先日紹介した7月25日の朝日の記事(東芝の「不適正意見」の可能性を報じたもの)には、青山学院大学の八田教授のコメントもついていました。その一部。
「--東芝の監査を担当するPwCあらた監査法人の対応をどう見る?
「限られた時間で合理的な判断プロセスを経て、入手できた証拠の範囲で意見を述べる。それが監査人としての見識と覚悟だ。PwCあらたは昨年度前半の2回の四半期決算についても、いったんは適正意見を出しながら撤回した。訴訟を恐れるあまり、責任を回避したいのではないか。仮に不適正意見を出すのなら、具体的な修正額を早く示し、東芝側の納得を得る必要がある」」
監査論の教科書的には、入手できた証拠の範囲では無限定を出せるだけの十分な証拠ではない場合、むしろ、不表明とか限定付を出すべきなのでは。「見識」とか「覚悟」といった精神論の話ではないでしょう。
もちろん、あらたが、ほかの会社の監査でも、やたらと不表明、不適正、限定付きなどの報告書を連発しているというのであれば、見識・覚悟を含め、あらた側の監査遂行能力があやしいということになりますが、そういう話はありません。
また、四半期レビューの結論を撤回したことについても批判しています。しかし、ことわざにも「過ちては改むるに憚ること勿れ」というのがありますが、監査はきわめて常識的なもので、間違っていることに気付いたら、すぐに直しなさいというのが、当たり前の対応です。あらたはその当たり前の対応をしただけでしょう。
不適正意見を出すのなら具体的な修正額を早く示すべきというコメントにも疑問があります。簿記の試験問題ではないのですから、監査人が電卓をたたく(あるいはエクセルで集計する)だけで修正額が計算できるという場合ばかりではありません。何らかの推定計算に基づき重要な虚偽表示があると判断し、不適正意見を出すような場合には、具体的な修正額は出せないでしょう。もちろん、そのような場合には、どういう方法で修正内容を把握するのか(例えば一つ下の近畿車輛の例では棚卸をやり直すという方法)について、会社と監査人がよく相談して実行すべきなのでしょうが、その合意がなされなければ、不適正意見を出すしかないでしょう。そもそも、二重責任の原則からすれば、監査人が金額を算出して「東芝側の納得を得る」のではなく、会社側から、どういう方法・根拠で決算数値を決定したのかをきちんと示して、監査人の納得をえられるよう努力すべきでしょう。(監査人からそういう偉そうなことは遠慮していわないのが普通とは思いますが)
八田氏ほどの有名な教授になると、教科書レベルをはるかに超越した境地に達しているようです。ほかの学者の意見も聞きたいところです。
当サイトの関連記事(東芝「不適正意見」説の記事について)
その2(朝日と同趣旨の毎日の記事について)
その3(2つの監査法人が対立しているという記事について)
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