日産ゴーン事件における法律事務所レイサム・アンド・ワトキンス(L&W)の役割が追及を免れているというのは問題だという記事。
ゴーン氏失脚前には、ゴーン氏に役員報酬問題についてアドバイスしていたのに、ゴーン氏逮捕後、不正に関する調査を担当しているのは利益相反だといっています。
「世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W)所属の一部の弁護士らは長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言を行っていた。その中にゴーン元会長が起訴された理由の一つとなった収入の総額を隠した報酬パッケージの問題が含まれていた。
一方で、2018年にゴーン元会長の報酬問題が刑事事件の捜査対象となった際には、深刻な利益相反になるとの警告が日産取締役会に寄せられていたにも関わらず、同事務所は不正行為の調査担当に採用された。
会社によるゴーン元会長の不正行為の調査に「彼らが関与することに私は当初から懸念を抱いていた」と日産の元グローバル法務担当のラビンダ・パッシ氏は話す。パッシ氏は昨年、L&Wが日産の最善の利益のために行動していたかどうかについて疑問を呈したことで解雇されたとして、不当解雇で日産を訴えた。
「私は信じられないほど驚き、ショックを受けた。同じ弁護士が自身の関与した仕事を含む事案を調査するということがどのように思われるか。不正行為があってもおかしくない状況だった」。」
「利益相反の立場にあるとのパッシ氏の指摘にも関わらず、日産が裁判対応も含めてゴーン元会長関連の案件処理に追われる中、L&Wは同社の最上位の顧問法律事務所の地位にとどまった。」
日産や法律事務所側の反論にもふれていますが、説得力は感じられません。
ケリー氏の裁判でも、L&Wの助言内容が問題になったようです。
「L&Wの東京オフィスのパートナーである小林広樹弁護士は、3月のケリー元取締役の公判でL&Wと日産の関係を詳細に説明した。小林氏らL&Wの東京オフィスの弁護士は日産の大株主であるルノーとの契約や子会社の設立、商業上の契約まであらゆることについて助言した。それには役員報酬の案件も含まれていたという。」
ブルームバーグが確認した電子メールによると、ゴーン氏側は、L&Wの弁護士から、株主が承認して、ゴーン氏が退職前に退職金部分を受け取ったとしても、報酬開示のやり直しは不要という助言を受けていたそうです。(株主が承認して早期支払いが決まっても開示修正不要なのですから、株主が承認していない段階ではなおさら開示修正不要ということになるでしょう。)
「2018年の初頭、ゴーン元会長は、10年に報酬1億円以上の役員に関して有価証券報告書への報酬額の開示が義務づけられて以降、自主的に放棄していた収入の一部を取り戻す方法を探っていた。
ブルームバーグが確認した電子メールによると、18年7月3日、小林氏は、当時日産の法務責任者だったハリ・ナダ専務に、ゴーン元会長の退職前に退職金から元会長への報酬を支払う場合に求められる開示内容の要件について助言を行っていた。
このやり取りは、ナダ専務やケリー元取締役を介してL&Wに転送されたゴーン元会長からの質問に対する返答という形でなされた。弁護士らはまた、日産がゴーン元会長のためにブラジルやフランス、レバノンで購入した不動産物件を元会長に売却する可能性に関してもナダ専務に助言を行った。
小林氏が送信した電子メールによると、ナダ専務とケリー元取締役は、もし株主がゴーン元会長への早期の退職金支払いを承認したとしても「取締役報酬の開示をやり直す必要はない」とL&Wから伝えられたという。」
その一方で、ナダ氏には、まったく別の助言をしていたようです。
「ただ、遅くともその年の4月ごろまでには、L&Wはナダ専務に別件で助言を与えるようになっていた。事情に詳しい関係者とブルームバーグが確認した文書によると、ナダ専務は公開されない給与を用意するという刑事事件に発展する可能性がある行為について、ゴーン元会長が不利になるような情報を求めていた。
L&Wからナダ専務あてに送られたある電子メールでは、日産が有価証券報告書でゴーン元会長の報酬について完全に説明することができなかった場合、日本の当局から罰金や罰則、責任者の収監などを含めた介入を受ける可能性があることなどが説明されている。
電子メールの内容は、L&Wが日産社内の少人数のグループと仕事をしていたナダ専務に対して、金融商品取引法に違反している可能性がある報酬の支払い方法について助言を行っていたことを示している。資料によると、それらの電子メールのいくつかはナダ専務の会社のメールアドレスではなく、個人のアドレス宛てに送られていた。」
L&Wの利益相反は、他の法律事務所からも問題視され、日産に指摘されていたようです。
「少なくとも六つの法律事務所が当時パッシ氏が率いていた日産の法務部門に対し、ナダ専務とL&Wに調査の責任者を継続させることについての法的なリスクや利益相反を警告した。そのうちの一つはルノー、もう一つは日産が採用した事務所だった。
「L&Wは調査の対象となっている事実に関与しており、証人として呼ばれる可能性があることを認めていることから、独立しているとはみなされない」。日産に採用された法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーは19年1月の書簡でこのように述べた。
ゴーン元会長らの逮捕を巡る状況を精査するためにルノーに採用されたクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンは、「レイサムは日産の役員報酬問題のさまざまな側面に深く、長期にわたって関与してきた。その結果がゴーン元会長にかけられた嫌疑の基礎となっている」とした。
調査の評価のためにパッシ氏によって雇われたクリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトンと森・濱田松本法律事務所などもL&Wは刑事訴訟や内部調査の手続きから距離を置かれるべきだと警鐘を鳴らしていた。」
「元裁判官で19年に刑事手続きのアドバイス役として日産の法務部門に採用された山室恵弁護士も、L&Wが利益相反の可能性があるにも関わらずゴーン元会長の調査に関与していることに衝撃を受けたと日産の担当弁護士に伝えていたことが、19年7月の山室氏と担当弁護士らとの会合の要旨で明らかになっている。」
日産は、数百億円もの費用をかけて不正調査を行ったのだそうです。
「ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている。」
ゴーン氏の約90億円の方は、日産から1円も支出されていないわけですから、損害額は実質ゼロです。ゴーン氏が仮に不正をやっていたとすれば、彼を追い出すために何らかの費用がかかるのはしかたがないといえますが、数百億円もかけるのは合理性がないでしょう。そんなにかけないといけないというのは、そもそも追い出す理屈に無理があったからでしょう。
これもゴーン氏追放の代償なのでは...
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当サイトの関連記事(「ドバイ裁判所が日産に400億円賠償命令」について)
日産は第2四半期でこの訴訟に関し莫大な損失を計上しています。
「(車両配給契約をめぐる紛争に関連する損害賠償訴訟)
2019年7月4日、アル・ダハナは当社、当社の連結子会社である中東日産会社及び持分法適用関連会社である日産ガルフに対し、車両配給契約をめぐる紛争に関連する損害賠償訴訟をドバイ第一審裁判所に提起した。2021年9月29日には一審の判決で、当社及び中東日産会社に対し1,159,777,806.50ディルハム及びその利息の支払いを命じる決定があった。
当社は契約上の義務を完全に履行していると認識しており、この判決を不服として控訴しているが、当判決を鑑み、判決額及びその利息の合計額である38,758百万円を「販売費及び一般管理費」に計上している。」(四半期報告書より)
ブルームバーグの記事原文はジャパンタイムズで読めるようです(要無料登録)。
The lawyers who helped build — and bring down — Carlos Ghosn
日本語見出しの「カルロス・ゴーン元会長を支援し、追放に加担した」は、「カルロス・ゴーン元会長の勢力拡大(build)に荷担した(helped)一方で、引きずり下ろし(bring down)にも荷担した(helped)」といった意味でしょう。
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