近代洋画の開拓者 高橋由一
2012年4月28日~6月24日
東京藝術大学大学美術館
すっかり参りました、「鮭」。
三連祭壇画。吊るされた塩鮭がまるで殉教聖人。
「鮭」は当時から高橋由一のトレードマークだったそうで、由一自身も何点か制作し、弟子作や亜流派もあるが、今回展示の三点は由一の真作と見られている作品とのこと。
真中が東京藝術大学所蔵、明治10年頃制作の重要文化財の塩鮭。
右が笠間日動美術館所蔵、支持体の板の木目がそのまま見える、明治11年あるいはそれ以降の制作と考えられている塩鮭。
左が山形美術館寄託、山形の旅館に飾られ「伊勢屋の鮭」と呼ばれた明治20年以降の制作と考えられている塩鮭。
圧巻でした。
初期の日本洋画になんとなく興味があります。由一作品はいろんな展覧会でぽつぽつ見ていますが、今回まとめて見ることのできるということで、楽しみにしていました。
構成は次のとおり。
プロローグ:由一、その画業と事業
第1章:油画以前
第2章:人物画・歴史画
第3章:名所風景画
第4章:静物画
第5章:東北風景画
東京藝術大学と金刀比羅宮の所蔵作が多いですね。あと、3階から2階への階段に、今回出品されていない作品の写真が掲示されています。
「鮭」以外に印象に残ったのは、
「花魁」(重要文化財)。モデルとなった当時24~25歳の小稲さんは、完成作を見て「私の顔はこんなんじゃない」と泣き出したとのこと。人気商売の身としては隣に展示されていた浮世絵のような顔を期待していたのでしょうか。
「丁稚姿の自画像」。図版ではよくみかける作品。ワーグマン作という説もあるのこと。
その他は、
「博物館魚譜(ドジョウ)」。3D?と一瞬思いました。
「幽冥無実之図」。円朝コレクションのひとつで、現在、全生庵所蔵の幽霊画。
「ヒポクラテス像」。昨年の府中市美術館の江戸絵画の展覧会で別の画家の制作による作品が数点展示されていました。人気の題材だったのですね。
「三偉人」。リンカーン、ビスマルク、ガリバルディ。この三人が並ぶのは違和感があります。
多数の肖像画。生気が感じられない。亡くなった親(存命の場合もありますが)の肖像画を子供が注文する、写真に基づき制作する、というパターンが多い。著名人については、お抱え外国人(キオッソーネ)の肖像画に基づく制作が目立つ。
と専ら第2章までの作品。
実は第2章の最後に登場する「花魁」と第4章の「鮭」に圧倒され、第3章や第5章の大画面の風景画(例えば「長良川鵜飼」、例えば「栗子山隧道」)等、もっと興味を引くはずの多数の作品がすっかり霞んでしまいました。
「花魁」と「鮭」。重要文化財だけあって、恐るべし。あと、京都会場のみ出品の「豆腐」は見てみたい。