「天の石笛」(あまのいわぶえ)
むかしむかし、何百年か昔のことである。
夜来の風雨はおさまったが、海上は、まだどんよりとした雲におおわれている。
ある朝のことである。源助という一人の漁夫が五の浦(飯岡の浜辺)に出てみると、ドドドドッと沖からひびいてくる波の音。ジャージャーと石を打つ水の音。ゴウゴウゴウゴウという海をわたってくる風の音のオーケストラの中に、きわだってすんだ妙なる笛の音の流れてくるのが、耳にとまった。
源助は、しばらくその笛の音に聞き惚れていたが、その音にすいこまれるように、いつとはなしにその音の方に足を運んでいたのである。
そして、その音の主が、一つの石であることに気がついたとき、その笛の音は、はたとやんでしまった。
源助は不思議に思ってその石に目をそそぐと、その石というのは、長さが六十センチメートル。丸さは直径六センチメートル余りと思われる飯岡石で、たてに一つの穴があいていた。
しかし源助はあまり気にもとめないで引き返し、やがて漁に出たが、しけ上がりの海はきれいになっていたものの獲物はまったくなく、さらにまた、急に吹きだした強風のため命からがら、ほうほうの態で逃げ帰ることができたのである。
その夜、源助がつかれきって寝ている枕もとに、妙見様(浜を守る神で、海津見神社。永井岡の山ふもとにある)があらわれて、「今日、おまえが浜で聞いた笛の音は天の石笛といって、海の荒れるのを漁夫たちに知らせる神様のおつげであるぞ。あの笛の音を聞いたら漁に出るでないぞ!。
今日お前の命を助けて帰したのは、このことを浜の人たちに伝えさせるためであるぞよ」。と、いうことであった。
此の話が源助によって浜の漁夫たちに伝えられ、それからは、【石笛がなると海が荒れる】という漁夫たちの言い伝えとなり、この石笛が浜に打ち上げられるのを見付けた漁夫は、これを妙見様にあげ、「御神酒」を捧げてお祭りをし、三日の間は浜全体が漁を休んで、ひたすら神に祈るようになったという。
出典は「海上郡市の昔話」海上中学校郷土研究クラブ編 平成元年発行
当時顧問であった伊藤實先生が飯岡小、中勤務時に聞き集めたものを記述したとの事です。当時の写真等、貴重な資料もお持ちです。今回の土産物企画では大変お世話になりました。
地元漁師所有現存する「天の石笛」