亀井金融大臣のモラトリアム制度(債務の返済猶予制度)に関連して、不良債権基準が緩和される方向だという記事。
「不良債権の処理指針となる「金融検査マニュアル」の弾力化によって、銀行が元利金の返済を猶予した場合でも不良債権と認定しないことにして、返済猶予を促す案を軸に検討する。」
モラトリアムを会計的に考えてみると、まず、既存の融資については、債務者に元本や利息の支払時期を延期できるオプションが新しく与えられるわけですから、金融機関側からすると債務者に与えられたオプションの価値分だけ融資の時価はその時点で目減りすることになります。
ただし、現行の会計基準では、金銭債権は時価評価ではなく、取得価額から貸倒見込額を控除した金額で計上されるわけですから、(それで本当に良いのかという問題はありますが)モラトリアム制度が導入されただけでは、会計上損失が計上されることはないでしょう。
しかし、実際に債務者がモラトリアムの権利を行使した場合には、当然「貸倒見込額」を見直すべきでしょう。記事で言っているように「不良債権に認定しない」と決めつけることが可能なのでしょうか。
次に、モラトリアム導入後の新たな融資について考えてみると、合理的な貸し手であれば、法律上強制的に債務者に与えられるオプションの価値の金額を、どこかで(たとえば金利をあげることにより)取り戻そうとするでしょう。オプションが必要な借り手にとってはそれでもよいのでしょうが、契約どおり返済したい、オプションは不要であり、そのかわり低い金利で借りたいという借り手にとっても、法律上強制的にオプションが与えられるわけであり、それだけ高い金利コストを負担することになるかもしれません(法律による一種の抱き合わせ販売といえます)。
もちろん、金融庁などは、モラトリアム導入による金利上昇を制限するような監督を行うことでしょう。そうすると、結局、債務者に与えられたオプションの価値だけ、金融機関の利益(株主や信用金庫・組合の場合であれば会員・組合員のものです)を減らすか、預金者に負担させて預金金利を下げざるを得なくなります。
それで金融機関がおかしくなるのであれば、公的資金を入れればよいという考え方もあるようですが、それなら最初から、政府がリスクを覚悟で、直接中小企業に融資・保証すればいいだけの話です。
せっかく政権交代がなされたのに、こうしたわけのわからない政策を実施するようでは、民主党政権もあまり先が長くないのかもしれません。(そもそも国民新党に票を入れたつもりはないのですが・・・)
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