公認会計士協会の会長が記者会見で、東芝からキヤノンヘの東芝メディカルシステムズ売却について聞かれたそうです。
「会見では、17日に契約が締結された東芝からキヤノンへの東芝メディカル株式売却に関する会計上の問題点に関し、質問が提起された。それによると、東芝は、公正取引委員会が独禁法上の観点から審査を終了していないにもかかわらず、契約が有効に成立したとして、2016年3月期決算に売却益を計上する方針。これは会計上可能なのか、という内容だった。
これに対し、森会長は一般論と断ったうえで、モノの所有権が移転しているかどうかなどの「経済実態」に即して、会計処理していくべきだとの見解を示した。
そのうえで公取委が買収を承認しない場合、経済実態がないとの認識になるのか、との質問に「その可能性が高い」と指摘。承認がない場合、利益計上が認められない可能性に言及した。
また、東芝が特別目的会社(SPC)を設立し、独禁法の規制の一部を回避しようとしていたのではないかとの質問には「個別の事案に答える立場ではない」と述べるにとどまった。」
最終的に公取委が承認するかどうかは、2016年3月期の会計処理には直接には関係しないと思われます。東芝の決算日である3月31日までに、承認がなされるかどうかが問題で、最終的に承認がなされたとしても、それが4月以降であれば、3月までに売却益を計上することはできないでしょう。(承認がなされなくてもキャノンが全リスクを負うというのなら別かもしれませんが)
ただし、SPCを使った特殊なスキームであり、3月末時点では、東芝の支配下からは外れた(したがって他の条件もそろえば売却益を計上できる)けれども、キャノンの支配下にもまだ入っていない(したがって承認がまだでも独禁法の規制に違反しない)という理屈があるのかもしれません。
(一般論といいながら、結構踏み込んだことを回答しています。東芝メディカルを獲得し損ねた富士フイルムの監査人が、会長の出身法人であるあずさに移ることと何か関係はあるのでしょうか。)
当サイトの関連記事
これも協会の記者会見の記事。
7社に「不正会計」リスク 公認会計士協会が調査(テレビ朝日)
「公認会計士協会は2月から3月、すべての監査法人や監査事務所に対し、監査体制を緊急調査しました。その結果、有価証券報告書の虚偽記載などの問題が生じる恐れのある事例はありませんでしたが、大企業59社のうち7社は、東芝で指摘されたように経営者が社内の不正防止機能を破る恐れがある状況が見つかったということです。」
特別レビューで、「経営者による内部統制を無効化するリスク」への対応について指摘された7件のことをいっているのでしょう。「経営者が社内の不正防止機能を破る恐れがある」というよりは、そういう状況(経営者が内部統制を無効化するリスク)はどこの会社でもありうるが、それに備えた監査手続(あるいはその計画)が不備だということだと思います。
当サイトの関連記事(特別レビューについて)
東芝が医療売却でキヤノン・富士に迫った仰天要求(ダイヤモンドオンライン)
「ここにきて、勝ったキヤノンのスキームが問題視されている。
主要国の競争法ルールでは、当局に株式取得を届け出てから一定期間(日本の場合は30日)を経過するまでは株式を取得してはならない、という規定がある。キヤノンが独占交渉権を得たのが3月9日。このタイミングで、キヤノンが買収手続きを始めたとしても、到底3月末に間に合うように株式は取得できず、東芝への入金もできない。
そのため、キヤノン陣営は極めてテクニカルなスキームを編み出した。競争法手続きの要らない特定目的会社MSホールディングス(MSH。資本金3万円)を設立し、一時的にこの会社が東芝メディカルを買収したことにして、MSHから東芝へ入金を済ませたのだ。リリースでは、「MSHは独立した第三者」となっているが、その代表者として、御手洗冨士夫・キヤノン会長と近い宮原賢次・住友商事名誉顧問が名前を連ねている。
果たして、第三者的存在と言い切れるのか。法の網をくぐり抜けるようなディールに、「脱法行為との議論が巻き起こるリスクがある」(競争法に詳しい弁護士)。波乱含みのディールになった。」
最近の「企業会計」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2000年
人気記事