金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について
金融庁は、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告を、2022年12月27日に公表しました。
2022 年6月公表の「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」においては、四半期開示について、金融商品取引法上の四半期報告書(第1・第3四半期)を廃止して取引所の四半期決算短信に「一本化」する方向性が示されましたが、この具体化に向けた課題や、サステナビリティ開示に関し、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割の明確化やロードマップについて、引き続き検討することとされました。本報告書は、その検討結果をとりまとめたものです。
20ページほどの報告書です。「我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ」や、全2ページの概要がついています。
概要より、四半期開示について。これにだいたいまとまっています。
以下、四半期開示を中心に報告書より。
四半期決算短信の義務付けの有無
「日本企業の開示を巡る現状に照らすと、経営戦略の進捗状況の確認としての意義、平均的な企業の開示姿勢への懸念、開示の後退と受け取られることで日本市場全体の評価が低下するおそれ等に鑑みて、当面は、四半期決算短信を一律に義務付けることが考えられる。
その上で、将来的な四半期決算短信の任意化については、まず、企業の開示に対する意識の改善・向上や、企業が積極的に投資家へ充実した情報を提供するような市場環境の確立によって、上記の投資家からの懸念を払しょくする必要がある。このため、今後、適時開示の充実の達成状況や企業の開示姿勢の変化のほか、適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見等を踏まえた上で、四半期決算短信の任意化について幅広い観点から継続的に検討していくことが考えられる。」
適時開示の充実
(引用省略)
四半期決算短信の開示内容
「原則として速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報等)について、四半期決算短信の開示内容を追加する方向で、取引所において具体的に検討を進めることが考えられる。」
「四半期報告書において、直近の有価証券報告書の記載内容から重要な変更があった場合に開示が求められてきた事項については、当該事項が元々、有価証券報告書における記載事項であることを踏まえると、これらに重要な変更があれば、同じ金融商品取引法上の報告書である臨時報告書の提出事由とすることが考えられる。」(「重要な契約」を例に挙げています。)
四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無
「速報性の観点等から、四半期決算短信については監査人によるレビューを一律には義務付けないことが考えられる。」
「企業においてレビューを受けるかどうかは任意とするとともに、投資家への情報提供の観点からレビューの有無を四半期決算短信において開示することが考えられる。」
「例えば、会計不正が起こった場合(これに伴い、法定開示書類の提出が遅延した場合を含む)や企業の内部統制の不備が判明した場合、信頼性確保の観点から、取引所規則により一定期間、監査人によるレビューを義務付けることが考えられる。」
四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント
「適時開示を充実していく中で、投資判断における重要性が高まることとなる適時開示情報の信頼性を確保する観点から、将来的に、重要な適時開示事項(例えば、企業が公表する重要な財務情報等)を臨時報告書の提出事由とする場合には、四半期決算短信に含まれる情報も重要な適時開示事項に含め臨時報告書の提出事由とすることを検討していくことが考えられる。」
半期報告書及び中間監査のあり方
「金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業は、開示義務が残る第2四半期報告書を、同法上の半期報告書として提出することとなるが、上場企業と投資家のこれまでの実務への配慮や、半期の財務諸表に対する保証に関する国際的な整合性の観点から、上場企業の半期報告書については、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求め、提出期限を決算後 45 日以内とすることが考えられる。」
「非上場企業は、今回の四半期開示の見直し後においても、上場企業に義務付けられる半期報告書の枠組み(現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビュー、45 日以内の提出)を選択可能とすることが考えられる。」
(ということで、(現行と同じ?)中間財務諸表や中間監査も、非上場企業向けに残ることになります。本当は、中間監査を廃止して、レビューに統一し、期限も60日以内ぐらいがよいのでは。上場企業と同じ期限は厳しいかも。)
「これまで、上場企業である銀行や保険会社等(金融商品取引法における「特定事業会社」)については、単体かつ半期ベースで自己資本比率に係る規制の適用を受けており、こうした情報も重要な投資情報であると考えられるとして、第2四半期報告書において、連結ベースに加え、単体ベースの中間財務諸表の開示も求められてきた。金融商品取引法上の第1・3四半期報告書廃止後に、これらの銀行等に開示が求められることとなる半期報告書については、上場企業と同様の制度(現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と、監査人のレビュー)に見直すべきとの意見があった。しかしながら、本件については、破綻処理制度等との関連も踏まえ、金融監督上の観点から、引き続き検討していくことが必要である。」
(金融庁の中でも、銀行などの監督を担当している部門は、中間監査とレビューの違いなどは理解不能なのでしょう。)
その他の論点
会計基準・監査基準の整備
「現行の四半期報告書に記載される四半期財務諸表は、企業会計基準委員会(Accounting Standards Board of Japan: ASBJ)が設定した四半期会計基準に基づいて作成され、これに対する監査人のレビューは企業会計審議会が策定した四半期レビュー基準に準拠して行われている。これらの基準については、実務的な混乱を避ける観点から、「一本化」後の四半期決算短信や半期報告書へ適用できるようにすることが合理的との意見があった。これを踏まえ、当局、ASBJ、取引所、日本公認会計士協会などの関係者において、今回の見直しに伴う必要な対応を行うことが考えられる。」
(今後、四半期会計基準や四半期レビュー基準が見直されることになるのでしょう。内容よりは適用範囲や形式面の見直しかもしれませんが)
公衆縦覧期間の延長
「半期報告書及び臨時報告書の公衆縦覧期間については、金融商品取引法を改正し、有価証券報告書の公衆縦覧期間及び課徴金の除斥期間である5年間へ延長することが考えられる。」
「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」に関しては、国内外の動向にふれた後、「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割や開示基準の位置付け」や「サステナビリティ情報に対する保証のあり方」を議論しています。
会計士業界に影響がありそうな「保証」については...
「有価証券報告書において、我が国の開示基準に基づくサステナビリティ情報が記載される場合には、法定開示において高い信頼性を確保することに対する投資家のニーズや、国際的に保証を求める流れであることを踏まえ、将来的に、当該情報に対して保証を求めていくことが考えられる。」
「サステナビリティ情報については、その外縁が拡張し続けている中、どの範囲に対して保証を求めるかについて検討する必要がある。」
「現行では、金融商品取引法の規定により、有価証券報告書の財務諸表に対して公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられていることを踏まえると、同じ有価証券報告書のサステナビリティ情報に対して保証を求める場合には、金融商品取引法において規定することが必要になると考えられる。」
「保証の担い手については、...財務諸表の監査業務を行っている公認会計士・監査法人によって担われることが考えられる。なお、サステナビリティというテーマが広範であり、多様な専門性を必要とする領域であることを踏まえると、保証の担い手を広く確保することも重要だと考えられる。」
(監査法人は人手不足だから、担い手になりたくてもなれないのでは)
「担い手の要件については、独立性や高い専門性、品質管理体制の整備、当局による監督対象となっていることなどが考えられる。特に、保証の担い手を法制度の中で位置付けることで、保証業務の一定の品質を確保し、必要な場合にはサンクションを設けておくことや、当局の監督対象とすることが考えられる。」
(任意で保証を受ける動きについて)「今後、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の「記載欄」において、保証を受けている旨を記載する際には、投資家の投資判断を誤らせないよう、例えば、保証業務の提供者の名称、準拠した基準や枠組み、保証水準、保証業務の結果、保証業務の提供者の独立性等について明記することが重要であり、必要に応じてこのような取扱いを明確化することが考えられる。」
ロードマップについては...
「このロードマップに沿って、我が国のサステナビリティ開示基準の開発やその法定開示への取込み、サステナビリティ情報に対する保証のあり方の議論を進めるほか、サステナビリティに係る人材育成に取り組むことで、我が国におけるサステナビリティ開示の充実を着実に進めていくことが期待される。」
これのことです。
四半期開示の見直しの内容が明確に
2022年度ディスクロージャーワーキング・グループ報告(案)の概要(大和総研)
「2023年の通常国会に四半期開示の見直しの関連法案を提出することが想定されている。また、サステナビリティ情報の開示については「我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ(案)」が示され、今後これに沿って各種議論を進めていくことが期待されている。」