識して抑え目にみせないところに、その資質の高さを感じる。サウンドとヴォーカルの融合をスムースに聴かせるシンガーといえるだろう。
インディからのリリースで爆発的な注目度は浴びていないが、今後近い将来にメジャー・デビューを果たしても全く不思議ではない逸材だ。
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