経済産業省は、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(座長:伊藤邦雄 一橋大学大学院商学研究科教授)の「最終報告書(伊藤レポート)」を、2014年8月6日に公表しました。
以下のような提言が行われています(プレスリリースより)。
・企業と投資家の「協創」による持続的価値創造を
・資本コストを上回るROE(自己資本利益率)を、そして資本効率革命を
・全体最適に立ったインベストメント・チェーン変革を
・企業と投資家による「高質の対話」を追求する「対話先進国」へ
・「経営者・投資家フォーラム(仮)」の創設
伊藤教授によると思われる「基本的な問題意識とメッセージ」(冒頭に大きな写真が掲載されています)に内容は集約されているようです。
以下のような問題意識が示されています。
・パラドックス-世界で最もイノベーティブな国の「持続的低収益性」
・「ダブルスタンダード」経営の限界と「日本型短期主義」経営への懸念
・長期投資家不在の「資産運用後進国」日本
・企業と投資家の対話の欠如がもたらす悪循環
・資本効率と企業価値の向上が日本の国富を維持・形成するための鍵
具体的な検討の中では、四半期決算にふれている箇所もあります(66ページ~、76ページ)。
「セルサイド・アナリストの分析が四半期決算や業績予想に関するものに極端に偏りすぎており、イベントに基づくレポート等が増加している問題が、企業側と投資家側両方から指摘されている。」
「四半期決算は一定期間の業績を把握する面はあるが、これによりアナリストが短期的・イベント的な作業に追われ、長期的な企業価値評価という基本的な職能が低下しているのではないかとの懸念が示されている。」
「・・・四半期開示の導入により、四半期決算のフォローに忙殺されたことが、経営者との対話や中長期的な企業価値評価に十分な時間を割けなくなった主な原因の一つとして認識されている。」
「また、業績予想についても、四半期等短期の業績が企業価値(将来のキャッシュフロー等)に与える影響は微少であるにも関わらず、発表する予想数値への対応や修正に伴うコスト、影響は非常に大きい。例えばのれんや保有資産の減損の有無が注目されるケースが増えている。減損の金額が大きいと業績への影響が大きく、株価が急落することもあるからだ。こうした中で、企業は将来の見積もりについて、適時・適切な開示という目的にそって監査法人と議論する重みが増している。アナリストや投資家も減損リスクを警戒するあまり、長期的な視点が失われていないかを常に意識する必要がある。」
全体で約100ページの報告書です。
当サイトの関連記事(この報告書に関するものではありませんが伊藤教授へのインタビュー記事について)
「ダブルスタンダード」経営ではなく「二枚舌」経営という言葉が使われています。
新・企業価値評価 伊藤 邦雄 日本経済新聞出版社 2014-07-24 by G-Tools |