会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東電公的資金投入巡り調整続く(NHKより)

東電公的資金投入巡り調整続く

東京電力の財務基盤強化を巡って、枝野経済産業大臣が公的資金の投入を求めているのに対し、東京電力は反対しているという記事。

「枝野経済産業大臣は、27日夜、東京電力の西澤俊夫社長に対し、財務基盤を抜本的に改善するため、事実上の国有化につながる公的資金投入で経営に対する国の権限を強化することなど、あらゆる選択肢を検討するよう指示しました。」

公的資金投入を議論する以上、東京電力が現在どのような財政状態にあるのかを確認する必要があります。

先月公表された第2四半期の決算をみると、当サイトで懸念していたとおり、明らかな水増し決算(特別利益過大計上)が行われています。

有価証券報告書等(東京電力)

問題なのは、特別利益に計上されている「原子力損害賠償支援機構資金交付金」約5400億円です(同額「未収原子力損害賠償支援機構資金交付金」として資産計上)。

これについては、追加情報の注記で以下のようにふれています。

「当社が資金交付を受ける場合、機構法第52条第1項の規定に基づき、機構に対し当社収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に支障を生じない限度において機構が定める特別な負担金を支払うこととされている。」

要するに交付を受けた資金は返さなければならないということです。返さなければならない資金を利益に計上することはできない(特別負担金を負債計上すべきである)ので、ここで、約5400億円の利益過大計上となります。

もちろん、東電が破たんして電力供給に支障をきたしかねないような場合には、負担金の支払いを猶予してもらえるわけですが、それは、実際にそういう事態に陥って免除してもらった時点で利益計上すればよいのです(債務免除と同じ)。

継続企業の前提に関する注記では、標準的な文言どおり「四半期連結財務諸表は継続企業を前提として作成しており、継続企業の前提に関する重要な不確実性の影響を四半期連結財務諸表に反映していない」とされています。特別負担金についても、継続企業として存続するものとして、東電が払い続けるという前提で会計処理すべきです。

次にこの原子力損害賠償支援機構資金交付金を計上したタイミングの問題があります。資金交付が承認されたのは、11月に入ってからであり、第2四半期末である9月末では、未承認の状態でした。通常の保険であれば、事故が起こった時点で、保険契約で定められている保険金の請求権が発生するといえますが、この交付金の場合は、政府が承認しない限り支払われないものですから、承認時に計上するのが正しい方法です。

この点については、当サイトの見解では、最初に述べたとおり交付金と同額の特別負担金を計上すべきなので、損益には影響しませんが、特別負担金を負債として計上する必要がないという見解に立った場合には、計上時期の問題は大きな影響があります。

このほか、今後の損害賠償金や廃炉費用の見積りについて、報道されている金額と会計処理されている金額(災害損失引当金約8900億円、原子力損害賠償引当金約8900億円など)が、まったく食い違っているというさらに大きな問題がありますが、これは、見積りの話なので、公表資料からはなんともいえません。

会計基準から少し離れて考えると、原発事故を迅速かつ安全に終息させる(廃炉までもっていく)ためには、むしろ引当金を数兆円でも先に積んでしまって、十分な費用をかけて対策をとるべきなのではないかと思われます。現状では、(そんなことはないと信じたいところですが)費用をケチって対策を遅らせるほど、対策費用全体の合理的な見積もりができず、損失計上を先送りできるというインセンティブを会社に与える結果となっています。

東電、原賠機構に6900億円の追加支援要請(ロイター)

政府とすれば、追加支援を認めず、6900億円は東電への出資として投入すれば、それで済む話です。法律上は、東電が利益計上する資金交付で支援しなければならないということはなく、融資や出資でいいことになっています。

被害者からすれば、補償金が、東電が利益計上するカネであるか、利益計上できない出資によるカネなのかは、まったく関係ありません。

枝野経済産業大臣の閣議後大臣記者会見の概要(11月4日)(経産省)

「原子力損害賠償支援機構及び東京電力から提出された緊急特別事業計画を本日認定いたしました。東京電力の損害賠償支払いを支援するため、約9,000億円の資金交付を行います。先ほど私から、東京電力及び支援機構に対し、国民の皆さんからの巨額の資金を一時的とはいえお預かりする責務を十分に踏まえ、親身親切な賠償と徹底した経営合理化を実行するよう、直接お伝えをいたしました。・・・」(第2四半期の後発事象の注記によれば、9000億円と5400億円の差額は第3四半期に計上されるようです。)

あくまで、東京電力は資金を国民(直接には支援機構)から預かっているだけだということになります。預り金を利益にしていいはずがありません。

東電の決算はおそらく経産省が指導しているのだと思いますが、国民(納税者)に対しては、東電への資金交付は東電に預けているだけだ(だから公的資金投入ではない)と説明し、その一方で、投資家(財務諸表利用者)に対しては、東電がもらった資金だ(だから利益計上できる)と説明するのは、全く矛盾しています。

このままだと、オリンパスがケイマン諸島のファンドに損失を飛ばしたのと同様に、東電は経産省が設立した機構にその数十倍にもなるであろう損失を飛ばすことになります。

東電、事実上国有化へ 官民で2兆円支援(朝日)

(補足)

12月30日のNHKの記事はリンク切れになってしまったので、こちらをご覧ください。

東電債務超過のおそれ 公的資金は(NHK)

「福島第一原子力発電所の事故に伴う賠償などの負担で厳しい経営状態が続いている東京電力は、ことし中にも債務超過に陥るおそれがあり、今後、財務基盤を強化するための公的資金投入などを巡る政府側との調整が本格化することになります。」
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