ガバナンス改善特別委員会から報告書を受領したという、日産自動車のプレスリリース。
委員会の目的は...
「今般の有価証券報告書の虚偽記載等を招いた日産のガバナンスの問題点に関する根本原因の解明を行ったうえで、日産の取締役報酬の決定プロセスの改善をはじめ、ガバナンスの改善策を提言するとともに、日産が将来にわたり世界をリードしていく企業として事業活動を行っていくための基盤となる健全なガバナンス体制の在り方を提言(以下「本提言」という。)することを目的として設置された。本委員会は、いかなる個人又は法人の犯罪事実又は法的責任の有無を追及するものではない。」
そもそも、「有価証券報告書の虚偽記載等」があったのかどうかというところから調べるべきだと思うのですが、それは会社の内部調査に依拠しているようです。事実関係を固めないで、根本原因が解明できるのでしょうか。
報告書から、ゴーン氏らの「悪事」を説明している部分。ゴーン氏とケリー氏以外に不正な行為があったかどうかについては、対象外のようです。また、具体的な金額についてもふれていません。すでに報道されているものが多いようです。
「第 1 日産のガバナンスの問題点
日産のガバナンスの問題点を検討するにあたり、本委員会が認定した主な事実は以下のとおりである。
1.ゴーン氏に対する取締役報酬及び退職後の金銭支払いの検討
・日産の取締役会決議により、ゴーン氏に対し、自身の報酬の決定も含む、取締役及びトップラインマネジメント(副社長、専務執行役員、常務執行役員及び理事を含む。)の報酬を決定する権限が一任されていた。
・ 個々の取締役及びトップラインマネジメントの報酬額については、ゴーン氏が実質的にすべて一人で決定していた。ゴーン氏が決定した個々の報酬の支払いは秘書室が担当しており、秘書室から他部署に個々の取締役及びトップラインマネジメントの報酬額に関する情報が出ることはなかった。
・ 2009 年度以降、ケリー氏が SVP(専務執行役員5)になり、CEO オフィス、アライアンス CEO オフィス、法務室、秘書室、グローバル人事などの責任者となった。同氏は、ゴーン氏の信任が最も厚い側近の一人として日産内で知られており、トップラインマネジメント以外のほぼすべての職員の報酬及び人事について決定権を持っており、契約締結を含む日産の法務事項を管轄する、最上位の責任者であった。また、ケリー氏は、監査役に対する執行側の窓口も務めていた。ケリー氏は、監査役、内部監査室、経理部等からの質問や要請に対し、対応は必要最小限にとどめ、また「CEO の決定である」と述べそれ以上の質問や追及を許さなかった。
・ ゴーン氏は、いわゆる管理部門について、ケリー氏をトップに特定少数の者に権限を集中させた。結果、一定の情報は限定された少数の者にとどめ他部署には出さないような組織が出来上がった。
・ ゴーン氏は、開示される自らの取締役報酬の金額を減らすため、自らに付与した取締役報酬の一部(以下「繰延報酬」という。)について支払時期を退任後に繰り延べるなどしてその開示をせず、その結果、2010 年 3 月期から2018 年 3 月期におけるゴーン氏の報酬総額は過少に開示されてきた。
・ 2010 年 3 月期以降、繰延報酬について、ケリー氏をはじめとする特定少数の者の間で、開示せずに支払う方法について様々な検討が行われた。退職後の報酬についても、繰延報酬相当額の支払方法の一つとして、又は退職後における別個の報酬として、支払うことが検討された。上記検討に際して作成された書面も残されており、ゴーン氏の署名が付されたものもある。
・ 退職後の処遇に関して、ゴーン氏は、グローバル人事及び法務の責任者であるケリー氏を通じて、現 CEO の署名が付された書面を取得した。
・ 2007 年に株主総会で承認された役員退職慰労金の打切支給としてゴーン氏に支払われる金額を増額するため書類の改ざんがなされた。
・ 株価連動型インセンティブ報酬の開示を避けるため報酬内容の操作や書類の改ざんがなされた。
・ ゴーン氏は、NMBV から、定められていた適正な手続を経ずに報酬等を取得した。
・ ゴーン氏は 2017 年に CEO を退任した後も、2018 年 11 月 19 日に金融商品取引法違反で逮捕されるまでの間、ないしは 2018 年 12 月 17 日に日産取締役会がゴーン氏に対する報酬決定権限の一任を取りやめるまでの間、日産の人事・報酬に関する決定権限を手放すことはなく、事実上の CEO ともいうべき重要な権限を維持し続けた。
2.ゴーン氏による会社資金・経費の私的利用
・ 2010 年、日産のエグゼクティブコミッティは、ケリー氏の提案により、オランダに投資を目的とする 100%子会社として Zi-A Capital B.V.(以下「ZiA社」という。)を設立することを承認した。ZiA 社は非連結子会社とされた。ZiA 社を使って、ゴーン氏が使用する住宅がリオデジャネイロやベイルートに購入され、その改装費用も支払われた。
・ ゴーン氏の姉に対し、長期にわたり日産から顧問料が支払われた。この事実は特定少数の者を除き、日産社内では認識されていなかった。顧問料の対価として提供された成果物は見当たらない。
・ 日産のコーポレートジェット及びチャータージェットを自身及び家族の私的用途に使用した。
・ ゴーン氏は、株式会社新生銀行とのデリバティブ取引を日産につけかえ、日産には実損が発生したが、ゴーン氏から実損分が日産に支払われた。取締役会には、上記取引の内容は開示されなかった。
3.CEO リザーブを利用した支出
・ 日産の予算管理上、各部門の予算の枠外で支出をするための「CEO リザーブ」と呼ばれる予算項目が、2009 年ころに創設された。CEO リザーブを利用していわゆる「CEO 案件」に関する、他部署が探知することが難しい形での支出が実行された。CEO リザーブは、CEO が承認したという前提がまずあって、その後、各部門から所定の手続に則った出金手続が行われた。そのため、日産社内の一部の部署は出金手続に関与しているものの、支出の適切さに疑義を述べることは事実上困難であった。
4.ケリー氏の取締役報酬
・ ケリー氏は、2013 年 3 月期から 2018 年 3 月期にかけて、日産における取締役報酬が毎年度 1 億円を超えていた。しかしながら、ケリー氏は複数の方法を用いて、報酬を開示しなかった。
(以下省略)」
ゴーン氏の報酬虚偽記載については、(総会で承認された枠内の話だと思いますが)取締役会決議で報酬決定権限が一任されていたのだから、ゴーン氏がこの金額だと決めれば、それが報酬だ(決めた金額の証拠もある)、だから、繰延部分は記載もれ(虚偽記載)だという理屈のようです。他方、「開示せずに支払う方法について様々な検討」が行われていただけで、具体的にいつどのような名目で払うということは決まっていなかったようです。
総会で承認された枠に余りがあって、報酬決定を一任された代表取締役が、余りの金額からあとでこの金額を受け取りたいという希望を紙に残していれば、会社にとっては役員報酬が発生したことになり、開示も必要ということになるのでしょうか。法律専門家に意見を聞いてみたいものです。
「退職後の処遇に関して、ゴーン氏は、グローバル人事及び法務の責任者であるケリー氏を通じて、現 CEO の署名が付された書面を取得した」というところで、西川社長が登場しています。
デリバティブ取引のつけかえについては、会社に実損が発生したが、ゴーン氏が実損分を支払ったと述べています。最終的に日産には損失は生じなかったということになります。取締役会に取引を開示していなかったというのは問題でしょう。(関連当事者取引として、外部にも開示すべきだったのでは)
「CEO リザーブ」については、内部統制的にまずいということはいえても、具体的にどの支出が不正だったのかまで特定されているのでしょうか。
ケリー氏の報酬開示については、新情報といえそうですが、具体的にどういう報酬が漏れていたのかははっきり書いていません。
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事大の騎士
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