会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

M&A仲介で事業承継、老舗の映像制作会社が8カ月で迎えた倒産危機(朝日より)

M&A仲介で事業承継、老舗の映像制作会社が8カ月で迎えた倒産危機(記事の一部のみ)

朝日新聞で「M&Aで食い物にされる中小企業の現実と、仲介にかかわる大手M&A仲介業者の対応を報告する」という連載「M&A仲介の罠Ⅲ 食い物にされる中小企業たち」をやっています。

第1回の記事では、パラダイスカフェという映像制作会社を取り上げています。同社は2023年6月にANEW Holdings(ANEWHD)(→当サイトの関連記事)の子会社となりますが、その8か月後には破産危機に陥ったそうです。

「2006年公開の映画「かもめ食堂」や企業のテレビCMなどを手がけ、老舗の映像制作会社として知られるパラダイス・カフェ。M&A仲介を通じて代表や従業員が持つ株式を譲渡して8カ月後の2月13日午前、経理担当者の携帯が鳴った。

M&Aの「買い手」として親会社となったANEW Holdings(ANEWHD)の社長が、こう告げてきた。

親会社も子会社も破産する。会社の口座に残る資金は、すべて指定口座へ振り込んで」

経理担当者が対応を迷っていると、翌14日も「早くお金を振り込んで」と促す電話やメッセージが相次いだ。振込先は「弁護士の口座」だと言われたが、なぜ送金する必要があるかは理解できず、社長の言葉を信じることもできなくなっていた。」

この会社は以前は十数億円の売上がありましたが、コロナの影響で数億円に縮んでしまいました。しかし、5億円前後の現預金があり、資産超過でした。

そこへ、仲介業者からANEWHDを紹介されます。

2023年4月にANEWHDの会長と面談、連休明けに社長とも面談し、2億円超で株を買う意向が示されました。同年6月14日に契約締結、当日に株式代金として約5400万円が振り込まれ、そのうち2千万円はすぐに仲介業者に成功報酬として支払われました。従業員の持株分1.5億円については、6月末という約束でした。

契約当日には、売り手、買い手、仲介業者の計7人でうなぎを食べましたが、仲介業者からは買い手が食事代を支払うといわれていたのに、結局パラダイスカフェ側が8万円を支払ったそうです。

「それは、このあと起きるトラブルの予兆に過ぎなかった。」

M&Aで「4億円超ひっこぬき」の手口 貸したお金は1円も戻らず(記事の一部のみ)

第2回は、パラダイスカフェの続きです。

2023年6月末が期日だった従業員分の株式代金は、支払われず、逆に5億円の融資を求められたそうです。経理担当者は抵抗しますが、「どのみち彼らの会社になるのだ」と受け入れたそうです。

同年8月末を期日とする契約書を作り、3.5億円を送金します。6月末に(株式代金の)決済(送金した3.5億円からまかなったのでしょう)が行われ、株式譲渡が完了します。ANEWHDの社長が代表取締役に就任、役員報酬はありませんでしたが、1年分の経営指導料2178万円を支払いました。しかし、経営指導と呼べるようなプラス効果はなかったとのことです。

契約済みとはいえ、株式代金が未決済の段階で、親会社となる予定の者(まだ親会社ではない)に多額を送金を行うというのは、まずかったのでしょう。

秋頃には、保険や定期預金の解約、銀行からの融資を使って、4700万円を追加送金します。

結局、ANEWHDの倒産で、1円も戻ってこなかったようです。

パラダイスカフェの方は、破産を免れ、1円で株式を買い戻し、元の社長が代表取締役に復帰、再建途上のようです。

朝日は、ハレバレという仲介業者に取材を申し込みましたが、担当者がやめていて、詳しいことはわからないといわれたそうです。会社として仲介したはずなのに、報道への対応へができないというのは、未熟な組織なのでしょう。

Bリーグ、ラブホテル管理、ラーメン…M&A仲介で22社買収→倒産(記事の一部のみ)

第3回は、買い手であるANEWHDの方に焦点を当てています。

「7月2日午後、真夏の日差しが照りつける東京地裁の中目黒庁舎。破産手続き中のANEW Holdings(ANEWHD)の初の債権者集会が非公開で開かれた。

出席者によると、集まった十数人の債権者の前で、ANEWHDの社長が神妙な顔つきで釈明した。

グループを急速に拡大させ、資金繰りが追いつかなかった

M&A仲介を通じて短期間に20社超を買いあさり、そこから10億円超を集めながら倒産したANEWHD。いったい何者だったのか。」

源流は、産業革新機構が設立した「映画企画をいくつも公表しながら1本も公開せずに多額の赤字を出し続け」た会社でした。2017年に京都の投資会社に売却され、その後MBOの受け皿として設立されたのがANEWHDだそうです。

21年末からM&Aを開始し、2023年8月までに22社を買収したそうです。経営者保証については、引き継がれない例も複数ありましたが、多くはANEWHDの代表が引き継いでいるそうですから、最初から詐欺だったということではないのかもしれません。

子会社から集めた資金は、ANEWHDの運営資金、役員報酬、新たな買収資金などに流れました。一部は、買収した子会社にも流れたそうです。とくにプロバスケットボールチームの「青森ワッツ」(買収先のひとつ)で、高い報酬で選手を集めるのに使われていたそうです(「破綻に至った主因の一つとみられる」)。

記事を読む限りでは、詐欺目的でこういうことをやっていたというよりは、経営能力もないのに、やたらと多くの企業を買収し、その資金まで吸い上げて、結局うまくいかず、破綻してしまったという印象です。しかし、買収された会社(取引先、従業員、その他債権者など)にとっては大迷惑です。

「買収された会社は多額に現預金を抜かれて経営が切迫し、親会社は自転車操業に陥っていたのがANEWHDの実態とみられる。」

ここでターゲットが仲介業者に移ります。

「その一方で、買収が決まるたびに多額の報酬を得ていたのがM&A仲介業者たちだ。」

預金14万円の買い手仲介、M&A総研社長「二度と起こしたくない」(記事の一部のみ)

「(ANEWHDの)債権者集会が開かれた2日後の7月4日、なんとか生き延びた二つの買収先を、M&A総合研究所の幹部2人が訪ねた。東証プライムに上場し、トップが業界団体の理事も務める仲介大手の一角だ。

二つの訪問先は、2023年3月と8月にANEWHDが買収した福岡と熊本の会社。ともにM&A総研が株式譲渡契約の仲介を担い、1千数百万円の報酬を受け取っていた。

だが、業績が堅調な福岡の会社はANEWHD側に支出した1500万円が戻らず、売却時より高い価格で株式を買い戻させられた。熊本の会社は4千万円超をANEWHD側に融通したが、その一部は取引銀行から借りた資金をすぐに送金させられていた。

2社は今年5月、M&A総研の社長に抗議文を送った。その返事が7月4日の訪問だった。」

2社は、事前にANEWHDの状況に懸念を抱いていましたが、M&A総合研究所の担当者から、財務に問題はない、かなりの資金があるなどと言われたそうです。

2社の売り手に対して、M&A総合研究所の幹部から、「口外しないこと」を条件に報酬の一部返還の意向が示されたそうです。

記事では「口止めするのと同じではないか、事例を公表して教訓にするわけでもなく、会社として反省しているのかもよくわからない」というある買収先のコメントを載せています。

実はANEWHDの決算書では、ごくわずかな預金残高しか計上されていなかったそうです(「三つの銀行口座の預金残高は2022年末時点で計14万1363円だった」)。

記事の最後の方では、M&A総研についてふれています。「完全成功報酬制」で急成長、「何事も数字」の経営スタイル、成約期間の短さとマッチング力の高さが強み、何よりも効率重視、という特徴の会社だそうです。

「成約を急ぐ姿勢が裏目に出た面はないのか。買い手についてどのような審査をしているのか。ANEWHDの案件を仲介した結果をどう受け止めているのか。」

朝日の電子版では、この問題について、新たな連載が始まっているようです(「M&A仲介の罠Ⅳ カネ目当ての事業承継」)。機会があれば、当サイトでも取り上げたいと思います。

「カネ目当てのM&A」批判でトップ解任 緊迫の取締役会動画を入手(記事の一部のみ)

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