会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会(第8回)議事録(金融庁)

監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会(第8回)

2022年12月13日に開催された「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会(第8回)」の議事録が公開されました。会議後、2022年12月26日に、「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(案)が公表されています。

(会議資料などはこちらから→当サイトの関連記事

この回では、監査法人のガバナンス・コードの改訂(案)検討の前に、日本公認会計士協会の品質管理活動の方向性について、協会から説明があったようです(小倉副会長が説明)。

それによると、今後の協会品質管理レビューでは、大手監査法人へのレビュー頻度を下げるそうです。

「7ページ目では、新しい品質管理レビューにおいて変化する事項をリソース、検証視点、アプローチの切り口から整理をしております。前回検討会で、当協会の品質管理レビュアーは38名の陣容と御説明をいたしました。これまでは上場会社の時価総額で9割を占める大手4法人に2年に一度の通常レビューを行っていました。今後は大手監査法人のレビューの頻度を3年に一度に下げ、中小監査事務所へとリソースの比重を移してまいります。検証の視点は、これまで個別監査業務の準拠性の検証を主としていましたが、ガバナンス体制を含めた品質管理システムの有効性を検証していきます。さらに、検証の実効性を高めるために、リスクアプローチを徹底させます。」

印象にすぎませんが、金融庁・協会の監督が、大手重視か、中小重視かは、波があるように思われます。

公認会計士・監査審議会ができた当初は、いきなり大手監査法人に対する行政処分を行って、大手に対する締め付けを行いました。その後、上場維持自体が存続目的となってしまった箱企業を監査する中小の駆け込み寺監査事務所に焦点が当たった時期がありましたが、オリンパスと東芝という2大粉飾事件で、ふたたび、大手への監視が強化されました。それは、担当している企業の時価総額を考えれば、当然のことだったのでしょう。それが、大手から中小への監査人交代の流れの中で、中小への監視強化という方向になりつつあるようです。

協会説明では「中小監査事務所の品質向上の取組みについてPDCAサイクルを回し、当協会の監督・指導を通じてもなお改善が認められない場合には、上場会社等監査事務所名簿から抹消することになると考えております」と述べています。

ガバナンス・コードの改訂案の検討では、強い反対意見はなかったようです。ただし、グローバル・ネットワークとの関係に関する記述について、何人かの委員から意見があったようです。

「3ページ下段のグローバルネットワークの関係です。これについては、まず事業会社の観点、特にグローバルに事業を展開している会社からしてみますと、グローバルネットワークには加盟していてもらったほうがはるかに監査のクオリティが高まるとの認識です。すなわち、海外のグループ会社等に対する監査も同じ基準、レベル感で行ってもらえますし、情報の共有もスムーズですから、グローバルネットワークに加盟していること自身は、被監査会社にとって大きなベネフィットであると考えています。

そういう中でこの文章を見ると、この少し下のところにありますが、「監査法人の意思決定に影響を与え得ることなどにより、監査品質の確保やその持続的向上に支障をきたすリスクを生じさせる可能性もある」という記載があり、これが原則5の透明性の確保に基づく開示にもつながっていますが、私自身はこのリスクはどういうところに実際にあるのかということについて必ずしも十分理解できていません。例えばグローバルネットワークに加盟して海外グループ会社の監査を行うことがどうしてリスクになるのか、可能性とは言え、この点について少し補足的な説明をしていただければと思います。」(石原メンバー)

「第2点目は、グローバルネットワークのリスクについてです。投資家等のステークホルダーにとっては、グローバルネットワークに入っていることのベネフィットは理解しやすいのですけれども、実際にどのようなリスクが存在するのかが正直イメージが湧きにくいと思いますので、ここはもしリスクがあるとすれば具体的に書いていただきたい。...大手監査法人様が入っておられる大手のネットワークについては、ステークホルダーにはわかりにくい経営上のいろいろなリスクがあるというのは重要な情報かもしれません。他方では、むしろ中小の監査法人においては、その看板を使うことでいかにも、実質的には海外の監査ができないようなリソースであるにもかかわらず、できるかのごとくアピールする材料となっていないかというところを懸念していますので、そういう形をどこかで補足していただけるとありがたいと思っております。」(上田メンバー)

これらの意見に対する金融庁事務局の回答は、なんとなくもやもやしています。

「今、八田座長からお話もございましたリスクのところでございますけれども、リスクというふうに裸で1つ書いても分からないというところはあろうかと思いましたので、思い切って3ページの考え方のところで、リスクとして挙げられるものを触れさせていただいております。ここで考えられ得るもののリスクを書き下すというのがこのコードの趣旨ではないとい考えておりますので、やはりそれぞれのグローバルネットワークまたはグループ経営を行われる監査法人様それぞれにとってリスクはどういうものがあるかというところがあろうかと思いますので、ここは1つ1つということにはしておりません。

ここで書かせていただいているものというのは、追記している4行目のところでございます。「さらに」から始まる4行目、「監査法人の意思決定に影響を与え得ることなどにより、監査品質の確保やその持続的向上に支障をきたすリスクを生じさせる可能性もある」というところがございます。やはり意思決定というところは、いろいろなレベルの意思決定があるかと思います。監査法人様の中での、まさにガバナンス上の、例えば人や物やお金といったものついての意思決定、または監査上の意思決定、いろいろなレベルであろうかと思いますけれども、それについて影響を与え得るというところで、いろいろなところを包含するというところで入れさせていただいております。ただ、ここではしっかりと、監査法人の意思決定に影響を与えるというところを1つ掲げさせていただいているというところでございます。」

金融庁の権限が及ばないグローバル・ネットワークの活動を、ここでけん制しておきたいという意図があるのかもしれません。あるいは、監査法人内部にも、グローバルの天の声で経営方針・人事方針が決められているのではないかという懸念があるのでしょうか。

この論点については、学者の委員も発言しています。

「2点目は、今、小野メンバーや石原メンバーも御指摘されていた3ページに示されているリスクについてです。グローバルネットワークへの加盟については、確かに石原メンバーがおっしゃっているように、一般的には、さほどリスクが大きいわけではないのではないかと私も思います。ただ、監査法人としては、リスクがないかどうかということは考えていただかなければならないということは確かなので、その意味で、今回の事務局が御提案してくださった開示の内容などについては賛成したいと思っております。

むしろ、私が気になっているのは、他の法人等との包括的な業務提携等です。グローバルネットワークとの関係でもそのような部分はあると思いますけれども、日本の公認会計士法及びそれに基づく政省令には、監査法人と他の法人との間の業務提携等に対して、何か実体的なコントロールを及ぼすような規定が設けられているわけでもなければ、他の法人等との業務提携その他のいろいろな関係、明文の契約による関係でないにしても、それらに着目した独立性についての規定、たとえば、いわゆる著しい利害関係についての規定も明示的には設けられていないと承知しております。そのため、監査法人がとりわけ他の法人等との関係によってリスクを抱えることがありうるのではないかという懸念を持っております。

グローバルネットワークに限定すると、必ずしもリスクは大きくないのかもしれないという御指摘はそのとおりだという印象もありますが、より一般的に、他の法人等との業務提携等を通じてグループ経営を行うなどのグループとの関係、これについては我が国の法制上、実体的な規律を及ぼしていないのであれば、このガバナンス・コードが提案する方向で対応していくということがよろしいのではないかと考える次第です。したがって、3ページに書かれている考え方の御説明はもっともだと思いますし、透明性の確保との関係での12ページ、13ページに示されているような開示を、上場会社を監査される監査法人についてはお考えいただくということは、大変意義深いことだと思っております。」(弥永メンバー)

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「金融庁」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事