(少し前のものですが)米国のSPAC(特別目的買収会社)について、当局の規制強化の動きが始まっているという短い解説記事。会計処理についてもふれています。
「4月12日に米証券取引委員会(SEC)は、SPACが投資家に付与するワラント(新株引受権)への会計ルールの適用を変更し、新たに負債とみなす可能性がある、とするガイダンスを出した。」
「SPACには、未公開企業への投資の経験が豊富な投資家(スポンサー)と一般投資家が出資する。そしてスポンサーにはワラント、一般投資家には株式とワラントの組み合わせ(ユニット)が付与される。一般投資家は、SPACの株価が上昇すると、その株式を売却して利益を得ることができる。さらに、ワラント(新株引受権)では、固定価格で株式を買い取る権利が付与されることから、SPACの株価上昇のメリットを2重に享受できる仕組みとなっている。
SECは、このようにSPACが初期投資家に付与するワラント(新株引受権)を会計上の負債と見なす可能性がある、とのガイダンスを示したのである。ワラントは資本性金融商品と見なすのが今までの慣行だったため、このガイダンスは、業界に大きな衝撃をもたらしたのである。ワラントが新たに負債と見なせば、財務を悪化させる要因になる。」
今後の動きは...
「ブルームバーグ社によると、今回の会計ルール変更のガイダンスはSPACブームに明確に水を差しているという。既に始まっていた一部の合併案件は続いているものの、SPACによるIPOは停止状態にあるという。SECが次にどのような規制強化を見せてくるか、しばらくは様子を見ているという側面もあるのだろう。SECの規制強化の匙加減次第では、SPACのブームが終焉を迎える可能性もあるのではないか。」
SECが公表した文書(上記解説記事でふれているのとは別)。会計処理だけでなく、非上場会社が通常のIPOと比べて短期間で上場されることの問題点や、内部統制、ガバナンス、会計監査などについてもふれています。
↓
Financial Reporting and Auditing Considerations of Companies Merging with SPACs(2021年3月)(SEC)
その後4月に出されたもの(上記解説記事でいっているのはたぶんこれでしょう)。ワラントの会計処理についてより詳しく書いているようです。
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Staff Statement on Accounting and Reporting Considerations for Warrants Issued by Special Purpose Acquisition Companies (“SPACs”)(SEC)
SPACに衝撃、SEC警告で1社が財務報告修正-相次ぐ可能性(4月22日)(ブルームバーグ)
SPAC波紋広がる、SEC警告で財務報告「もはや信頼できない」(4月24日)(ブルームバーグ)
米国のSPACブームが急停止の懸念、SECが新たな会計規則導入へ(Forbes)
米国公認会計士協会機関誌の関連記事。
↓
What auditors and audit committees need to know about SPACs(JofA)
日本でもことしの「骨太の方針」でSPACを使った上場の検討が盛り込まれているようですが、もし本当に導入するのであれば、会計処理や開示についても十分検討しておく必要がありそうです。
「空箱」上場、日本版SPAC解禁検討 成長戦略に明記(2021年5月)(日経)(記事冒頭のみ)
買収目的会社 投資家保護の点で問題が多い(2021年5月)(読売)
ところで、企業買収の関係者に与えられる株式関連の金融商品の会計処理という点では、オリンパス巨額粉飾事件のときにも、コンサルタント(粉飾方法を指南したといわれているが本人たちは否定)に対して報酬として与えた優先株の会計処理が問題となっていました。優先株を発行した英国子会社では、これを資本として扱い、その優先株の時価が大幅に増えた後にそれを買い戻した際には、自己株式の取得(連結ベースでは持分の増加)として処理していましたが、これが負債であれば、金融商品の時価評価による損失が生じていたはずです。IFRSでは、この取引が行われたのと、ほぼ同じタイミングで、優先株の会計処理が見直されており、見直し前に駆け込み的に取引を行ったようです。
当時、日本の会計基準(当時のオリンパスは日本基準)でも、優先株の会計処理について検討する必要があるとの提言が、オリンパスの監査人から行われましたが、その後は、まったくうごきがありません。日本基準では、法的な形式が優先され、法律的に株式や新株予約権であれば、その中身がどんなものであれ、資本扱いになってしまいます。SPAC解禁により特殊な新株予約権や優先株が多く発行されるようになっても、会計基準上は何の歯止めもありません。
当サイトの関連記事(2011年11月)(オリンパス粉飾関連)
その2(同上)
新日本の検証委、オリンパス監査で「法的責任認められず」(2012年3月)(ロイター)
「報告書では、制度面の見直しを通じた再発防止も主張した。例えば、オリンパスが損失隠しの過程で利用した配当優先株について、資本扱いする日本の会計基準を、負債扱いとする英国基準や国際会計基準(IFRS)と同等の制度に見直せば、時価評価による損失計上を通じて不正が露見した可能性がある、などとした。」
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