国立西洋美術館リニューアルオープン記念
自然と人のダイアローグ
フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで
2022年6月4日~9月11日
国立西洋美術館
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展以来、1年8か月ぶりの国立西洋美術館の企画展示室。
その施設は、リニューアル前から特に変わったところはないように見える。
ドイツ・エッセンに所在するフォルクヴァング美術館と国立西洋美術館との共同研究・共同開催による二部制の展覧会。
フォルクヴァング美術館の所蔵作品と国立西洋美術館の所蔵作品が共演し、第1部をフォルクヴァング美術館にて、第2部を国立西洋美術館にて開催する。
巡回ではなく、テーマ、展示構成や出品作を変えての2部制である。
フォルクヴァング美術館の第1部。
フォルクヴァング美術館コレクションの土台となったカール・エルンスト・オストハウス(1874〜1921)のコレクションと国立西洋美術館コレクションの土台となった松方幸次郎(1866〜1950)のコレクションの共演が主テーマであった模様。
RENOIR, MONET, GAUGUIN
Images of a Floating World
The Collections of Kojiro Matsukata and Karl Ernst Osthaus
2022年2月6日〜5月15日
フォルクヴァング美術館
国立西洋美術館の第2部。
「自然と人の対話(ダイアローグ)」から生まれた近代の芸術の展開をたどる4章構成。
1:空を流れる時間
2:〈彼方〉への旅
3:光の建築
4:天と地のあいだ、循環する時間
出品作は、フォルクヴァング美術館(寄託・貸与含む)から37点、国立西洋美術館(寄託含む)から63点、その他国内から2点の計102点。
本展に来てびっくりしたのは、写真撮影可であること。
国立西洋美術館所蔵作品もフォルクヴァング美術館所蔵作品も、寄託・貸与の作品や近年に亡くなった作家の作品を除き、撮影可。
国立西洋美術館の企画展示室において、写真撮影するのは初めての経験である。
そこで、お気に入りのフォルクヴァング美術館所蔵作品を画像とともに記載する。
5選。
ポール・ゴーガン
《扇を持つ娘》
1902年、91.9×72.9cm
1996-97年の東武美術館「フォルクヴァング美術館展」以来、26年ぶりの再会。
同展に出品された《未開の物語》《海草を集めるブルターニュの人々》、および同時期に開催された「ノートン美術館展」に出品された《ゲッセマネの園の苦悩》、これら4点がそれまでピンとこなかった私をゴーガン好きに変えてくれた、私的に思い出深い作品。
国立西洋美術館の《海辺に立つブルターニュの少女たち》と共演する。
フィンセント・ファン・ゴッホ
《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑》
1889年、59.5×72.5cm
1889年、サン・レミでの制作。
入院していた療養院の裏にある麦畑を描く。
会場内解説によると、6月に習作を制作し、9月に習作をもとに病院内で油彩を制作、本作はその油彩を母・妹のために縮小再制作したものとのこと。
6月の習作はクレラー=ミュラー美術館所蔵の油彩作品、9月の油彩はゴッホ美術館所蔵の作品であるようだ。
やれやれーー『麦刈る人』が仕上がった。これは君の家に懸けておいていい一点になるだろうと思う。ーーこれは自然という偉大な書物がわれわれに語る死のイメージだーーでも僕が追い求めようとしたのは「今にも微笑みかけようとする」さまだ。
僕は母のためにもう一度『麦刈る人』をぜひあらためて描きたいと思う。
こうしたものなら母もわかってくれるだろうという確信があるわけで、ーー実際これは田舎の暦に見られるような粗野な木版画と同じように単純なのだから。
(1889年9月5日か6日、フィンセントからテオへの手紙、みすず書房『ファン・ゴッホの手紙』)
クロード・モネ
《ルーアン大聖堂のファサード(朝霧)》
1894年、101×66cm
1892-94年に制作のルーアン大聖堂の連作30点のうちの1点。
大聖堂の西側ファザード。
東南から斜めに射し始めた陽光が、作品を描いていくうちに、アルバーヌの鐘塔のある中廊だけを照らすようになるが、バラ窓、中央入り口、彫刻、支壁といった他の部分はまだ青白い朝霧に包まれている。
国立西洋美術館の《ウォータールー橋、ロンドン》や、(以下画像なし)《チャーリング・クロス橋、ロンドン》、《セーヌ河の朝》と共演する。
マックス・リーバーマン
《ラーレンの通学路》
1898年、43.4×69.4cm
ドイツ印象派の画家リーバーマン(1847-1935)、この作品は好ましい。
朝の学校前、登校するたくさんの児童たち、右上奥では児童たちを迎え入れる先生。
地面の木漏れ日が実に好ましい。
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
《夕日の前に立つ女性》
1818年頃、22×30.5cm
ドイツ・ロマン派の巨匠、背を向ける人物の配置が印象的なフリードリヒが出品されているからには触れないわけにはいかない。
夕日の色が風景を染めるその描写を楽しむ。
その他国内からの出品作のうち、次の作品(撮影不可)の出品には驚き。
アンリ・マティス
《ニース郊外の風景》
1918年、37×45cm
姫路市美術館;國富奎三コレクション
旧松方コレクションではないか、と昨年夏にニュースとなっていた作品。
会場内のキャプションでは「旧松方コレクション」宣言をしていないが、いずれ結論が出されるのだろう(図録は見ていないが、何か記載されているかもしれない)。
1996-97年に国内7箇所(岡山、札幌、函館、名古屋、東京、熊本、千葉)を巡回した「フォルクヴァング美術館展」の充実した67点を経験した身としては、今回のフォルクヴァング美術館所蔵作品37点は、物足りない感がある。
ただ、本展は、フォルクヴァング美術館所蔵作品を引き立て役として、国立西洋美術館のコレクションの魅力、新たな楽しみ方を伝えようとしている展覧会なのではないかと思う。
(続く)