会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

50億円詐欺事件の全貌 上場企業経営者らはなぜインド人金融業者に騙されたのか(NEWSポストセブンより)

50億円詐欺事件の全貌 上場企業経営者らはなぜインド人金融業者に騙されたのか

ポンジスキームに巨額資金をだましとられたとされるオウケイウェイヴ(名証ネクスト)が、調査報告書を公表したという記事。

どのような投資だったのか...

「「IPO(新規公開株)の特別枠があるので確実に儲かります」

こんなセールストークでオウケイウェイヴに投資させたのは、インド人金融業者のスニール・ジー・サドワニ氏。資本金20万円のRaging Bullという合同会社を経営する。既にRaging社は債務整理を弁護士に一任、自己破産を申請することになっており、スニール氏は「特別枠などなく運用実績も含めすべてウソだった」と、弁護士に告白している。」

「スニール氏は、1966年、横浜市に生まれた。インターナショナルスクールを経て上智大学に入学し卒業。大手証券勤務、翻訳関係のソフトウェア会社の創業と売却などを経て、10年にRaging社を立ち上げた。

多彩な経歴、豊富な人脈と、完璧な日本語を操るスニール氏の人当たりの良さで、Raging社は順調なスタートを切った。同時期、同じ金融会社のHAMABAY CAPITALを設立。大学時代からの知り合いのモハメッド・イク氏が共同代表で、イク氏にも国内外の人脈があった。

スニール、イクの両氏は、株価指数先物やオプション取引を中心業務としていたが、やがてスニール氏はオプション取引で7億円程度の損失を出すに至る。その“穴”を埋めるために、Raging社で2017年頃から「IPOの特別枠」という詐欺商法を展開するようになったという。」

(調査報告書では、Raging Bull社はZ合同会社)

約300億円ものカネが動き、そのうち少なくとも約150億円が回収不能とのことです。

会社の経営体制は...

「オウケイウェイヴは、1999年、兼元謙任氏が日本で最初のQ&Aサイトを立ち上げて創業した。現在、兼元氏は経営を退き、プロパーの福田道夫氏と野崎正徳氏が取締役を務める。代表は福田氏だ。」

(調査報告書では、福田氏はA取締役、野崎氏はB取締役、兼元氏は Q 氏(2020年にインサイダー疑惑で辞任))

投資の経緯は...

「2人は2021年3月頃、前年にメインのソリューション事業を約71億円で売却したために発生した約60億円の特別利益を、どのように運用するか頭を悩ましていた。その際、福田氏が相談を持ちかけたのが、以前、関連事業で世話になったイク氏で、イク氏からスニール氏を紹介され、野崎氏が担当することになった。

まず3億4000万円の投資が検討され、2021年4月6日の取締役会で承認された。この投資が1億5000万円の利益をもたらし4億9000万円が入金されたことから、7月14日の取締役会で10億円の投資が承認可決される。ポンジスキームにハマったわけで、金額は取締役会のたびに膨らんで、約50億円の焦げつきに至る。

報告書が注目するのは社外取締役の廣瀬光伸氏の役割だ。上場企業のAppBankを始めさまざまな業態の企業で役員を経験、オウケイウェイヴではその経歴と、暗号資産の知識を買われて、2019年9月、社外取締役に就いた。その廣瀬氏が親交を持っていたのがイク氏で、スニール氏の「IPO特別枠投資」は、オウケイウェイヴが始めるより前の2020年頃から行っていたという。

(調査報告書では、廣瀬氏は、C取締役)

社外取締役の詐欺関与が疑われましたが、調査報告書では一応否定されているそうです。

「報告書は、〈役員等の関与・認識〉のなかで、かなりの部分を割いて廣瀬氏の関与に論及している。「詐欺スキームと知って勧誘していたのではないか」という疑問からだ。廣瀬氏がスニール氏と業務顧問契約を結び、顧客紹介手数料を受け取っていたのだから当然だろう。

結論からいえば、詐欺への加担は否定している。【1】投資金の元本と利益が自身の関係口座に振り込まれると、その大半をRaging社の口座に再投資していること、【2】資金を管理しているイク氏に対して、「以前からお話ししている通りOKについては、私は利害関係者に当たりますので、そもそも紹介料を受け取れません」と、メールしていることなどから〈詐欺であると知ったうえで、やり取りしている形跡はない〉としている。」

この社外取締役もだまされた側ということでしょうか。

しかし、会社法上の義務違反は認定されています。

「問題とされたのは、廣瀬氏がオウケイウェイヴが投資をする前から個人的にRaging社と取引関係にあり、業務委託契約を結んでいた利害関係を有する取締役であったこと。その立場で廣瀬氏が、Raging社との関係を秘匿して投資への賛成議決権を行使したのは、〈(特別利害関係取締役が議決権を行使できないことを定めた)会社法369条2項に違反する行為であり、善管注意義務違反・忠実義務違反が認められる〉としている。」

調査報告書はこちらから。

(2022/6/10)調査委員会による調査報告書の受領に関するお知らせ

最初の投資を承認した取締役会のようす。



取締役の1人(金融庁の天下りの人ではない人のようです)が反対しているほか、常勤監査役が強く反対しています。しかし、その後の取締役会では、取締役全員が追加投資に賛成しています。

B取締役もだまされていたことを示す出来事もあったようです。

「BがZに赴き、本件投資スキームの説明を受けた際に、Z名義のΓ証券口座に200億円以上の残高があることを視認した(但し、それが正式なものであるかは不明。」

C取締役は、Z社から手数料を受け取っていました。

「Cは、Zの他の一般の投資家とは異なり、Zに顧客を紹介した際にZから顧客紹介料として金銭を受領していた。

すなわち、Cは、Zと顧客紹介等にかかる業務委託契約を締結し、顧客をZに紹介し投資させることで、営業支援・顧客紹介料を得ていた(資料19、資料7)。紹介料額は、Zに発生する手数料売上げの67%相当額である。」

ただし、オウケイウェイヴの投資に対する紹介料はなかったとされています。

B取締役も「本件投資に関するZとのやり取りに、会社のメールアドレス以外に、個人のメールアドレスも使用していた」といったあやしい状況はありますが、「会社に到達した時期(開示の時期)をコントロールする目的で、会社のメールに記録を残さないように留意していたから」という弁明をしています(適時開示には反すると思いますが)。

会計処理については、本決算である2021年6月期には特別利益として149百万円の投資有価証券売却益を計上(BSには残高なし)しています。その後、翌期の第1・第2の各四半期で利益を計上し、第2四半期末は1,070百万円の未収入金が残っています(その後の回収はゼロ)。第3四半期のはじめに(1月4日)、合計3,946百万円の投資を行っています(そのうちその後回収されたのは1,070百万円のみ)。さらに、2月に500百万円の追加投資を行っています。

最初は少し儲けさせて、あとから投資額を大きく増やすようにさせるというのは、まさに、詐欺の手口なのでしょう。BSに投資残高が残っていれば、会計監査人もうるさく追求するのでしょうが、最初は、BSに残らないようにしていたようです。

調査委員会は、入金額を仮受金処理するよう勧告しています。

「本調査委員会としては、本件投資がZ側で適切に運用されていたと言えないことを鑑みて、投資運用益としてオウケイウェイヴに入金された金額については、投資運用に基づく収益ではなく、Zからの仮受金として会計処理すべきであったと評価され得る。ただし、本件投資が実態を伴ったものであることが裁判等で明らかになった場合には、上記とは異なった評価となり得ることを付言しておく。」

その考え方でいくと利益への影響額は...

2021年6月期△149百万円
2022年6月期第1四半期△528
2022年6月期第2四半期(累計)△920

未確定の第3四半期(影響は最も大きい?)もこのような考え方で処理するのでしょう。

ただし、公表財務諸表に、多額の仮勘定が残るというのは異常です。要するに、中身がよくわからない収入であり、負債金額としてそれで十分なのかどうかも不明だということですから、会計監査人は、限定を付ける必要があるのではないでしょうか(仮受金だけでなく、関連するBS・PL項目全てに)。

ちなみに、インド人の会社と深い関係があったとされる取締役は辞任するそうです。

(2022/6/13)取締役の辞任に関するお知らせ
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