当サイトでも先日取り上げたIASBによる金融商品会計の改正案に関する記事。日経の7月19日朝刊の記事を要約したものです。
もとになっている日経記事は不正確な点があるようです。
「日本の今の基準には、「売却して利益を計上できるが、評価損益が一定水準を超えなければ損益計上を見合わせることもできる」という区分がある。
金融機関からは「この区分がなくなれば毎期の期間損益が大きくぶれる可能性があり、国債などを保有しにくくなる」(メガバンク首脳)という声が聞かれる。
IASBが検討している「損益計上しない」を選べば国債などの売却による益出しができなくなり、運用の柔軟性を損ないかねないとして、国債の消化を懸念する声も出ている。」
IASBの改正案をみると、なんでも時価で評価するのはおかしいという批判に対応して、国債のような債券については、償却原価法を適用できる範囲を拡大しているようです(仕組み債や劣後債は別)。したがって、この基準案を適用することによって、国債の消化が困難になったり、国債保有による損益のぶれが大きくなったりするとは考えられません。
「損益計上しない」というのは、債券ではなく、株式などの持分証券(時価評価される)に適用される包括利益直入オプションのことだと思いますが、持分証券が対象なので、通常の公社債には関係ありません。
国際会計基準、生保や銀行「困った」 株価で業績大振れ
金融機関への影響という点では、株式保有に焦点を当てたこちらの朝日の記事の方が正確だと思います。
「草案では、時価を反映しない方式の採用も可能だ。ただ、その場合は生保の主な収入源のひとつである株式配当や、株の売却益を利益に計上できなくなる。国際会計基準を日本が受け入れるかどうかは12年に判断することになるが、大手生保幹部は「採用されれば株式運用が事実上できなくなってしまう。再考を強く求めたい」と話す。
09年3月期に軒並み赤字になった三菱UFJフィナンシャル・グループなどの3メガバンクも、全保有株を反映型にした場合、純利益を計3兆円程度下押す要因になる。このため、「配当収入などを犠牲にしても、大半を非反映型に分類するしかないのではないか」(メガバンク幹部)という見方もある。」
「時価を反映しない方式」というのは、包括利益に直入する処理のことでしょう。株価の変動をPLに計上したくなければ、この方法をとるしかありません。
一般企業の経営者からは、本業とは関係のない株価の変動で、企業業績が大きく左右されるのはおかしいという意見もあるようです。包括利益直入であれば、減損処理(強制評価減)はなくなり、そのような意見のとおりとなるわけですから、案外すんなり受け入れられるかもしれません。
金融機関にとっては、株式保有が経営上どういう位置づけなのかが問われることになるのかもしれません。預金者に対しては確定した利回りを約束しているのですから、資産側の方も、契約上キャッシュフローが確定している融資や債券投資のみであれば、償却原価法(利回りが損益計算書に計上される方法)の適用で、つじつまが合います。株式で運用している場合には、トレーディング目的だとすれば時価評価して損益計上し、長期的な戦略投資だとすれば、配当や売却損益はおまけなわけですから、損益から外す(包括利益に直入する)というのは理屈に合っているようにも思われます。
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(補足)改正案からの抜粋です。
Gains and losses
19 A gain or loss on a financial asset or financial liability that is measured at fair value and is not part of a hedging relationship (see paragraphs 89–102 of IAS 39) shall be presented in profit or loss unless the financial asset is an investment in an equity instrument and the entity elects to present gains and losses on that investment in other comprehensive income in accordance with paragraph 21.
20 A gain or loss on a financial asset or financial liability that is measured at amortised cost shall be recognised in profit or loss when the financial asset or financial liability is derecognised and through the amortisation process. However, for financial assets or financial liabilities that are hedged items (see paragraphs 78–84 and AG98–AG101 of IAS 39) the gain or loss shall be recognised in accordance with paragraphs 89–102 of IAS 39. Investments in equity instruments
21 At initial recognition, an entity may make an irrevocable election to present in other comprehensive income subsequent changes in the fair value of investments in equity instruments within the scope of this [draft] IFRS that are not held for trading.
22 If an entity makes that election, it shall recognise in other comprehensive income dividends from those investments when the entity’s right to receive payment is established.
(補足2)
会計基準見直し、国債消化に影響も
ネットで調べてみると、IASBの基準改正で国債消化に影響が出るといっているのでは財務次官のようです。
「丹呉泰健財務次官は16日の記者会見で、「会計基準のあり方が、金融機関の国債保有に影響を与える可能性はある。市場との対話を通じ、勉強する必要がある課題だ」と述べ、今回の基準見直しの動きが国債消化に与える影響を懸念した。」
財務省が、何百兆円もの国債を発行していながら、会計処理など保有する側(海外の金融機関を含む)の事情を全く理解していないとしたら、おそろしいことです(もちろん次官が自ら理解する必要はないとは思いますが・・・)。
丹呉事務次官記者会見の概要(平成21年7月16日(木曜日))
「問)会計基準の見直しについてお伺いしたいんですが、国際会計基準審議会において見直しを含めて時価評価をもうちょっと広げるみたいな話が出ています。これによって金融機関の方は国債保有が離れていくのではないかという見方が出ておりますが、国債管理政策上どうでしょうか。
答)国際会計基準について色々議論されていることは承知しております。確かに、会計基準の在り方が金融機関の国債保有につきましても影響を与えるということはあると思いますけれども、一方ではマクロ的な国債の保有は金利の問題等々あると思いますので、その点につきましてはこれから我々としても、市場との対話等を通じてどういった影響があるか等々につきまして勉強をしていかなくてはいけない課題だと思っております。」
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