北海道・知床半島?つい先頃、世界遺産に登録された日本・最北の秘境。
非常に貴重な大自然に育まれた生態系が確率されている土地-。
物語はこの地方の外れで始まる-。
カイブシコリ
北の夏はもう終焉である。
すでにちらほら秋の便りが聞こえてくる時期になっていた。
夏の陽光を全身で受け、豊穣の秋に向けて、木々達も準備に勤しんでいるはずだったが…
だが今年はいつもと違っていた。
オホーツク高気圧の勢力が強く、日本全体が冷夏に襲われていたのだ。
最北の地?北海道はその影響をまともに受けてしまっていた。
“ガフッ…”
『一体どういう事だよ!』…小山のような背中で低木林をなぎ倒しながら彼は歩を進める。
もう1ヶ月近く何も食べていない。
この時期は冬眠のための栄養をつけなくてはならないのだ。
これでは待つのは“死”しかない。
木登りが得意なはずの彼が、ブナやコナラなどの広葉樹林に目もくれず、
ただただ歩を進めるのみである。
実がなっていないのだ-上を眺めても気が滅入るだけだ。
ただ、迫り来る死への恐怖と空腹による苛立ちが彼をそうさせているのだ。
彼の名はカイブシコリ。立ち上がれば2mはあろうかという立派な雄のヒグマ?。
本編の主人公である。
彼は小川のほとりに立ちすくんでいた。
いや、正確に例えるならば、彼は川の中を凝視していた。
『ちっ、なにもいやしねぇ……』
まだ鮭の遡上には早すぎた?でももしかしたら…淡い希望を抱いてはみたものの、
悲鳴を上げ、よじれてしまっている胃袋の欲求を満たす事はできそうもなかった。
「あ~あ、どうしたらいいってんだ…。」-途方にくれる。
彼の脳裏に禁断の言葉が浮かんだ。
『殺っちまうか……』-ヒグマ達の間でも禁句とされている人食いの事である。
すぐにかぶりをふり、そのどす黒い、しかし甘露のような甘い誘惑を追い払った。
「それだけはいけねぇ!」-彼は吠えた。
人食いをした奴らがどういった末路を辿っていくか、彼にはわかっていた。
母親から口が酸っぱくなるほど聞かされていたし、実際、仲間も悲惨な結果になっていた。
尾根を2つ北に行った所をテリトリーにしてた奴は、子供を食い殺して、
散々追い回された結果、殺されてしまった-去年の秋の事である。
カイブシコリはこいつの事が嫌いだったし、当時自分は食料にありつけていたから、
さほど気にもかけていなかったが……今は状況が違う。
あいつの気持ちもわかる-そう思うようになっていた。
環境の悪化、土地開発、造成の名の下に貴重な自然が破壊されていく。
元々生態系の頂点に立つヒグマが一番打撃を受けるのは必然であった。
この土地では俺は死んじまう……。
そう思い立ち、彼は知床へと向かっているのだ。
ヒグマ達の安楽の地、知床。
だがそこに向かう為には、危険が大きいのも確かだった。
天敵である人間の生活圏を掠める危険がそこにはあった。
とりあえず少しでも空腹を和らげるために、勢い良く水を飲んだ。
「ほんとどうなっちまうんだ、俺達…。」
彼らの世界が激変しようとしていた。
自分の恋人であるアンヌイリも知床に向かっているはずだし、
妊婦を食い殺したガンゼムイもそこに向かうような気がしていた。
先日、ガンゼムイに会った時、彼は以前と変わっていたからだ。
「よう!人間はいいぜ~一度食ったら病み付きになる事間違いねぇ。
もう鹿とか鮭なんか二度と食えなくなっちまうくらいだぜ。」
「おめえ…掟を破ったな?」
「掟?!、ヒャハハッ!」?ガンゼムイは森中に響き渡る声で笑った。
「そんなもん、糞の役にも立たねぇよ!こんな世の中じゃよ!」
「なにぃ?」
「考えてもみな?俺たちは食わなきゃ死んじまう。でも食えるものがどんどん
減って来てるじゃねぇか!それもこれも人間どものせいだろうが!」
カイブシコリはそう畳み込まれて、押し黙るしかなかった。
彼もそれは感じていたし、人間に対していい印象をもっていなかったからだ。
「まぁとにかくよ、もし人間を食べるなら、毛が長くて華奢な奴にしな。
脂肪たっぷりでマジうまいからよ…」
アンゼムイはそういい残して、その場を立ち去ろうとした。
カイブシコリは聞いた-「これからどこへ向かう気だ?」
一瞬考え込むそぶりを見せ、カイブシコリの方を振り返りもせずに、こう言ったのだ。
「そうだな、とりあえず逃げ切れたらあそこに行けばなんとかなんだろ……」
続く
どうでした?(^^;)
意見・要望・感想どしどし送ってくださいな!(汗)
非常に貴重な大自然に育まれた生態系が確率されている土地-。
物語はこの地方の外れで始まる-。
カイブシコリ
北の夏はもう終焉である。
すでにちらほら秋の便りが聞こえてくる時期になっていた。
夏の陽光を全身で受け、豊穣の秋に向けて、木々達も準備に勤しんでいるはずだったが…
だが今年はいつもと違っていた。
オホーツク高気圧の勢力が強く、日本全体が冷夏に襲われていたのだ。
最北の地?北海道はその影響をまともに受けてしまっていた。
“ガフッ…”
『一体どういう事だよ!』…小山のような背中で低木林をなぎ倒しながら彼は歩を進める。
もう1ヶ月近く何も食べていない。
この時期は冬眠のための栄養をつけなくてはならないのだ。
これでは待つのは“死”しかない。
木登りが得意なはずの彼が、ブナやコナラなどの広葉樹林に目もくれず、
ただただ歩を進めるのみである。
実がなっていないのだ-上を眺めても気が滅入るだけだ。
ただ、迫り来る死への恐怖と空腹による苛立ちが彼をそうさせているのだ。
彼の名はカイブシコリ。立ち上がれば2mはあろうかという立派な雄のヒグマ?。
本編の主人公である。
彼は小川のほとりに立ちすくんでいた。
いや、正確に例えるならば、彼は川の中を凝視していた。
『ちっ、なにもいやしねぇ……』
まだ鮭の遡上には早すぎた?でももしかしたら…淡い希望を抱いてはみたものの、
悲鳴を上げ、よじれてしまっている胃袋の欲求を満たす事はできそうもなかった。
「あ~あ、どうしたらいいってんだ…。」-途方にくれる。
彼の脳裏に禁断の言葉が浮かんだ。
『殺っちまうか……』-ヒグマ達の間でも禁句とされている人食いの事である。
すぐにかぶりをふり、そのどす黒い、しかし甘露のような甘い誘惑を追い払った。
「それだけはいけねぇ!」-彼は吠えた。
人食いをした奴らがどういった末路を辿っていくか、彼にはわかっていた。
母親から口が酸っぱくなるほど聞かされていたし、実際、仲間も悲惨な結果になっていた。
尾根を2つ北に行った所をテリトリーにしてた奴は、子供を食い殺して、
散々追い回された結果、殺されてしまった-去年の秋の事である。
カイブシコリはこいつの事が嫌いだったし、当時自分は食料にありつけていたから、
さほど気にもかけていなかったが……今は状況が違う。
あいつの気持ちもわかる-そう思うようになっていた。
環境の悪化、土地開発、造成の名の下に貴重な自然が破壊されていく。
元々生態系の頂点に立つヒグマが一番打撃を受けるのは必然であった。
この土地では俺は死んじまう……。
そう思い立ち、彼は知床へと向かっているのだ。
ヒグマ達の安楽の地、知床。
だがそこに向かう為には、危険が大きいのも確かだった。
天敵である人間の生活圏を掠める危険がそこにはあった。
とりあえず少しでも空腹を和らげるために、勢い良く水を飲んだ。
「ほんとどうなっちまうんだ、俺達…。」
彼らの世界が激変しようとしていた。
自分の恋人であるアンヌイリも知床に向かっているはずだし、
妊婦を食い殺したガンゼムイもそこに向かうような気がしていた。
先日、ガンゼムイに会った時、彼は以前と変わっていたからだ。
「よう!人間はいいぜ~一度食ったら病み付きになる事間違いねぇ。
もう鹿とか鮭なんか二度と食えなくなっちまうくらいだぜ。」
「おめえ…掟を破ったな?」
「掟?!、ヒャハハッ!」?ガンゼムイは森中に響き渡る声で笑った。
「そんなもん、糞の役にも立たねぇよ!こんな世の中じゃよ!」
「なにぃ?」
「考えてもみな?俺たちは食わなきゃ死んじまう。でも食えるものがどんどん
減って来てるじゃねぇか!それもこれも人間どものせいだろうが!」
カイブシコリはそう畳み込まれて、押し黙るしかなかった。
彼もそれは感じていたし、人間に対していい印象をもっていなかったからだ。
「まぁとにかくよ、もし人間を食べるなら、毛が長くて華奢な奴にしな。
脂肪たっぷりでマジうまいからよ…」
アンゼムイはそういい残して、その場を立ち去ろうとした。
カイブシコリは聞いた-「これからどこへ向かう気だ?」
一瞬考え込むそぶりを見せ、カイブシコリの方を振り返りもせずに、こう言ったのだ。
「そうだな、とりあえず逃げ切れたらあそこに行けばなんとかなんだろ……」
続く
どうでした?(^^;)
意見・要望・感想どしどし送ってくださいな!(汗)