会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

日産ゴーン元会長の元側近に懲役2年求刑 91億円の報酬隠した罪(朝日より)

日産ゴーン元会長の元側近に懲役2年求刑 91億円の報酬隠した罪

日産ゴーン事件のケリー氏の刑事裁判で、懲役2年が求刑されたという記事。日産自動車に対しては、罰金2億円が求刑されています。

検察の主張は...

「20年9月に始まった公判で検察側は、1億円以上の報酬を得た役員とその報酬額を個別開示する制度が10年に導入されたのを機に、ゴーン元会長の高額報酬が公にならないよう、一部を開示を避けて受け取る方策が検討されたと主張した。

具体的には、元秘書室長が未払い報酬の累積額を1円単位で管理するなどした「合意文書」を作成していたと指摘。そのうえで、ケリー元役員はその支払い方法を検討し、元会長が退任後に顧問料や競合他社に行かないことへの対価といった名目で支払う「契約書」に自ら署名していたなどと説明した。」

ケリー氏の主張は...

「ケリー元役員は被告人質問で、「(元会長の報酬に)未払いがあったとは思っていない。虚偽の有価証券報告書を提出したことはない」と強調した。元会長が退任した後の処遇を記した契約書については「世界でベストな経営者の一人であるゴーンさんを、日産につなぎとめるためのものだった」とし、開示の必要のない「退任後の業務への支払い」だと語った。

検察側と司法取引した元秘書室長は証人尋問で、合意文書について「ケリーさんには記載項目を相談し、ゴーンさんが署名した後の文書も見せた。ケリーさんは未払い報酬を認識していた」と証言した。契約書も「ケリーさんの指示で作成、修正した」と述べた。

これに対し、ケリー元役員は、合意文書は「まったく見たことがない。(元秘書室長から)文書について聞いたこともない」、契約書の作成指示も「覚えていない」と反論した。」

大前提として、この隠されたとされる報酬をゴーン氏は1円も受け取っていないという事実があります。

合意文書とか契約書があるから報酬だといっていますが、役員との取引の問題ですから、そんなものがあろうがなかろうが、会社にとっては、会社法に基づいて、承認されていない限り、無効なものでしょう。無効なものですから、承認されるまでは、会社にも支払い義務はなく、会社の発生した費用でもないでしょう。当然、役員報酬としての開示義務はありません。

報道などを見る限り、そういう結論にならざるを得ないのですが、検察と仲良しの日本の裁判所の状況からすれば、これだけ大騒ぎになった事件で、無罪にする可能性は低そうです。どんな理屈で有罪にするのでしょうか。

日産 ゴーン事件 ケリー被告に懲役2年を求刑「悪質性は高い」(NHK)

「29日の裁判で検察は「元会長への未払いの報酬を別の名目で支払うため“裏報酬”の仕組みを考えていた。元会長の信頼の厚いケリー元代表取締役にしかできない役割だった」と述べました。

そのうえで「株主からの批判や失職を避けるために、高額な報酬の開示を避けつつ、報酬も減らしたくないという元会長の私欲をかなえるための犯行で、経営者を引き止めるために、会社として不正に手を染めるのは企業の在り方として論外だ。日産のガバナンスは完全に機能不全の状態だった。綿密に練り上げられた枠組みをもとに、組織的に長期間にわたって行われ悪質性は高い」として、ケリー元代表取締役に懲役2年、日産に罰金2億円を求刑しました。」

「仕組みを考えていた」だけで犯罪になるものなのでしょうか。そもそも、ゴーン氏にはこの「裏報酬」は1円も払われておらず、現時点でも、法律上支払い義務はないわけですから、費用計上し開示しなければならないような報酬はなかったと考えるべきでしょう。

検察側「ゴーン被告の私欲実現を徹底して追求」、ケリー被告に懲役2年求刑…日産には罰金2億円(読売)

「検察側は論告で「高額報酬を手放さずに開示も避けるという、ゴーン被告の私欲の実現を徹底して追求した」と述べ、ケリー被告に懲役2年、日産に罰金2億円を求刑した。」

「論告では、金額を1円単位で計算した覚書など多数の証拠を挙げた上で、ケリー被告が役員報酬の一部を「未払い分」と扱うことで開示を避けつつ、後払いする方法を構築したと指摘。」

「米国の弁護士資格を持つケリー被告について、「ゴーン被告の絶対的な信頼と法律の専門知識を併せ持ち、犯行の準備段階から主体的に関与を続け、『裏報酬』をあたかも正当に見せかけた」と主張。」

「開示を避けつつ、後払いする方法」とは、具体的にはどういう方法だったのでしょう。そういう方法を構築したといっても、実際には1円も払われていません。

また、検察がいうように「裏報酬」が正当でない違法なものなら、会社に支払い義務はなく、会社の費用ではないわけですから、役員報酬の開示対象でもないでしょう。

ゴーン被告共犯疑いのケリー被告に懲役2年求刑 法律知識悪用し、「裏報酬の仕組み支えた」(産経)

「開示を免れ、将来の受け取りを画策したとされる「未払い報酬」について、「ゴーン被告の裏報酬だった」と言及。その仕組みを支えたのがケリー被告だったとした上で、「法律知識を悪用して『裏報酬』をあたかも正当な支払いのように見せかける『裏報酬のロンダリング』を担った」と主張した。」

言葉は強いけれども、中身がないという印象です。そもそも、正当な支払いでない、支払ったら違法になるようなものであれば、会社の費用ではないでしょう。もし支払ってしまったら、返還を求めるべきでしょうし、その場合、会計上は費用ではなく、未収入金です。払っていなければ、会計上は何ら処理する必要はありません。

ゴーン元会長報酬過少記載、日産元役員に懲役2年求刑(日経)

「未払い報酬について、検察側は大沼敏明・元秘書室長(62)が管理し、ハリ・ナダ専務執行役員(57)が支払いに関する契約書類の作成に関わっており、その存在に疑いはないと主張した。

2人は捜査段階で検察と司法取引し、公判でも元役員の関与を認める証言を重ねた。大沼元室長は法廷で、未払い報酬を一覧にまとめて将来の支払いを約束したとされる合意文書を「元役員に見せた」と述べた。

一方の元役員は5月の被告人質問で「(未払い報酬が)あったと認識していない。合意文書も見ていない」と反論。弁護側は証人尋問で元室長に「(法廷での説明は)供述調書と違う」と迫り、記憶の曖昧さを際立たせることで証言の信用性の切り崩しを図った。」

検察と仲がよい会社の日本人経営者に対しては甘いようです。

【独自】関電元会長ら不起訴へ…金品受領・報酬補填巡り、証拠不十分か(読売)

「旧経営陣は▽工事発注の見返りに金品を受け取った(会社法の収賄)▽嘱託報酬は名目で、実際は減額分の 補填ほてん にあたり、関電に損害を与えた(特別背任)――などとして市民団体から告発され、特捜部が捜査していた。

関係者によると、収賄容疑に対し、八木氏らは特捜部の聴取に金品は預かっていただけと主張。贈賄側とされる森山氏が死亡していることも捜査を困難にした。特別背任容疑については、嘱託報酬の支払いを決めた当時の内部文書などを精査し、刑事責任の追及を最後まで検討した。しかし、森氏らは元役員への報酬は嘱託業務への正当な対価だと説明。これを覆す証拠が得られなかったとみられる。」

コメント一覧

きんちゃん
重要事項の虚偽記載で無ければ有報虚偽記載にはなりません。
単に有報に記載してないだけでは訂正で済む話です。
単に不記載というだけですね。
東大教授も金商法での虚偽記載と不記載は明確にわかれてると言ってます。
ウソを書くのが虚偽記載、書かないのが不記載。
単に書いてないだけでは不記載です。
検察の主張は役員報酬20億なのに10億しか書いてないという虚偽記載ですから、単に法的な意味の債務ではないけど別に10億あるというのが書いてないだけでは不記載です。

役員報酬が20億なのに10億しか書いてないというのが論点じゃないでしょうか。
退任後に別途なんらかの方法で支払う10億が存在するというだけでは、それを書かないのは単に記載漏れというだけです。
退任後に支払われるかもしれない予定の報酬では投資家の判断に影響する重要事項にはなりません。

有報には支払われた報酬と書いてあり、10億計上して10億支払ってるわけですから、そこに虚偽はありませんと、高野弁護士も動画で言ってました。
別途退任後に顧問料等で支払われる報酬があったとしても、それを記載しないのは不記載で、仮に重要事項だとしても行政処分で済む話です。
東大教授の主張はこういう事ですね。

日産は役員退職慰労金を廃止していますし、他の役員の退任後報酬も記載してませんから、そこがごっそり抜け落ちてるということです。
ゴーンさんだけの話ではありません。
それを記載する企業もあれば、記載しない企業もあるということです。
退任後報酬が役員退職慰労金だとすればメモ書きにサインしただけで確定するものではありません。
日産は役員退職慰労金制度を廃止してますから取締役会の承認が必要でしょう。
これも東大教授がどこかの記事でこのような事を書いていました。

金商法違反事件は当初から勾留延長や保釈の問題で裁判所と検察の間でギクシャクした関係にありましたから、無罪判決が出る可能性はありそうですね。
kaikeinews
法的な意味での債務はないけれども、役員報酬として費用に計上したり、開示したりすべきものはあったという理屈を立てているのかもしれませんね(裁判資料までは見ていないので断言はできません)。

例えば、あまり見ないけれども、「修繕引当金」のような...。あるいは、ゴーン氏がトップにいる状況では、支払う可能性が高かった、計上しないと費用配分がおかしくなるというような理屈です。(その場合は、ゴーン氏を追放した時点で、未払を取り崩さないとつじつまが合いませんが)

(個人的意見では、「修繕引当金」は計上すべきではないと思います。なぜなら、修繕は、修繕した以降の年度の事業活動に役立つものだから。)
きんちゃん
執行猶予でも有罪にした場合、リスクが高くないですか?
過去の日債銀事件では有報虚偽記載の有無は会計基準に照らして判断するという判例があったはずです。
会計の専門家は会計基準で考えればゴーンさんやケリーさんは無罪だと言ってますね。

有罪にした場合は日産が費用を計上した92億のゴーンさんへの支払いは有効ということになり、日産はゴーンさんに92億を支払わないといけなくなりますね。
ゴーンさんも裁判所が認めてくれたなら頂戴と日産に支払いを求めるかもしれません。
現状では日産にはゴーンさんへの債務として存在してるわけですから、支払わないと粉飾になりかねないですよね。
100億の損害賠償請求の民事裁判をやってますけど、本来はそれとこれとは別の話ですから、支払いが法的に担保されてる確定報酬なら支払えと言ってもおかしくありません。
そうなると株主は聞いてないよーって事になりますね。
92億の退任後報酬なんて承認してないよという話になって刑事事件になるかもしれませんね。
有罪なら有罪で話がややこしくなりませんか?
少なくとも役員報酬が重要事項だということになって、重要事項の虚偽記載で日産株の上場廃止とかの話が出てきたりしませんか?
有罪なら有罪で大変そうな気がしますね。
会社法や金商法含め会計基準的には無罪の案件ですよね。
kaikeinews
この裁判の論点は
・虚偽記載はあったのか

・(虚偽記載があったとして)それは刑事罰の対象となるような重大なものなのか

・(虚偽記載があり、それが重大なものだとして)ケリー氏はどの程度関与していたのか

だと思います。

会計士的には、虚偽記載があったのかどうかが最大の関心事ですが、弁護側は、虚偽記載ありと認定された場合に備えて、後の2つの論点でも、反論している(ケリー氏は共謀していないなど)のでしょう。

マスコミは、ケリー氏が関与していたかどうかという点の論争を多く取り上げており、肝心の虚偽記載があったのかどうかについては、検察側の主張をたれながしているだけのようです。
きんちゃん
なるほど、執行猶予付き有罪ですか。
そうなるとゴーンと日産の民事裁判が俄然面白くなるので、それもいいですね。
有罪判決にしろ、無罪判決にしろ、今後のゴーンの出方も楽しみなんで、まだしばらく楽しめそうですね。
kaikeinews
世界のメディアの日本への関心はさほど高くなく、また、ゴーン氏自身の裁判でもないので、おそらくあまり取り上げられないでしょう。また、虚偽記載があったのかどうかなど、どうでもいい、腹黒い金持ちがうまいこと裏取引をやったのだろうぐらいの認識が、国内外を問わず、一般的だと思います。香港の民主化運動のリーダーの裁判とは違います。

裁判所は、世界の評判を気にはするでしょうが、海外世論がゴーン氏擁護で固まっているわけではないのですから、国内事情に基づいて判決を出すのではないでしょうか。懲役2年でも、執行猶予がつくとすれば、ケリー氏も、控訴しないで、アメリカに早く帰りたいでしょう。だとすれば、第1審で有罪であれば、それが確定する可能性が高く(つまり上級裁判所でひっくり返されれるおそれが小さい)、裁判所も安心して有罪判決を出せます。

裁判官もサラリーマンですから、あえて無罪判決を出して波風を立てることはしないでしょう。
きんちゃん
世界が注目してる裁判ですから、裁判所も公平にジャッジするのではないでしょうか?
これで有罪なら日本の司法は世界から信用されませんね。
ただの計画止まりですからね。
日産がゴーンさんと競業避止契約や顧問契約をするのは違法でもなんでもありません。
その費用が役員報酬の未払い金で裏報酬だなんて言われたら、金に名前は書いてないわけですから契約そのものができなくなります。
日産はゴーンさんと競業避止契約も顧問契約もしちゃダメって事になりますよ。
現実に日産もゴーンさんに支払ってないわけですから、事件にすらなっていないですね。
裁判所が無罪判決を出す可能性はあるのではないでしょうか。
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