聖なるもの、俗なるもの
メッケネムとドイツ初期銅版画
2016年7月9日~9月19日
国立西洋美術館
イスラエル・ファン・メッケネム(1445年頃-1503年)
15世紀後半から16世紀初頭にライン川下流域の町で活動したドイツの銅版画家。当時人気のショーンガウアーやデューラーら他の作家の作品を大量にコピーする一方、新しい試みもいち早く取り入れた。また、作品の売り出しにも戦略を駆使するなど、その旺盛な活動から生まれた作品は今日知られるだけでも500-600点あまりにのぼる。
序章
《イスラエル・ファン・メッケネムと妻イダの肖像》
大英博物館蔵
最初の展示室の、壁ではなく、中央にあるので、出品番号1の本作品から鑑賞を始めた人はきっといないだろう。
「自画像としても、夫婦のダブルポートレートとしても、銅版画では初めての現存例」としてチラシに取り上げられている本作品は、滞留ポイントとなるだろうから、壁に並べない展示は正解か。
1章 メッケネムの版画制作の展開とコピー
展示作品数:22点
・メッケネム:11点
・ベルリン受難伝の版画家:2点
・E.S.の版画家 3点
・ショーンガウアー:4点
・デューラー:1点
・フィリップス・ハレ:1点
他の版画家によるオリジナル作品とメッケネムによるそのコピー作品が原則交互に並ぶ。
画像の著作権裁判の草分けといえるデューラーのマルカントニオ・ライモンディ訴訟について、パネル解説がある。わざわざヴェネツィアまで出ていったとある。腹に据えかねたのだろう。
訴訟は、署名の複製を禁ずる判決で決着をみた。つまり、オリジナル作者の署名さえコピーしなければ、画像のコピー自体は問題ないとされたのだ。
1章のメッケネム作品を見ると、多少の細部改変はあっても、基本はオリジナルそのまま。異なるのは左右反転の作品もあることと、署名がメッケネムであることくらい。
2章 聖なるもの:キリスト教版画
展示作品数:17点
・メッケネム:16点
・Wと鍵印の版画家:1点
聖人1人(または2人)を描いた個人祈祷用と思われる版画。ここでもメッケネムのコピー作品比率は6点と高い。
3章 俗なるもの:世俗主題版画
展示作品数:15点
・メッケネム:11点
・家政書の画家:1点
・bxgのモノグラムの版画家:1点
・MZの版画家:1点
・デューラー:1点
世俗主題作品の章。
本展のメインビジュアルは世俗主題、チラシ掲載作品も半数が世俗主題。
しかし、本展出品数で見ると、世俗主題作品は15点と全体の15%ほど。やはり、当時はキリスト教主題作品の方が商売になったということか。
出品数は少ない世俗主題作品であるが、面白い。
男たちを躍らせる魔性の女
《モリスカダンス》
逆転した夫婦の力関係を描く
《ズボンをめぐる闘い》
ふいごで空気を送る妻
《オルガン弾きとその妻》
4章 物語る版画家
展示作品数:29点
・メッケネム:21点
・ショーンガウアー:5点
・デューラー:3点
本展のメイン章だろう。
メッケネムの《受難伝》連作から12点、《マリア伝》連作から6点、ユディト、サロメ、ルクレティア各1点。
比較作品として、ショーンガウアー《受難伝》5点、デューラー《大受難伝》3点。
ショーンガウアー《受難伝》は、主題に焦点を絞り、緊張感ある場面を構成しようとしている。
それに対し、メッケネム《受難伝》は、前景に主題を置きつつ、後景にもその前後あるいはサイドのストーリーを小さく描く。画面上に3程度のストーリーが展開される。キャプションの力を借りて見ていくと、なかなか興味深い。
(右奥)やめたほうがよいわよと妻から忠告されるピラト
《エッケ・ホモ(〈受難伝〉より)》
戦場の光景
《ユディト》
5章 初期銅版画とデザイン、工芸
展示作品数:21点
・メッケネム:15点
・ショーンガウアー:1点
・ゼーベルト・ベーハム:3点
・作者名なし:2点
参考出品の、2015年国立西洋美術館に寄贈されたという、オランダおよびフランスの《時禱書》を興味深く見る。
【本展の所蔵元別出品数(カッコ内はメッケネム作品)】
ミュンヘン州立版画素描館:70点(60点)
コーブルク城美術館:1点(1点)
ゲルマン国立博物館:1点(0点)
バイエルン国立博物館:1点(0点)
大英博物館:13点(8点)
国立西洋美:19点(6点)
国立西洋美術館も、メッケネム作品を結構所蔵しているのですね。本展には所蔵作品6点全てを出品。2001、2007、2008、2015年に購入。
【画家別出品数】
メッケネム:75点
ベルリン受難伝の版画家:2点
E.S.の版画家:3点
マルティン・ショーンガウアー:10点
デューラー:5点
フィリップス・ハレ:1点
Wと鍵印の版画家:1点
家政書の画家:1点
bxgのモノグラムの版画家:1点
MZの版画家:1点
ゼーベルト・ベーハム:3点
作者名なし:2点
初めて名を知る画家だが、楽しく観る。まあ正直、ショーンガウアーやデューラーはさすがだなあ、と思うこと多々ではあるが。
到着時、週末15時頃、チケット売場は窓口一つのみとはいえ、列ができている。さすが世界遺産効果、でもほとんどは常設展客だろうと思ったが、何割かは企画展チケットを購入されたらしい、ガラガラ状態では決してなく、そこそこ観客がいる。
退館時、17時過ぎ、国立西洋美術館敷地の外縁は、ポケモンGOらしき人たちに占領されている。