ルーヴル美術館展
肖像芸術-人は人をどう表現してきたか
2018年5月30日~9月3日
国立新美術館
ブルボン公爵夫人、次いでブーローニュおよびオーヴェルニュ伯爵夫人ジャンヌ・ド・ブルボン=ヴァンドーム(1465-1511)
オーヴェルニュ地方
1510-30年頃
画像 ↓
14世紀後半から16世紀にかけての西ヨーロッパでは、王侯貴族の墓碑として、「トランジ」と呼ばれる「腐敗屍骸像」が流布したという。
本展には、「トランジ(腐敗屍骸像)」彫刻が1点出品されている。
腐敗した女性の像。死後何日くらい経過した姿なのだろうか。やせ衰えて、あばら骨が浮かび出ている。体には穴があき、蛆虫または爬虫類が3匹這う。下腹部に刻まれたとぐろを巻いたようなものは、実はむき出しになった大腸を表している。左はヴェールが右は長い髪が胸に伸びているが乳首を隠すには至らない。
なんとも悪趣味な「トランジ」、当時なぜ流布したのだろうか。
以下、芸術新潮「ルーヴル美術館の秘密」2004年1月号より。
キリスト教では、肉体の腐敗は罪の証とされた。しかし、罪の証は、また告解の証ともなった。すなわち、無残な死に姿であればあるほど故人は生前罪を犯したのであり、それを半永久的な石の像として刻ませることは、罪を半永久的に告白していることになる。告解すれば罪は軽くなる、というのもカトリックの教え。
しかも、無残な墓像を前に哀れんで祈ってくれる人が多いほど故人の罪はさらに軽くなるし、祈る人自身の罪も減少する。トランジ墓像には免罪の効果もあった。だから、免罪符の発行がルターにより否定されたとき、プロテスタントのみならず、カトリックにおけるトランジ像もしだいに変貌を強いられていく。
腐敗の表現は控えめになっていく。そして、廃れる。
本作は立像。トランジ彫像=横臥像をイメージしていた私は一瞬違和感。実際、トランジは横臥像が基本であるなか、本作は現存する限り最も古いトランジ立像という特異なトランジであるようだ。
初めてトランジ彫像を実見できて嬉しく思う。
台座の上に立つ女性トランジ彫像、その顔は、我々より少し高い位置にくる。彼女が顔を傾ける方向には、百数十年後に制作された男性の墓碑大理石像《フランスのマルタ騎士団副総長アマドール・ド・ラ・ポルト(1644年パリで死没)》の大理石像が展示されている。男の肖像は間違いなく実物の何倍も盛っているだろう。その対比も面白く思う。