煌びやかな都会の秋の夜の彩りは、エレガントなアーバン・ポップスとともに。
「今流行の“AOR”、アダルト・オリエンテッド・リゾート(Adult Oriented Resort)というテーマで今日はお届けしたいと思います」との一声から、夏が去り秋の深まりを感じる季節に合ったやや渋めのセレクトで展開した一十三十一の恒例のビルボードライブ公演。左からキーボードの冨田謙、ベースの南條レオ、サックス&フルートのヤマカミヒトミ、ドラムの小松シゲル、右手にバンドマスターでギターの奥田健介と、一十三十一のライヴを彩るに不可欠な面子に、「スペシャルゲストながらもスペシャル感がない(笑)」ほどお馴染みのKASHIFがゲストで加わっての90分。楽曲はアンコール含めて12曲と決して多くはないが、天然系というか独特のリズムと感性による彼女の、いわく「ニューヨークから帰ってきて時差ボケが直らない」ことがさらに妙な“間”と各メンバーとの惚けたやり取りに相乗効果を生んだMCによって、なかなか笑いの濃度も高い、楽しげなステージに。
サマー・サイドとウィンター・サイドの両面で構成されたコンセプチュアルなミニ・アルバム『Pacific High / Aleutian Low』、2015年のミステリアスなアーバン・ムードを湛えたアルバム『THE MEMORY HOTEL』、昨2017年のラグジュアリーなリゾート感に満ちたエキゾチックな夏アルバム『Ecstasy』という近作を軸に据え、そのなかでも秋らしくアンニュイで憂いを帯びたロマンティックな作風の楽曲を聴かせていく。
青と白のラインが重なるジャケットと蝶タイというファッションのバンドメンバーにやや遅れて、黒のタイトなワンピース姿で一十三十一がステージイン。ただ、ワンピースといっても背中は大きく、胸前と腕もシースルーが施してあるという、コケティッシュながらも暑苦しくない品あるスタイリッシュ・セクシーな衣装で観客を魅了。時にルックスやコスチュームはそのライヴの印象を左右することもあると思うが、一十三十一のそれはファッションや装飾という部分で彼女が演じるソフィスティケートな煌めきを既にイメージさせるのに大いなる効果を発揮していて、瞬時に非日常のリゾートへといざなう術となっている。
そして、すんなりとその世界観へと没頭出来るのは、この非日常のリゾートを絶妙な押し引きで作り出しているバンドメンバーの音鳴りがあってこそ。楽曲の世界観を踏まえた上での過不足ない音と胸や腰を揺らせるリッチなポップ・サウンドをさらりと鳴らす粋な演奏によって、決して声圧が高い訳ではない一十三十一のヴォーカルに陰影を刻みながら一体感を高めていく手腕は見事。あくまでも楽曲やライヴが持つコンセプトを逸脱しないムードを優先したサウンドワークながら、細やかな部分でメリハリをつけて眼前や脳裏にリゾートを浮かび上がらせるような、抜けの良さを感じさせる華やかな音こそが、フロアをアーバンな空間へともたらしている最大の要因なのかもしれない。
冒頭の「時を止めて恋が踊る」ではまだハイトーンが出づらく辛そうな感じではあったが(このあたりはポリープ手術の影響がまだあるのかもしれない)、彼女の近年の代表曲ともいえる「DIVE」や瑞々しい夏の光景が浮かぶリズミカルなポップス「Flash of Light」を歌う頃になると、その心配も杞憂に。スティールパン風の音色とゆったりとしたバックビートのリズムが避暑と黄昏をイメージさせる「Swept Away」でグッとムードを高めて前半戦を終えると、スペシャルゲストのKASHIFが登場。「ハーバーライト」の後は一十三十一いわく「いつもは〈顎が外れるから〉とか言ってなかなか歌ってくれない」KASHIFとのデュエットで「羽田まで」を。KASHIFが歌う時はプレッシャーがあってというのをいいことに無邪気に微笑みかけながら歌う一十三十一と、それを知ってか知らずかその微笑みかけに応えることもなく歌うKASHIFという図式が、トレンディドラマの青春の日々の一コマを映し出したかのようで眩しい(笑)。その前後のMCでの一十三十一とKASHIFとの掛け合いの楽しさもあって(「KASHIF君にはちょっと面白い話があって~、あ、でもコレやめとく? 時間ないから巻かなきゃダメ? あ、はい。でも、じゃあ、どうぞ」みたいなタイミングを全く読まない無茶ぶりなど。ちなみに、その話は「一十三十一と近い距離に引っ越したKASHIFが料理する際にフライパンをガンガンと五徳にぶつけながら振っていたら、ギターの音がうるさいと苦情が来る前にフライパンの音でうるさいと隣から苦情がきた、一応ミュージシャンなのに」というオチ)、余計に“自由奔放なヒロインとそれに振り回される男友達とのキャンパスライフストーリー”的な妄想も浮かんできてしまった。
哀切とメランコリックが沁みるアダルトポップス「ミステリートレイン」、ほんの僅かな気怠さとセンチメンタルが漂う「ロンリーウーマン」での味や香りが舌や鼻に残るような後を引く艶やかな歌唱でテンポダウンした後は、爽やかなラグジュアリー感で踊れる「Varadero via L.A.」で本編は幕。曲途中に投げキッスで一十三十一がステージアウトした後は、バンドメンバーがそれぞれタンボリン、タンバリン、シェイカー、カウベルなどを鳴らして、ジョイフルでリズミカルに本編のエンディングを迎えた。
その勢いに連なってさらにフロアを盛り上げたのがアンコール。「ド平日のなか、AORの世界に来てくださって、ありがとうございます」と感謝を述べた後、KASHIFも含むバンドメンバーを従えて「みんなが大好きなカヴァー曲を」との前振りから始まったのは、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」のカヴァー。背後の黒カーテンが開いて夜景が飛び込むアーバンなロケーションもムードの盛り上げに一役買うなかで、竹内まりや(山下達郎)版とはまた違った享楽と儚さが表裏一体となった歌唱を披露するこのカヴァーは、選曲の妙とともに強く印象に残る胸躍るパフォーマンスに。
ラストは「みんな踊ってもいいんだょ」とスタンディングさせてからアンコール恒例のダンス・ポップ「恋は思いのまま」へ。フロアの各エリアにキュートな笑顔を振りまきながら目配せする彼女の愛くるしさと心躍る楽曲に導かれ、刹那のアーバン・オータム・ナイトは幕を降ろした。
コンセプトとしては目新しくもない“アーバン”なポップス・ステージだが、毎年足を運ばせるのは、恥ずかしがらずにアーバン・サウンドをやり切る“こだわり”とどこまでも非日常的なリゾート感を楽しむパフォーマンスという、一見相反する要素を体現してしまう世界観のバランスに魅了されているから。下地にある軽やかなグルーヴと時を忘れさせるファンタジックでマジカルなステージングに、忘れかけていたトキメキを思い起こさせてくれる……と言ったら気障かもしれないが。
コンセプト・アルバム『Social Club』シリーズでは夏と冬を、このステージではアーバンな秋を演出してきた一十三十一。季節感を巧みに操る術や着想はどこから来るのか。そんなことを考えながら彼女のアルバムを反芻し、次のステージを心待ちにしたい。
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<SET LIST>
01 時を止めて恋が踊る (*P)
02 LONESOME AIRPORT (*S)
03 DIVE (*C)
04 Flash of Light (*E)
05 Swept Away (*E)
06 ハーバーライト (*C)(Special Guest with KASHIF)
07 羽田まで (*P)(Special Guest with KASHIF)
08 ミステリートレイン (*M)(Special Guest with KASHIF)
09 ロンリーウーマン (*M)
10 Varadero via L.A. (*E)
≪ENCORE≫
11 プラスティック・ラブ(Original by 竹内まりや)(Special Guest with KASHIF)
12 恋は思いのまま (*C)(Special Guest with KASHIF)
(*E)= song from album“Ecstasy”
(*M)= song from album“THE MEMORY HOTEL”
(*P)= song from album“Pacific High / Aleutian Low”
(*S)= song from album“Surfbank Social Club”
(*C)= song from album“CITY DIVE”
<MEMBER>
一十三十一(vo)
奥田健介(g)
南條レオ(b)
冨田謙(key)
小松シゲル(ds)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)
Special Guest:
KASHIF(g)
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【一十三十一のライヴ観賞記事】
・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2017/08/31 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2018/03/02 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2018/10/22 一十三十一@billboard Live TOKYO(本記事)
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