会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「分配可能額」超過相次ぐ EY新日本など注意喚起 企業と監査、責任巡り食い違い(日経より)

「分配可能額」超過相次ぐ EY新日本など注意喚起 企業と監査、責任巡り食い違い(記事冒頭のみ)

大手監査法人が、配当や自己株式取得の限度となる分配可能額について、内部で注意を呼びかけているという記事。

「ニデックが会社法などで定められた「分配可能額」を超えて配当や自社株買いを実施していたことについて、大手監査法人が内部で注意を呼びかけている。ニデックが「監査法人の見落とし」に言及したためだ。ただ分配可能額は監査対象ではなく、監査業界からはどこまで確認すべきか戸惑いの声が出ている。」

ニデックのほか、パーソルHD、マーチャント、ダイヤHDで、限度超過(事前にわかったものを含む)が開示されたそうです。

新日本とあらたが、分配可能額の計算のポイントを周知したり、顧客がどのように算定しているか、確認するよう指示したりしているそうです。

会計士協会常務理事のコメント「分配可能額の計算は会社自らの責任で行うべきもので、監査人の判断対象ではない

記事では、会社法で利益処分案が監査対象から外れたことにふれています。

しかし、分配可能額は監査対象ではないというのは正しいのでしょうか。株主資本等変動計算書には、配当額や自己株式取得が表示されています。貸借対照表には、配当後の剰余金や自己株式が純資産の部に表示されています。もし、限度超過した違法な配当や自己株式取得が行われたら、それらの配当や自己株式取得は無効になるかもしれません。無効な配当や自己株式取得を財務諸表に掲載したら、虚偽表示になります。

ニデックの場合は、違法配当・自己株式取得だけれども、弁護士から意見をもらって、無効にしなかったわけですが、常にそうだとは限らないでしょう。実際、パーソルHDは、パーソルHD自体の配当ではありませんが、子会社からの配当を取り消して、単体決算を修正しています。

もちろん、「分配可能額の計算は会社自らの責任で行うべきもの」ではあり、配当や自己株式取得を事前に監査人がチェックする義務はないとは思いますが、財務諸表に配当や自己株式取得の結果が記載される以上、監査人の監査対象でしょう(少数意見かもしれませんが)。

(補足)

より一般的には、「財務諸表監査における法令の検討」という監査実務指針が、適用されるのではないでしょうか。

「12.監査人は、監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」第18項に従って、企業及び企業環境について理解する際に、以下の事項を全般的に理解しなければならない。
(1) 企業及び企業が属する産業に対して適用される法令
(2) 企業が当該法令をどのように遵守しているか(A10項参照)。

13.監査人は、財務諸表上の重要な金額及び開示の決定に直接影響を及ぼすと一般的に認識されている法令を遵守していることについて、十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない(A11項参照)。

14.監査人は、財務諸表に重要な影響を及ぼすことがあるその他の法令への違反の識別に資する以下の監査手続を実施しなければならない
(1) 企業がその他の法令を遵守しているかどうかについて、経営者及び適切な場合には監査役等へ質問をする。
(2) 関連する許認可等を行う規制当局とのやりとりを示した文書がある場合には、それを閲覧する(A13項及びA14項参照)。

15.監査人は、監査期間中、その他の監査手続の適用によって、違法行為又はその疑いに気付く場合があることに留意しなければならない(A14項参照)。」

会社法の配当規制が、13項と14項のどちらに該当するにせよ、「監査人の判断対象ではない」ということなないでしょう。

(補足2)

協会コメントの主は、常務理事ではなく、会長だったそうです。

コメント一覧

kaikeinews
おっしゃるとおり、監査範囲かどうか以前に、会社との情報交換(雑談でもいいのですが)のなかで、自己株取得を大々的にやるという話を聞いていれば、分配可能額は大丈夫ですか、というような話を監査法人からすることはできたでしょう(同時にスタッフにも指示する)。

ただ、ニデックの場合は、株主総会での発言や開示から推測すると、監査人を見下したようなところもあり、そういう意見交換をするような雰囲気ではないのかもしれません。また、自己株式取得は財務部の担当で(しかもカリスマ会長が主導していた)、経理部はかかわっていなかったようですから、仮に、経理部との間でコミュニケーションが取れていたとしても、伝わっていなかったのかもしれませんね。
元会計監査従事者
そもそも決算は会社が責任あるんだから、ことあるごとに会計士がとっつかまるのはおかしいので、業界団体が守ること自体は正しいと思います。
そういうことではなくて、社会の期待、言い換えるなら、普通の会計専門家でないサラリーマン感覚とでもいうか、これ、会計士見てくんないの、というのは、しごくまっとうとも考えるところ。企業経理部門から、最近は会計士は税務署みたいな存在だね、と耳にすることもあり、ふつうに、分配可能額くらい、経理部長と監査メンバーとの対話・雑談の過程で、広い意味での監査範囲と考えてよかろうと思ってしまうのは、世代間ギャップなのか。
ここは私の範疇、そこはあなたの範疇とか切らないで、広く決算関連相談にのりつつ、対話ある監査が、深度ある監査なのでは、と思う次第。
kaikeinews
詳細なコメントありがとうございます。

たしかに分配可能額自体は開示されませんが、剰余金の配当や自己株式取得の金額は、財務諸表に表示されています。仮に配当性向が50%とすれば、利益の50%もの金額ですから、重要性がないとはいえないでしょう。もちろん、どの程度の手続きをやるのかは、監査人の判断にかかっているのでしょうが、会計士協会役員のコメントのような「監査人の判断対象ではない」というのは間違っていると思います。

250との関係でいえば、13項は、ご指摘のとおり、税金、社会保険料、(受け取る方では)補助金、助成金などのようですから、あてはまらないのかもしれませんね。自信がありません。14項の適用範囲については、罰金や課徴金の有無で切るのは狭すぎるように思われます。違法配当があれば、罰金・課徴金がなくても、債権者から訴えられたり、取締役への責任追及のための訴訟を起こしたりと、財務諸表に影響があるでしょう。14項は、基本的には、経営者らに質問をしなさいといっているだけなので、配当に関して、そのくらいはやっても、いいのでは。(仮に13項としても、すごい労力がかかる手続きとは思えません。)

また、17項で「監査人は、識別された違法行為又はその疑いがない場合、第12項から第16項に規定された手続以外に、企業の法令遵守に関する監査手続を実施することは求められない」とされているので、全ての取引に違法性がない有効な取引であることを確かめる必要はないでしょう。例えば、自動車修理工場でゴルフボールを使ってわざと傷をつけて不正請求をしているかどうかは、違法行為やその疑いがある場合を除いて、いちいち確かめる必要はないでしょう。もちろん、通常の売上の監査の対象にはなります。
通りすがり
監査基準報告書250で例示されている法令をご覧になると、いずれにも該当しないと考えるのが穏当です。まず、分配可能額は財務諸表本体にも開示(注記)にも記載されませんので、13項には該当しません。
また、14項は、「一部の企業は、厳格な規制の対象となる産業において事業を行っているが(例えば、銀行又は化学会社)、一方で事業運営の側面において一般的に関連する法令(例えば、労働安全衛生及び雇用機会均等に関連する法令)のみが適用となる企業もある。違法行為によって、企業に罰金、課徴金、訴訟等がもたらされ、それらが財務諸表に重要な影響を及ぼすことがある。」を前提とするものであり、違法配当は罰金や課徴金を通じて、財務諸表に重要な影響を及ぼすことはありません(違法配当しても、会社には罰金等は科されない)。監査基準報告書250のA6項及びA12項に列挙されている法令と分配可能額算定に関する会社法の規定とはまったく共通点はないといえます。
ニュースコレクターさんの着眼点は慧眼というべきですが、ただ、おっしゃるようなロジックを推し進めると、会社が行う取引全部について(監査上は、もちろん、試査によるのですが)、取引が有効かどうかを確認する手続きが必要となるという解釈になるのではないでしょうか(しかし、それは、監査では通常求めないというのが前提では)。
なお、分配可能額を超えた剰余金の配当などが無効となるかどうかは会社法の解釈としては、見解が対立していて、裁判例がないため、難しい問題です。
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