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【画像】「杉本博司 本歌取り 東下り」(渋谷区立松濤美術館)

2023年09月29日 | 展覧会(現代美術)
杉本博司 本歌取り 東下り
2023年9月16日~11月12日
渋谷区立松濤美術館
 
 
 現代美術作家の杉本博司、初めてまとまった数の作品を鑑賞する。
 
 杉本博司(1948〜)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し、2022年に姫路市立美術館でこのコンセプトのもとに「本歌取り」展として作品を集結させました。
 
 西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。
 
 
 「本歌」を意識しながら鑑賞する。
 全点撮影可。
 以下、特に鑑賞した作品を記載する。
 
 
 杉本は、織田信長が狩野永徳に描かせ、ローマ教皇グレゴリウス十三世に献上した《安土城図屏風》を長年に亘って探しているという。
 ロマンですね。どのように探しているのだろう。
 
杉本博司
《狩野永徳筆 安土城図屏風 想像屏風図 姫路城図》八曲一隻
2022年、作家蔵
 姫路の「本歌取り」展の際に撮影された「Noh Climax」の撮影場所である姫路城に早朝に足を踏み入れた杉本は、永徳の安土城図はこのような景色を描いたのではないかと想像した。
 安士城の築城から四半世紀も経たないうちに建て始められた姫路城は、おそらく同じスケール感で建てられたと考えた杉本は、《安士城図屏風》を思う縁として姫路城の姿を八曲屏風に仕立てた。
 この発想は素敵。早朝の白鷺城。永徳作品とは似ていないかもしれないけれども、美しさ・荘厳さというところは共通しているかもしれない。
 
 
 
 本展が初公開となる新作。この作品も美しい。
 
杉本博司
《富士山図屏風》六曲一双
2023年、作家蔵
 葛飾北斎《富森三十六景 凱風快晴》で描かれた「赤富士」を本歌とする。北斎の赤富士が描かれたと推測される、山梨県三ツ峠山からの富士山の姿で、現代の光は処理して消しているという。
 
 
 
 魅惑の古写真。
 
杉本博司
《フォトジェニック・ドローイング015 タルボット家の住み込み家庭教師、アメリナ・ペティ女史と考えられる人物 1840-41年頃》
2008年、ベルナール・ビュフェ美術館蔵
 イギリス出身のウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット(1800-77)が発明した、現在の写真技術の原型である「ネガ・ポジ法」。
 「カロタイプ」と名付けられたこの技術は、複製を可能としたほか、紙にプリントすることで形態の面でも利便性に富んでいたという。
 杉本は、タルボットの初期写真のネガを本歌として、ポジ(陽画)を制作する。
 本展の前期には、シリーズのうち5点が展示される(本作を除く4点が前後期で展示替え)。
 
 
 
 その特異さを改めて認識させられる。
 
杉本博司
《いろは歌(四十七文字)》
2023年、作家蔵
 10世紀末から11世紀半ばに成立したとされる「いろは歌」。
 後期は《愛飢男(四十五文字)》に展示替え予定。
 
 
 
 軸装姿となり、不気味感が増す。
 
ジャック=ファビアン・ゴーティエ・ダゴティ
《『Myologie完全版』より頭部》
《『Myologie完全版』より顔と首の筋肉》
《『Myologie完全版』より右側の顔と首の筋肉》
1745-48年、小田原文化財団蔵
 ジャック=ファビアン・ゴーティエ・ダゴティ(1711-86、フランスの解剖学者、画家、版画家)による解剖図。
 「まるで生きている人間を描いているかのような表現」、「解剖学的見地だけでなく、絵画的表現もなされている」ダゴティの解剖図。杉本は後のシュルレアリスムにおける潜在意識の本歌なのではないか、と考えている、とのこと。
 
 
 
 正月の海。
 
杉本博司
《相模湾、江之浦》
2021年1月1日、作家蔵
 
 杉本の代表作とされている「海景」シリーズは、「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのか」という問いを契機に、1980年より制作が始められたという。
 普段は船舶が行き交う海も、この日だけは杉本の記憶に残る原始の姿に戻る。
 江之浦に設立されたという「小田原文化財団 江之浦測候所」にも行って見たいもの。
 
 
 
 本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。
 作者は本歌と向き合い、理解を深めたうえで、本歌取りの決まりごとの中で本歌と比肩する、あるいはそれを超える歌を作ることが求められます。
 
 「本歌取り」は求められるレベルがおそろしく高い。


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