サントリーホールディングスが、米ビーム社を総額160億ドル(約1兆6550億円)で買収するという記事。
「ウイスキーの「ジムビーム」や「カナディアンクラブ」を製造・販売するビームの株主は保有株1株につき現金83.50ドルを受け取る。サントリーが13日発表した。これはビームの10日の終値66.97ドルを25%上回る水準。買収総額にはビームの債務引き受け分も含むが詳細は明らかにされていない。ブルームバーグの集計データによれば、ビームの長期債務は20億ドル。発行済み株式約1億6310万株で計算すると、ビームの時価総額は136億ドルとなる。」
1月14日付で提出された臨時報告書によると、買収のために設立された子会社とビーム社を合併させる方法がとられるとのことです。
「本件買収は、本件買収のために設立された当社の米国における100%子会社であるSUS Merger Sub Limited(以下「SUS社」という)とBeam社を合併させる方法(以下「本件合併」という)により行います。本件合併は、Beam社の株主総会において承認が得られること等を条件に成立し、合併後の存続会社はBeam社となります。」(臨時報告書より)
「当社、SUS社及びBeam社の間で締結された本件合併契約に基づき、本件合併は、Beam社を存続会社とし、SUS社を消滅会社とする吸収合併方式で行われ、本件合併の結果、Beam社は当社の完全子会社となります。本件合併は、平成26年4月から6月の間に完了する予定です。
本件合併に際し、Beam社の発行済の各普通株式は、1株につき無利子で83.5米ドルの現金を受領する権利に転換されます。」(同上)
「83.5米ドル×株数」のキャッシュで、株式を取得するということになります。国境をまたいだ買収であり、また、サントリー・ホールディングスは非上場なので、株式交換で子会社にするという方法はできないのでしょう。
また、サントリー・ホールディングスは、IFRSではなく日本基準であり、のれんの償却も大きな金額になるのでしょう。日本基準ではあまり例はないかもしれませんが、のれん以外の無形資産への原価配分も大きいのかもしれません。
上場しているサントリー食品インターナショナルの方の決算は、新たな兄弟会社ができるというだけで、直接の影響はありません。
気になる買収価格についてふれている記事をいくつか拾ってみました。
サントリーの巨額買収は高値掴みか?(ダイヤモンドオンライン)
「日本語版では記載がないが、英語版では、今回の買収金額がビーム社のEBITDA(税前減価償却前利益)の20倍を超えることが記載されている。EBITDAとは営業利益に減価償却費を足した金額に等しいが、企業が毎年生み出すキャッシュフローの簡易指標である。買収金額の妥当性を判断する際は、買収金額がこのEBITDAの何倍かがよく用いられる。
業界によって、そして時期によってもその妥当な倍率は異なるが、概ね8倍~12倍程度で収まることが多い。買いたいという企業が多くて、オークション状態になれば当然買収金額も上昇するため、EBITDAの倍率は上がっていくわけだが、それにしてもEBITDAの20倍以上の買収金額というのは安くないことは分かるだろう。
過去のサントリー自身の買収案件でも、EBITDA倍率は13倍程度であった・・・。」
サントリーの「ジムビーム」買収が割高すぎる理由(ハフィントンポスト)
「同社はビーム社の発行済株式を総額138億ドル(1株あたり83.5ドル)で取得する。ビーム社の負債は約22億ドルなので、負債を含めた買収総額は160億ドル(約1兆6500億円)となる。
だが、ビーム社の2012年12月期の売上高は約25億ドル(約2580億円)、純利益は3億8000万ドル(391億円)しかない。2013年12月期もほぼ同水準の収益見込みである。そうなると、買収金額は売上高の6.4倍、利益の42倍にもなる。単純計算では42年経たないと投資金額を回収できないことになる。
・・・
・・・サントリー本体の収益は売上高が約1兆8000億円、経常利益が1000億円である。しかも1兆7000億円の総資産のうち、負債はすでに1兆2000億円に達している。一方、ビーム社は170億円程度しかキャッシュを保有しておらず、今回の買収によって負債総額は一気に増えることになる。
サントリー食品インターナショナルが上場して資金調達力が増しているとはいえ、総額1兆6500億円という今回の買収は財務的には過大である。」
My Old Osaka Home: Suntory of Japan to Buy Maker of Jim Beam(NYTimes)
臨時報告書によると株価算定はモルガンスタンレーに依頼したそうです。
注意書きも書かれています(脚注)。
「モルガン・スタンレーの株式価値算定書及びその基礎となる株式価値の分析は、当社取締役会の参考に資するためのみに当社取締役会に宛てて作成されたものです。・・・モルガン・スタンレーの分析は当社又はBeam社普通株式の株価を鑑定又は査定するものではなく、Beam社普通株式が取引され得る株価を反映するものではありません。
モルガン・スタンレーは、その分析にあたり、既に公開されている情報又は当社若しくはBeam社によって提供等され入手した情報が正確かつ完全なものであることを前提としてこれに依拠しており、当該情報の正確性及び完全性につき独自の検証を行っておりません。またモルガン・スタンレーは、本件買収により期待される戦略上、財務上及び事業運営上のメリットに関する情報を含む財務予測につき、当社及びBeam社の将来の財務状況に関する現時点で入手可能な最善の予測及び判断を反映するものとして、当社及びBeam社の経営陣によって合理的に用意・作成されたものであることを前提としています。」
サントリーが巨額買収、世界市場攻略の成否(東洋経済)
「買収額から推定されるのれんは約9000億円。20年で償却しても年間約450億円が経費として発生する。この処理があるため、ビーム社の利益(12年12月期の営業利益は約600億円)をそのまま享受できるわけではない。」
サントリー「ビーム社」買収の成否 バーボンの成長力に疑問符も(夕刊フジ)
「今回の買収費用は三菱東京UFJ銀行から調達したようだが、国内市場で主力のビール、蒸留酒事業とも好調なサントリーに対し、カネが余っている銀行は貸したくてしようがない。銀行というのは、やはり「晴れた日に傘を貸しましょう」というところのようだ。」
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