会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

新生銀、株主総会ドタキャンが残した後味の悪さ(東洋経済より)

新生銀、株主総会ドタキャンが残した後味の悪さ
少数株主の利益がないがしろにされていないか
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新生銀行の買収防止策が取り下げられ、11月25日に開催予定だった臨時株主総会が中止された件の記事。SBIによるTOBが成立しそうだけれども、問題点は残ったままだといっています。

「11月24日の17時30分、新生銀行は翌25日に開催予定だった臨時株主総会を中止すると発表した。臨時総会では、SBIホールディングスによるTOB(株式公開買い付け)に対する買収防衛策発動の賛否が問われる予定だった。」

「買収防衛策が撤回されたことで、TOBは成立に向かっている。が、新生銀行側がSBIの株式取得に対して当初挙げていた問題点は解決されていないままだ。

新生銀行が「TOB賛成の条件」としてSBIに示していたのは、1株当たり2000円という買い取り価格の引き上げと、「最大48%」とされている株式の取得上限の撤廃だった。

上限48%について工藤社長は、SBIが経営権を取った場合、「SBI以外の52%の株主の利益を犠牲にして、親会社(であるSBI)のためにビジネスをし、利益相反になる可能性がある」と指摘していた。今後、新生銀行に対して他社がSBIより有利な条件で提携を申し入れた際、親会社であるSBIと新生銀行の連携が優先されると、SBI以外の株主の利益が犠牲になるからだ。

SBIは48%の上限撤廃をする意向はなく、SBIと新生銀行の取引で利益相反を防ぐため、「独立した委員からなる特別委員会を設け、事前の審査及び事後のモニタリングを行う」としている。それでも、工藤社長は11月25日の会見で、「(48%の上限があるままだと)利益相反のリスクが高い形態であることに変わりはない」と述べた。」

SBIのTOB前進 新生銀行、国「賛成せず」で防衛策断念(日経)(記事冒頭のみ)

「新生銀行がSBIホールディングスによるTOB(株式公開買い付け)への買収防衛策を撤回したのは、議決権の約2割を握る国が防衛策に賛成しない方針を固めたことが大きい。」

「株主総会を翌日に控えたタイミングでトップ会談を開くきっかけとなったのは、議決権の約2割を握る預金保険機構と、その傘下の整理回収機構が新生銀の買収防衛策に賛成しない方針を固めたためだ。金融庁と協議し、総会に出席した上で反対票を投じるか棄権するかで調整を進めていた。」

「もっとも、SBIのTOBは①買い付け株数に上限があること、②TOB価格が低すぎること――といった従来の新生銀の懸念点は今回の協議でも完全に解決には至らなかった。新生銀が従来の反対意見を「中立」とし、賛成まで踏み込まなかった背景には、こうした要因がある。」

SBIからすれば、48%分の資金で、新生銀行を支配することができ、以後やりたい放題ができるわけですから、うまい話です。会計処理的には、50%未満の取得でも、支配さえできれば、子会社あつかいになります。また、その後、株式を買い増したとしても、買い増しによるのれんの発生はありません(海外基準でも日本基準でも同じ)。

新生銀行、公的資金未返済のツケ SBI傘下に(日経)(記事冒頭のみ)

「新生銀行がSBIホールディングス傘下に入ることが固まった。SBIによるTOB(株式公開買い付け)に対抗する買収防衛策に国が賛成しないことがわかり、外堀が埋まった。」

「新生銀の直接の株主である預金保険機構の三井秀範理事長は今年3月の就任時、新生銀に残る公的資金について「平成金融危機の遺産の中で、もっとも大きな宿題として残っている案件」と語っている。いまだに公的資金が残っているのは、政府が保有していた優先株が普通株に転換されたためだ。

新生銀は9000億円以上の純資産があるため資本面だけ見れば返済できるが、株価がある普通株である以上、国にだけ有利な条件で買い戻すわけにはいかない。国が保有株の売却で3500億円を回収するためには現在の4倍近くの7450円まで株価があがる必要がある。」

「もっとも、土壇場で両社が折り合い、議決権を行使せずに済んだことで最も胸をなで下ろしているのは国だ。SBIには、同社が新生銀の会長に推す金融庁の五味広文元長官を筆頭に金融庁や財務省など官僚OBが多数、在籍している。」

要するに、少数株主の利益が損なわれるリスクを無視して、金融庁・財務省OBの天下り先を助けたということなのでしょう。

新生銀行の社長へのインタビュー記事。もっともなことをいっています。

SBIの猪突猛進に新生銀行が抱く根本的な疑問
買収防衛に動く新生銀行の工藤社長を直撃
(11月1日)(東洋経済)

「新生銀行には公的資金が約3500億円残されており、国が大株主でもあることから、金融庁が議決権行使についてどう判断するかにも注目が集まる。

北尾社長はこの公的資金もアピールの材料としたいようだ。10月28日の決算説明会では「銀行としてカネを借りて返さないのはあり得ない。泥棒と一緒」(北尾社長)と強調。SBIが出資する地方銀行を引き合いに出し、「出資先は全部と言っていいほど業績が上がる。われわれなら(新生銀行を)変えられる」(同)と豪語した。

とはいえ、SBIが新生銀行を傘下に収めた場合の公的資金返済の具体的なスキームの説明や買収後の効果は数字で示していない。」

「SBIの提案にはいろいろ問題はある。ただ、ピュアに株主の立場で考えると、真の問題点は「5割未満しか持たないけど経営権をとる」というところ(編集部注、SBIはTOBが成立した場合、社長をはじめとする役員を入れ替えるとしている)。

48%を保有した場合、52%の外部株主がいる。このSBI以外の52%の人たちの利益を犠牲にして、親会社のためにビジネスをすると利益相反になる。現在の日本では、親子上場が廃止のほうに向かっている中で、(新生銀行の上場を維持して)親子上場の形をとることも理解できない

例えば、100%の子会社になれば、少数株主はいなくなる、そうなれば利益相反は起きない。これも上限撤廃の条件をつけた意味合いの1つだ。」

「――利益相反とは具体的にどんな場合に起きうるのでしょうか。

一番わかりやすい例は、マネックス証券との提携だろう。銀行は事務のコストを削減するため、顧客管理(外部に)を委託したい。証券会社側はその代わりに(銀行を通じて)商品供給をさせてほしい。これが提携の実態だ。

(提携相手を)選ぶ側からすると、損益がどれだけ改善するかが重要になる。コストが減少する一方で、販売に伴う利益は提携先とシェアするため減る。それに加えて、われわれの顧客基盤に合った商品を供給してくれることが必要だ。

(マネックスとSBIの提案では)こうした経済条件に大きな差があった。新生銀行の取締役会としては、(SBIが新生銀行の)大株主だからといって悪い条件のものを選ぶわけにはいかないので、マネックスと提携した

このとき、SBIを選んでいればSBI以外の株主には損が生じる。(SBIが株式保有割合を引き上げるとで)こういう事態が今後も起こりうるということだ。」

「――新生銀行が返済できていない公的資金返済も焦点です。SBI側から返済の具体的な手法について提案などはあるのでしょうか

ないですね。

経営権を取るということは公的資金返済の考え方も開示されるべきだと思う。(公的資金受け入れで発行した優先株が転換され)普通株式になっている以上、返済に特別な方法はありませんという回答になるのはおかしなことではない。

それは誰が株主になっても同じ。なんとなく、株主が変われば返せるんだというのは明らかに間違いだ。」

風雲急の新生銀行TOB 金融庁は「モラル欠如」のSBIを認めてよいのか(9月24日)(ITmedia)

「SBIは「第4のメガバンク構想」として、既に業績不振の8地銀を集めた地銀救済プログラムの受け皿銀行に新生を使う、という構想を明らかにしています。一方の金融庁は、地銀再生プログラムを検討する中で、20年前の大手行再生時にとった「再編とゴミ箱づくり」戦略がベストであるとの経験則を持っています(なお、この「ゴミ箱」という表現は、政府の大手行再生策検討当時に大蔵省銀行局職員が筆者に対して実際に使った言葉です)。

大手行再生の時は、3メガへの再編と「ゴミ箱」としてのりそな銀行がつくられ、金融危機からの脱却と新金融体制確立は見事に完成したわけです。地銀再生プログラムにおいて「ゴミ箱」づくりを買って出てくれたSBIに対して決め手となる受け皿を用意する意味でも、今回のTOBは金融庁の望むところだといえるのです。」

「ここで指摘したいのは、SBISLの織田貴行社長(当時)が北尾SBI社長の野村証券時代の後輩であり、その後もソフトバンク、SBIと常に北尾氏と行動を共にしてきた腹心中の腹心であるという点です。グループトップの北尾氏が織田氏との綿密な関係の下でSBISLの上場を指示していたことは間違いなく、SBISLを巡る不祥事はSBIそのものの問題であるといえるのです。」

「金融庁はこの問題を、SBIの業務姿勢や企業風土を、どのように考えているのでしょう。」

「SBISLを巡る一件から見てとれる、金融モラルが欠如している企業グループに新生の経営を委ねていいのかと考えれば、金融の常識から断じて「NO」であると考えます。金融秩序を守る立場の金融庁がなぜ今回、SBIの株式買い増しを認可したのでしょう。」

「このままSBIによる新生へのTOBが成立してしまった場合、地銀再生までもがモラル欠如の利益追求に利用されてしまい、取り返しのつかないことになるのではないかと思うにつけ、空恐ろしい気持ちになるばかりなのです。」
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