没後40年 幻の画家 不染鉄展
暮らしを愛し、世界(コスモス)を描いた。
2017年7月1日〜8月27日
東京ステーションギャラリー
日本画の展覧会にはあまり行かない私、初めて名前を聞く画家だが、メイン・ビジュアルの「富士山」の絵が気になって、本展を訪問する。
不染鉄(ふせん てつ)(1891-1976)
《山海図絵(伊豆の追憶)》
大正14(1925)年
木下美術館蔵
でっかい画面。
白い雄大な富士山。画面の水平中央に左右対称の形をなし、裾野が広がる。
富士山の前方、画面のほぼ中央には、なぜか汽車が走る。
太平洋の海岸線。海には舟が浮かぶ。海のなかには魚が泳ぐのが見える。画面の最下部の魚、なぜこんなに大きいのだ。
富士山の後方に拡がっている雪降る漁村、何処かと思ったら、なんと日本海!の漁村とのこと。
「俯瞰と接近の相まった独特な視点でとらえ、太平洋に群れ泳ぐ魚から雄大な富士山を越えて、雪降る日本海の漁村まで、はるかに広がる本州を表した」本作品は、画家の代表作の一つとされる。
この作品には感心するばかり。
他にも印象に残る作品が多々。鳥瞰と細密の視点が組み合わさった画家の眼が創る風景。
特に昔の家並みを描いた作品(3巻の絵巻作品、奈良の町の作品など)は、そこに生活する人々も描き込んであったりして、その情感に引き込まれるし、また、夜の漁村を描いた作品は、そのほぼ黒の画面に惹かれる。チラシ裏面掲載作品以上に魅力的な作品が多々。
過去、美術館で開催された回顧展は、21年前に奈良でただ一度だけ、という。
本展は、奈良県立美術館に巡回する。
不染鉄(ふせん てつ)を、ご存じですか。
不染鉄(本名哲治、のち哲爾。鐵二とも号する)は、稀有な経歴の日本画家です。日本画を学んでいたのが、写生旅行先の伊豆大島・式根島で、なぜか漁師暮らしを始めたかと思うと、今度は京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)に入学。才能を高く評価されながら、戦後は画壇を離れ、晩年まで飄々と作画を続けました。これまで美術館で開かれた回顧展は、21年前の唯一回だけ。画業の多くは、謎に包まれてきました。
その作品も、一風変わっています。富士山や海といった日本画としては、ありふれた画題を描きながら、不染ならではの画力と何ものにもとらわれない精神によって表現された作品は、他のどの画家の絵とも異なり、鳥瞰図と細密画の要素をあわせ持った独創的な世界を作り上げています。不染は「芸術はすべて心である。芸術修行とは心をみがく事である」とし、潔白な心の持ち主にこそ、美しい絵が描けると信じて、ひたすら己の求める絵に向きあい続けました。
東京初公開となる本展では、代表作や新たに発見された作品を中心に、絵はがき、焼物など約120点を展示し、日本画家としての足跡を、改めて検証するとともに、知られざる不染鉄作品の魅力を探ります。