経営者の危機管理と第三者委(記事冒頭のみ)
企業不祥事発生時の多額の調査費用や監査費用を問題にしたコラム記事。
「企業の不祥事が発生すると、第三者委員会を設置し事実が解明される。特に不正会計が疑われる場合、監査法人と会社側の見解が異なることから第三者による検証が必要になる。しかし最近は過大ともいえる調査費用が問題視されている。」
エネチェンジの例を挙げています。
「売上高が数十億円、利益がほとんどないにもかかわらず、監査法人と第三者委員会の報酬が約10億円に上った。また監査法人が第三者委員会の設置を求めたにもかかわらず、最終的にその意見を採用しない異例の事態となった。」
報酬が計10億円に上ったというのは正しいようですが、第三者委員会の報告書をもう一度見てみると、そもそも、会計処理については、報告書が出る前に監査法人と会社との間で決着がついており(報告書(概要版でない方)1ページ)、第三者委員会の調査対象も、「本件会計処理の適否を直接の調査対象とするものではない」とされています(報告書(概要版でない方)2ページ注)。したがって、調査報告書は、会計処理に関して、虚偽表示があったともなかったとも述べていません(監査法人が会計処理に関して報告書の意見を採用するもしないもない)。
ただ、監査報告書のKAMをみると、調査報告書の「経営者による不正は認められない」との結論に納得せず、「財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リ スクがあるものと判断」して、監査手続を決めたようです(そうなると手続の範囲が広くなったりして監査費用は増える)。監査手続を決定するのは、監査人の責任ですから、第三者委員会の見解は、そもそも参考程度のものだったともいえます。それなら、コラムの後の方で言っているように、監査法人と会社とで解決すればよかったのかもしれません。
それはともかく、たしかに、10億円というのは、会社の規模や、問題となった取引の規模からして、大きすぎるような気もします。しかし、おそらくぼったくっているわけではなく、実際に行った作業のコストを積み上げていくと、こうなってしまうのでしょう。
「この事例は、第三者委員会の存在意義やコストの妥当性に疑問を投げかけた。監査法人と会社側で直接解決すべきだったという意見もある。」
報告書により、エネチェンジの第三者委員会の構成を見てみると...(報告書2ページより)
大手監査法人系と法律事務所というよくありそうなチームです。
コラムの結論は...
「平時から専門家との関係を構築し、有事に不必要なコストをかけずに第三者委員会を運営できる体制を整えることも、経営者のリスクマネジメントとして重要な課題のひとつである。」
一般論としては間違ってはいないのでしょうが、そもそも、有事が起きる可能性を低くするよう、平時からある程度コストをかけて(専門家との関係も構築しながら)内部統制などを整備してほしいものです。また、エネチェンジの場合は、経営者そのものが不祥事の震源地だったわけですから、このアドバイスは当てはまらないでしょう。
ペンネーム(小五郎)からすると、こちらの日経コラムの記事も同じ筆者のようです。
監査法人と企業の仲裁機関を(2024年5月11日)(日経)(記事冒頭のみ)
どの会社とは言っていませんが...
「最近問題になっているのが、企業が決算報告を確定させる直前に会計処理上の疑義をめぐって監査法人と見解が対立するケースだ。新興企業などで相次いでいる。」
「注意したいのはこうした時、監査法人には責任回避の動機が強く働いている。監査意見を盾に取り、時には調査などに巨額な費用をかけさせたり、不合理な要求までして「不正の証拠探し」をしたりすることもあり得る。」