日本の金融機関が保有する証券化商品の総額は9月末で22兆2710億円もあるのに、売却などによる実現損と評価損の合計は3兆2730億円にすぎず、棄損率(保有額に占める損失の割合)が低すぎる、時価評価が甘いのではないかと指摘している記事。
この指摘が当たっているかどうかはまったくわかりませんが、この記事の中でふれているナンピン買いについて考えてみます。
「実は、邦銀の多くが損失の表面化や処理を先延ばしているようなのだ。監督当局の検査担当者は「ナンピン買いに問題が潜んでいる」と分析する。市場価格が帳簿価格の半分になった場合、減損といって強制的に損失計上する会計ルールがある。この基準に抵触しないよう、値段が下がった商品を買い増して帳簿価格を切り下げているのではないか、というのだ。こうした価格が下がった商品を買い増すことをナンピン買いと呼ぶ。」
具体的にはABS(資産担保証券)や流動利付国債をナンピン買いしているのではないかといっています。
このうち国債はともかく、ABSはナンピン買いして減損逃れに役立つのでしょうか。時価が高いときに買ったものと時価が下落した後に買ったものの簿価を通算できなければ、単価を下げることはできません。しかし、通算できるのは、同じ銘柄だけです。別銘柄のABSをいくら買っても会計処理には関係ありませんが、まったく同じ銘柄のABSをうまく買えるものなのでしょうか。
とはいっても、たしかに上場株式など日々取り引きされている銘柄の有価証券であれば買い増しして単価を下げて減損を逃れることは可能でしょう。
これは、時価が著しく下落したときに限って減損処理するという現行の会計基準の欠陥といえます。海外の基準では、一時的でない時価の下落は損益計算書に反映させなければならず、下落率が著しいかどうかは関係ありません。いくらナンピン買いをしても、含み損の絶対額は改善されないので、無意味です(投資戦略として買い増しするのは会社の自由ですが)。
この記事で指摘しているような悪影響がでているのであれば、会計基準の方を直すべきでしょう。
もっとも現行基準でも、(減損処理したものは損益を経由してそうでないものは資本直入で)貸借対照表には時価で計上されます(満期保有債券やいわゆる時価のないものを除く)。この日経ビジネスの記事で取り上げているのは金融機関ですが、金融機関が非常に気にしている自己資本には、ナンピン買いの有無にかかわらず、時価が反映しているはずですので、大きな問題ではないともいえます。(ただし、金融庁による自己資本規制緩和の影響もあるので、一概には言えませんが・・・。)
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