大和ハウス工業が退職給付債務を計算する際の割引率の引き上げで、大きな利益を計上するという記事。
「大和ハウス工業は13日、市場金利の変動を受けて退職給付債務の割引率を引き上げた結果、2023年3月期に数理計算上の差異812億円が発生すると発表した。」
同社は、数理計算上の差異を発生年度に一括処理しているそうです(普通は複数年で償却)。
どのくらい引き上げたのか...
「同社が割引率の参考にする社債利回りの上昇を受け、割引率を22年3月期の0.8%から1.5%に引き上げたため、退職給付債務が減った。」
ただし、年金資産の運用実績も含めて集計中とのことです。年金資産には債券が多く含まれているでしょうから、市場金利上昇による債券の値下がり(年金資産の時価の下落)の影響があるでしょう。
同社プレスリリース。これまでの経緯も詳しく書かれています。
退職給付に関する割引率見直しに伴う数理計算上の差異(営業利益)の発生について(PDFファイル)
同社は、2003 年3月期に一括処理に変更したそうです。2023年3月期は、会計方針の変更も検討したそうですが、結局、一括処理を継続したそうです。
「退職給付会計における数理差異の費用処理方法については、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第 26 号)24 項において「原則として各期の発生額について、予想される退職時から現在までの期間(以下「平均残存勤務期間」という。)以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する」と定められており、いわゆる「遅延認識」が認められております。
当社グループにおいても、退職給付会計基準が初めて適用となった 2001 年3月期以降、遅延認識(主として 10 年)を行っておりましたが、2003 年3月期において、株式市場の下落等の影響を受けた年金資産の運用成績の悪化や金利市場の動向を受けた割引率の見直しを行った際に、これらによる多額の未認識数理差異(816 億円の債務)が将来の相当期間にわたって分割で認識されることは財務上の健全性を著しく損なう可能性がある事から、新たな年金制度への移行、退職金及び年金制度の大幅な改定、年金資産運用方針の抜本的な見直し等を実施したことに合わせて、従前より採用していた「遅延認識」から発生年度に一括処理をする方法に変更いたしました。
変更を行った 2003 年3月期以降は、数理差異は発生期における一括処理を継続して行っており、2016 年3月期においては、マイナス金利導入等の金融政策の変更を受けた割引率見直しに伴う数理差異の発生による影響額 849 億円を特別損失として計上しております。」
会計方針変更の検討について。利益の計上区分も検討したそうです。
「現在では、当社グループの退職給付債務の残高は 6,796 億円、年金資産の額は 4,858 億円(いずれも 2022年3月末現在)に達しており、退職給付債務の計算に用いる基礎率の変動の影響や年金資産の運用環境の変化が、発生期の財務諸表に与える影響が大きくなってきている中、今回の割引率変更による多額の数理差異(営業利益)の発生を受け、改めて数理差異の処理方法について、会計監査人と協議を行いました。
まず、当該数理差異が当期及び将来に渡りキャッシュフローを伴わないこと、当期の費用は減額になるものの、将来の費用が増加するため発生時に一括処理(費用の減額)を行うことは投資家の誤った投資判断に繋がり得ることなどから、会計方針を変更し、数理差異の償却方法を遅延認識に変更することについて検討いたしましたが、会計方針の変更には合理的な理由(新たな事象の発生、適時性等)が必要であるところ、今回の割引率変更による数理差異の発生は新たな事象ではなく、金額的影響が大きいことのみを理由に会計方針を変更することは適切ではないとの判断に至りました。
また、当該数理差異の発生要因が政策の変更による市場金利の変動に起因するものであり、当社の事業活動の成果ではないこと、退職給付に関する会計基準 第 28 項には「退職給付費用については、原則として売上原価又は販売費及び一般管理費に計上する。ただし、新たに退職給付制度を採用したとき又は給付水準の重要な改訂を行ったときに発生する過去勤務費用を発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額が重要であると認められるときには、当該金額を特別損益として計上することができる」との記載があり、発生した数理差異が臨時かつ巨額な場合には特別損益での表示が認められていると考えられ、実際に 2016 年3月期においては同様の原因による数理差異を特別損失で計上している点などを踏まえ、今回の数理差異を特別利益で表示することを検討いたしましたが、数理差異も含めた広義の退職給付費用は長期的には人件費の一部を構成していること、将来の営業費用が増加することから今回の数理差異を営業費用の減額として表示することが通算の営業損益を適切に表示することなどから、営業利益(営業費用の減額)として表示することが適切との判断に至りました。
以上を踏まえ、今回発生した数理差異を一括処理の上、2023 年3月期の営業利益(営業費用の減額)として処理することといたしました。」
過去2回大きな差異が出たときは特別損失で、今回は営業利益というのは、会計方針が継続していないようにも思われますが、今回が臨時的なものだとはかぎらない(来年はさらに金利が上がるかもしれない)ので(そのほかプレスリリースでいっている理由もあるので)、営業損益が間違いともいえないのでしょう。
(補足)
10年以上前のものですが、会計士協会から、このような会計方針変更について、注意喚起の文書が出ています。(その後も出ているかもしれません。)
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当サイトの関連記事(2010年)
プレスリリースでふれている2016年3月期の会計処理について。
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当サイトの関連記事(2016年)
ちなみに同社は2020年に会計監査人が交代しています。今の監査人は、2016年3月期の会計処理(計上区分)との整合性をあまり気にしなくてもよかったのでしょう。
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当サイトの関連記事(2020年)