会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東電上場維持で得をするのは誰か まず存続ありきの「援助スキーム」の闇(現代ビジネスより)

東電上場維持で得をするのは誰か
まず存続ありきの「援助スキーム」の闇


最近多い東電支援策を取り上げた記事のひとつ。東電の会計監査についてふれている部分を紹介します。

「・・・政府が上場維持と言えば、すんなり上場が維持できるのだろうか。

まずは取引所の上場規則である。上場企業は債務超過になれば上場廃止基準に抵触する。今の東電はどうか。「政府は東電を政府の管理下に置くと言っているが、実質的に債務超過だからそうなるのであって、ルール上は廃止基準に抵触する」と取引所の関係者は言う。

もう一つが会計監査だ。担当の監査法人は東電の財務諸表に被災者への賠償などの債務がきちんと計上されているかを調べることになる。ここで決算書が債務超過となれば前述の上場規則に抵触する。かといって損失の見積もりが不十分か、きちんと見積もりができない状態だとすると、監査法人は監査意見を述べることができなくなると思われる。意見を表明できないとなると、これもまた、上場廃止規則に抵触し、上場廃止とならざるを得ないのだ。

それでも政府が上場維持を求めるとなると、これまで積み上げてきた資本市場のルールを無視するしかなくなるだろう。今回の東電の事故をルールの「想定外」として、上場規則の例外とし、監査結果も無視するのだろうか。そんなことをすれば、取引所の上場ルール自体の信頼性が揺らぎ、日本の監査制度自体も根本から揺さぶられる。・・・」

「さて、これから東電を助けるために、どうやってルールの網の目をかいくぐるのか。その時、取引所の幹部や、監査法人の幹部、そして法律学者たちはどんな発言をするのか。注目したい。」

東電の決算や会計監査に関してこのコラムでふれていないのは、継続企業の前提の問題です。先日公表された政府の支援策は、正式の閣議決定でも何でもなく、法律案を出せる見通しもついていません。したがって、現時点で、政府の支援案に依拠して、継続企業の前提に重要な不確実はないと判断することはできないのではないでしょうか。

もっとも、継続企業の前提に関して注記が付いたとしても、それだけで上場廃止になるわけではないので、さほど重要な問題ではないかもしれません。

損失の見積りについては、全く前例のない大事故ですから、困難であるということは予想されます。会社は見積もりをまじめにやればやるほど、損失が膨らむという状況ですから、見積りをやってるふりだけすればよいと考えているかもしれません。監査人はそれを容認することはできないはずですから、十分なチェックをすることでしょう。しかし、このケースでは、監査人独自の見積りはほぼ不可能ですから、決め手に欠けます。会社の誠実性に疑問があるような場合には、意見不表明もやむをえないのではないでしょうか。

国民負担にまっしぐら!
支援機構の負担金を電気料金に上乗せ
「電力会社」懐柔を企む財務省・経産省
政府案は「東電の決算対策」
(現代ビジネス)

こちらも同じサイトのコラム記事です。

以下の個所は、会計的には間違いです。

「奇妙なことに、政府には、本来、最後の最後の手段であるはずの国民負担の道を真っ先に開くことに熱心な半面、東電や電力各社に対して、過去に高い電気料金を徴収して溜め込んだ分厚い内部留保の供出を真摯に迫ろうとしないという問題もある。要するに、値上げの先送りや値上げ幅を抑制する努力をまったく講じていないのだ。

こうした内部留保には、東電だけでも、株主総会の承認を得れば取り崩せる資本剰余金(6800億円)や利益剰余金(1兆8300億円)が、また、経済産業大臣の許可さえ受ければ、賠償に転用が可能な使用済燃料再処理等引当金(1兆2100億円)、使用済燃料再処理等準備引当金(360億円)、原子力発電施設解体引当金(5100億円)などが含まれている。これらを取り崩せば、今後、数年間は値上げが不要になるはずの金額である。」

賠償金の支払い(あるいはそれ以前に引当するのであれば引当金の繰り入れ)は損益計算書上の損失ですから、何もしなくても利益剰余金にチャージされます。また、福島第一原発はこれから廃炉になる(しかもぐちゃぐちゃの状態で)わけですから、原子力発電施設解体引当金は取り崩しどころか、大幅な積み増しをしないと粉飾決算です。そして実際の廃炉作業が行われればそのコストだけ引当金を取り崩していきます。その他の引当金も引当ての目的があるわけですから、理由もなしに取り崩しはできません(業法独自の利益留保性のものがあれば別)。

要するに、ことさら「内部留保の供出」を迫らなくても、損失計上すれば、資本項目は自動的に減少し、また、引当金の目的である事象(例えば廃炉作業のためのコスト発生)が生じれば、引当金は自動的に取り崩されることになるわけです。

東電支援策に関する記事には、この記事のように会計的におかしなものもあります。もっとも、政府の支援策自体が、会計士的な見方からすると、仕訳にできないあいまいなものですが・・・。
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