会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

オリンパスの損失隠し、あずさ監査法人の賠償責任認めず 東京地裁(朝日より)

オリンパスの損失隠し、あずさ監査法人の賠償責任認めず 東京地裁

巨額粉飾事件のオリンパスの会計監査を巡って、同社株主からあずさ監査法人が訴えられていた株主代表訴訟で、株主の請求が棄却されたという記事。まだ第1審です。請求額は約2100億円でした。

「オリンパスでは2011年に過去20年にわたる損失隠しが発覚。旧経営陣らが逮捕され、金融商品取引法違反などの罪で有罪判決が確定した。金融庁は12年7月、会計監査を担当したあずさ監査法人などに「深度ある組織的な監査が行われなかった」として業務改善命令を出した。

判決はあずさ監査法人について、損失を海外のファンドにつけかえる「飛ばし」に関する取引を同社に取り消させるなどの対策をしていたと指摘。損失隠しが巧妙で複雑な仕組みだったことから「虚偽を疑うのは極めて困難で、妥当な監査を怠ったとは認められない」とした。」

金融庁と民事裁判とでは、結論が違ったようです。ついでにいえば、たしか、会計士協会も処分なしでした。

記事にはあずさ監査法人のコメントも載っています(「妥当な判決」)。ただし、監査法人のウェブサイトでは何もふれていないようです。

ちなみに、あずさ監査法人の「業務及び財産状況説明書」に記載されている計算書類(→当サイトの関連記事)では、この訴訟について、注記も何もしていないようです。必要な注記をしていなければ、監査法人の計算書類の虚偽記載でしょう。少なくとも、監査クライアントのお手本にはなりません。

新日本は東芝関連の1兆円訴訟について、偶発債務として正直に注記していましたが...(→当サイトの関連記事

監査法人への賠償請求棄却 オリンパス株主代表訴訟(東京)(共同通信配信)

「鈴木謙也裁判長は「オリンパスが構築した損失分離のスキームは組織ぐるみで、容易に把握することが困難な巧妙、複雑なものだった」と指摘。「必要十分な監査手続きが実施されたと認められる」とした。」

「株主側の弁護士は「投資家は何を信用して判断をしていいか分からなくなる」と批判した。」

金融庁、新日本・あずさに改善命令 オリンパス問題(2012年)(日経)

コメント一覧

kaikeinews
>Unknown さんへ
>敗訴や和解などで損害賠償金を支払うことになる可能性が低いと判断している場合でも、... への返信

監査法人の計算書類に直接適用されるわけではありませんが、財規58条(改正後の条文番号)の偶発債務の注記に関する規定では「重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる」とされており、おっしゃるとおり、注記がないからというだけで、会計基準に反しているとはいえないでしょうね。

重要性をどのように判断するのかは、会計基準では特に規定はないと思いますが、金額と訴訟に負けたり和解になって賠償金を支払う確率の両方を考慮するのでしょう。

2000億円という請求額は、株主代表訴訟ということで、訴訟費用が少なくて済むという事情があり、その金額が認められる可能性は限りなく低いとはいえそうですが、監査法人が数億円の賠償金を支払った事例は過去にもいくつかあるようです。数億円としても、あずさにとってそれなりに重要な金額といえそうです。

確率については、巨額の虚偽記載があったこと自体は認められており、監査の不備についても、金融庁処分により証明されているとみることもできるので、無視できるほど低いとも思えません。

以上から、この訴訟が重要性が乏しいともいえないように思われます。

もちろん、あずさやその監査人は、敗訴の確率について、弁護士などに相談しているはずで、そのうえで、確率が低い、したがって重要性が乏しいと判断したのかもしれません。

そのような検討を行ったのかどうかや、その判断が妥当なのかどうかは、外部からはわからないのですが、新日本が同様の訴訟で注記を行っていることとの比較において、興味深いと感じました。
kaikeinews
>通りすがり さんへ
>(続き) 日本公認会計士協会は、一般論として、金融庁が処分していない事案で、多く... への返信

当時は久々の大型粉飾だったので、金融庁もスケープゴートが必要だったのでしょうね。飛ばしがまん延していたことは、金融庁やその前身の官庁は、金融機関の検査などで把握していたのに、飛ばしを手伝っていた外資系などへの監督が甘く、また、事業会社や監査法人には何の注意喚起もしなかったわけですから、本来は金融庁の責任も重かったはずです。

あずさも、会社がバブル崩壊時に金融商品の巨額含み損を抱えていたことは知っていたわけで、その後の経緯を毎年丁寧に追っていれば、どこか(なぜか表面的には含み損が消えてしまった時点)で粉飾に気付いていてもおかしくはありません。また、巨額含み損を解消するための異常なM&A取引にも気付いていて、会社と交渉したりしているわけですから、責任が全くないわけではないでしょう。

もちろん、協会のプロによる調査結果を尊重しないわけではありませんが...

ネットで検索すると、こういう論文もありました。
https://www.o-hara.ac.jp/grad/storage/uploads/ckeditor/nenpo07_2_1653227814.pdf

あずさの監査に対してけっこう批判的です。
Unknown
敗訴や和解などで損害賠償金を支払うことになる可能性が低いと判断している場合でも、会計基準上は注記が義務付けられますか?
可能性が高く、かつ金額を合理的に見積もれれば引き当て、可能性が中ぐらいならば注記、可能性が低ければ注記は不要ではないでしょうか。
通りすがり
(続き) 日本公認会計士協会は、一般論として、金融庁が処分していない事案で、多くの処分をしているという事実からすると、本件では、監査のプロの目からも懲戒処分事由が見当たらなかったと判断された以上、原告(及びその訴訟代理人)が監査法人に監査上の失敗があったことを裏付けるような証拠を示すことは難しいのではないかと思います。
通りすがり
この原告は、後任監査人に対しては代表訴訟を提起していないのでしょうかね。
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