会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東芝、不正会計隠蔽のために社員を大量リストラしていた!(Business Journalより)

東芝、不正会計隠蔽のために社員を大量リストラしていた!

東芝粉飾事件の報道は、新しい情報がないせいか、下火になりつつあります。この記事も、すでに多くの報道で取り上げられている第三者委員会報告書を材料にしていますが、会社が粉飾を解消しようとした局面を取り上げている点では、珍しいといえます。

2015年3月期に入ってからの話です。

「実は東芝は、不正な会計操作を繰り返していた最中の昨年9月18日、パソコン事業の国内外従業員900人のリストラを発表している。対象従業員の2割に相当し、国内の営業、事務、開発部門を中心に400人を減らすというものだった。当時はアベノミクスによる景気回復の兆しが見え始め、東芝本体も14年3月期決算では営業利益、純利益ともに黒字を達成していた。世の中が上げ潮ムードにある中でのリストラ発表に驚かされたが、好業績の時に不採算部門を立て直す“攻めのリストラ”と一定の評価を得た。

 だが、この間もトップ主導による不正な会計操作が続いていたのである。もちろん、リストラされる社員はその事実を知らなかっただろう。そして調査報告書を読むと、このリストラは不正な会計操作を隠蔽するための人員削減だったという疑念が浮上してくる。」

パソコン事業における、部品取引(有償支給)による粉飾の2014年3月末の状況は・・・

「・・・見かけ上の利益かさ上げ額を東芝の関係者は「借金」と呼んでいたという。借金は13年度第4四半期には721億円に達している。この借金と本来の実力以上の利益の水増し分として解消の必要性のあるものを、「PC事業対策残」と呼んだ。」

2015年3月期に入ってからの動きは・・・

「そしてここからが、14年9月のリストラ計画に関わる部分である。14年2月、当時社長だった田中氏にPC事業対策残の洗い出しとその解消策について検討した内容が報告される。それをベースにパソコン事業のリストラ計画と一体となって検討されていくことになる。調査報告書ではその間の経緯についてこう記している。

「2014年5月20日開催の『課題事業総点検 緊急会議 PC事業第3回』において田中久雄Pなどからは『最大の優先は対策残。撤退にかかわる費用はできるだけ減らして、対策残解消額を増やしたい』との考えが示され、以後、この考え方をベースとして検討が進められ、2014年7月18日開催の第8回会議において、2014年度に502億円の損失を計上し、営業内費用として計上する450億円のうち300億円がODM部品の押し込みによる利益の嵩上げ額を減少することによる損失とされた」

つまり、このリストラ計画の最大の狙いは利益のかさ上げ額である借金の解消にあったのだ。そして報告書はこう続ける。

「2014年9月16日開催の東芝経営会議及び同月18日開催の東芝取締役会において『パソコン事業構造改革の件』として決議されたが、2014年度に計上する費用602億円のうち、営業内費用450億円は『撤退による販売及び在庫対策、生産調整、減損等』の費用と説明されたに過ぎなかった」

 取締役会が開催された9月18日に東芝はパソコン事業の立て直しを理由に900人の人員削減計画を公表する。他部門の役員が参加する経営会議や社外取締役が参加する取締役会など“表の会議”では、借金の解消という本当の狙いが隠蔽されていたのである。そして何よりの犠牲者は、不正会計操作で膨らんだ借金解消の狙いを隠して構造改革を名目にリストラされた社員だ。」

(この記述は報告書全文では231ページからです。)

記事でも断っているように、社員のリストラはいずれ必要だったのかもしれませんが、粉飾隠蔽のだしに使われた面はありそうです。

報告書を見ると、たしかに部品取引の粉飾は、2015年3月期第3四半期累計で、約300億円解消されています。

四半期報告書でどのように記述されているのかを見てみると、「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」では以下のように書かれています(第3四半期)。

「ライフスタイル部門

 パソコン事業、テレビ等の映像事業が販売地域の絞り込み等により減収になった結果、部門全体として減収になりました。

 損益面では、テレビ等の映像事業は悪化しましたが、パソコン事業は460億円の構造改革費用を除くと3四半期連続で黒字を確保しました。これらの結果、構造改革費用を除くと部門全体として改善しました。」

損失の内訳についてはふれていません。日本基準ならこういう損失は特別損失となり、ある程度内訳を開示しなければなりませんが、東芝は米国基準のため、営業費用の中で処理し、内訳も開示されていません。

少し疑問に感じるのは、460億円の構造改革費用の中身を会社はどのように説明していたのかという点です。「構造改革費用」というときに考えられるのは従業員の退職金や固定資産の減損や在庫評価損などですが、そういう正当な損失以外に、300億円ものわけのわからない損失がわいてきたら、監査人は疑問に感じて、会社を追及するはずです。東芝の場合はどうだったのでしょうか。

会計士協会の「監査提言集」では「提言概観」の一項目として「損失処理することと重要な虚偽表示リスクが解消することとは別の問題である」というのがあります(平成26年発行の版)。損を出したからそれで解決ということではないということでしょう。

監査人は、通常は、損益項目をそれ自体として、厳しく確かめるということはあまりしないのかもしれませんが、異常な取引については、よく見るべきなのでしょう。

オリンパスの粉飾事件でも、飛ばしを解消しようとして、M&A取引を利用した操作を行ったことが不正発覚のきっかけとなりました。粉飾を解消しようとしたときになって、それを発見しても手遅れではあるのですが、いったん粉飾を行うと簡単には解消できないという認識を会社に持たせることは、粉飾への抑止にはなると思われます(切羽つまれば後先考えずにやるのでしょうが)。

当サイトの関連記事(第三者委員会報告書要約版について)
その2(同上完全版について)
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