お察しかと思いますが、ワタクシほぼ毎回のように枚数オーバーになりまして…
ロマンスと関係ない部分、ストーリー展開に支障のない部分はばっさり切り捨てざるをえません。
だからといって思い入れがないわけではなく……
本編をお気に召していただけた方に読んでいただければ報われます
以下は初稿では文庫の43ページ2行目から続いていた部分です。
ヒロインが羞恥に身悶えしている間、黒竜騎士は抜かりなく弟くんを手なずけていたわけですね。油断のならない奴じゃ
では、どうぞお楽しみください
庭に降りたジャスティンは、しばらく空を見上げていたが、やがてふと一方向に向けると迷うことなく歩きだした。太い枝の張り出した大木の元に歩み寄り、上を見上げる。
「……ここがきみのお気に入りの場所かい?」
枝の根元に座り込んでいたルネは、黙ったままじろっとジャスティンを睨んだ。顎を上げ、思いっきり睥睨する。ニッと笑ったジャスティンは、ほんのわずかに助走しただけで、軽々と跳躍して隣の枝にスタッと降り立った。ルネは目と口をぽかんと開けて彼を眺めた。長身で筋肉質の堂々たる体躯の持ち主なのに、軽業師そこのけの身軽さに唖然とする。
ジャスティンは手庇をして、暮れなずむ夕景色を見霽かした。
「ああ、これはいい眺めだ。王宮まで見渡せる」
我に返ったルネは、ぷいっとそっぽを向いた。それを横目で見て、ジャスティンは微笑んだ。
「お腹減っただろう? そろそろ晩餐の支度が整う頃合いだ。食べに行かないか」
晩餐と聞いて胃袋が反応したのか、ぐぅぅと正直に腹が鳴る。姉同様真っ赤になりながら、ルネは意地っ張りに腕を組んで腹を押さえ込んだ。
「敵と食卓は共になどしない」
「私はきみの敵なのかな」
穏やかに問われ、ルネは眉を逆立てた。
「父上の名前を盗っただろ!?」
「そうだね。今は私がルヴォア侯爵だ。……悔しいかい?」
「あたりまえだッ」
「だったら取り戻してごらん」
こともなげに言われ、ルネは目を剥いた。くすりとジャスティンが笑う。
「きみがルヴォア侯爵を名乗るにふさわしいと周囲を納得させられたら、きみに爵位を戻すよう、陛下にお願いする」
「本当!?」
「ああ。ただし、少なくとも私と陛下を納得させなければいけないよ。はっきり言っておくが、たやすいことではない。……一度失ったものは、生半可なことでは取り戻せないんだ」
厳しい声音にルネは驚いて目をぱちぱちさせ、じっとジャスティンを見つめた。
「……ねぇ。あなたは……強いんだよね」
「ああ、強いよ」
あっさりと彼は答えた。ゆるぎない自信に裏打ちされた口調に圧倒され、ルネはこくりと唾をのんだ。
「僕も、強くなりたい」
思い詰めた口調に、ジャスティンは眉根を寄せた。
「……強さにもいろいろある。腕っぷしの強さだけじゃない。たとえば、きみの姉上はとても強い人だ。そうは思わないか?」
「うん、思う。姉上がいなかったら、僕、どうなっていたかわからないもの」
「私も、彼女にはとても敵わない。……永遠に、敵わなくていいと思ってる」
ルネはびっくりした顔でジャスティンを見上げた。
「……もしかして、姉上のことが好きなの?」
「ああ。結婚を申し込んだ」
ルネはさらに目を瞠って呟いた。
「それでさっき気絶したんだ……。姉上は返事をしたの?」
「いや。今考えてもらってるところだ」
「そうなんだ……」
ルネははーっと溜息をついた。
「もしも姉上があなたと結婚したら……、僕たちは兄弟ってことになるんだよね」
「いやか? 父上の名を『盗った』男の弟になるのは」
くすりと笑われ、ルネはばつが悪そうに顔を赤らめた。
「あなたが姉上にふさわしい人なら……、別にいやじゃないよ」
「ふむ……。つまり私たちは、それぞれたゆまぬ努力が必要というわけだ。だったら協力し合うのもひとつの手だとは思わないか?」
「……そうかもね」
「では、まずはきみの姉上に、楽しく食事をしてもらうというのはどうだろう」
ルネは少し考え、にっと笑った。
「悪くないね」
笑みを返したジャスティンは、ひらりと枝から飛び下りた。相変わらず体重を感じさせない動きだ。着地したときもほとんど音を立てない。感心したルネは慌てて後を追ったが、当然ドテッと音をたてて地面に転がってしまう。思わずジャスティンが振り向くと、ルネは負けん気いっぱいな顔で跳ね起きた。
「ねぇ、今のどうやったの? 教えてよ」
「きみが私の弟になったらな」
「あ。外堀《ソトボリ》から埋めるっていうやつだね」
「よく知ってるな」
呆れ半分、感心半分にジャスティンが肩をすくめる。ルネは父を亡くした以来初めて、晴れ晴れとした気持ちで笑った。
というわけで、ヒロインは外堀を埋められ、退路を断たれて捕獲されたのでした(笑)
余談ですが、ワタクシ元気な男の子が大好きでして、よくヒロインやヒーローの弟ポジションに出すのですが、結局削られることが多いです
少年マンガも好きなので、つい、ね……。
最後までお読みいただきありがとうございました
ロマンスと関係ない部分、ストーリー展開に支障のない部分はばっさり切り捨てざるをえません。
だからといって思い入れがないわけではなく……
本編をお気に召していただけた方に読んでいただければ報われます
以下は初稿では文庫の43ページ2行目から続いていた部分です。
ヒロインが羞恥に身悶えしている間、黒竜騎士は抜かりなく弟くんを手なずけていたわけですね。油断のならない奴じゃ
では、どうぞお楽しみください
庭に降りたジャスティンは、しばらく空を見上げていたが、やがてふと一方向に向けると迷うことなく歩きだした。太い枝の張り出した大木の元に歩み寄り、上を見上げる。
「……ここがきみのお気に入りの場所かい?」
枝の根元に座り込んでいたルネは、黙ったままじろっとジャスティンを睨んだ。顎を上げ、思いっきり睥睨する。ニッと笑ったジャスティンは、ほんのわずかに助走しただけで、軽々と跳躍して隣の枝にスタッと降り立った。ルネは目と口をぽかんと開けて彼を眺めた。長身で筋肉質の堂々たる体躯の持ち主なのに、軽業師そこのけの身軽さに唖然とする。
ジャスティンは手庇をして、暮れなずむ夕景色を見霽かした。
「ああ、これはいい眺めだ。王宮まで見渡せる」
我に返ったルネは、ぷいっとそっぽを向いた。それを横目で見て、ジャスティンは微笑んだ。
「お腹減っただろう? そろそろ晩餐の支度が整う頃合いだ。食べに行かないか」
晩餐と聞いて胃袋が反応したのか、ぐぅぅと正直に腹が鳴る。姉同様真っ赤になりながら、ルネは意地っ張りに腕を組んで腹を押さえ込んだ。
「敵と食卓は共になどしない」
「私はきみの敵なのかな」
穏やかに問われ、ルネは眉を逆立てた。
「父上の名前を盗っただろ!?」
「そうだね。今は私がルヴォア侯爵だ。……悔しいかい?」
「あたりまえだッ」
「だったら取り戻してごらん」
こともなげに言われ、ルネは目を剥いた。くすりとジャスティンが笑う。
「きみがルヴォア侯爵を名乗るにふさわしいと周囲を納得させられたら、きみに爵位を戻すよう、陛下にお願いする」
「本当!?」
「ああ。ただし、少なくとも私と陛下を納得させなければいけないよ。はっきり言っておくが、たやすいことではない。……一度失ったものは、生半可なことでは取り戻せないんだ」
厳しい声音にルネは驚いて目をぱちぱちさせ、じっとジャスティンを見つめた。
「……ねぇ。あなたは……強いんだよね」
「ああ、強いよ」
あっさりと彼は答えた。ゆるぎない自信に裏打ちされた口調に圧倒され、ルネはこくりと唾をのんだ。
「僕も、強くなりたい」
思い詰めた口調に、ジャスティンは眉根を寄せた。
「……強さにもいろいろある。腕っぷしの強さだけじゃない。たとえば、きみの姉上はとても強い人だ。そうは思わないか?」
「うん、思う。姉上がいなかったら、僕、どうなっていたかわからないもの」
「私も、彼女にはとても敵わない。……永遠に、敵わなくていいと思ってる」
ルネはびっくりした顔でジャスティンを見上げた。
「……もしかして、姉上のことが好きなの?」
「ああ。結婚を申し込んだ」
ルネはさらに目を瞠って呟いた。
「それでさっき気絶したんだ……。姉上は返事をしたの?」
「いや。今考えてもらってるところだ」
「そうなんだ……」
ルネははーっと溜息をついた。
「もしも姉上があなたと結婚したら……、僕たちは兄弟ってことになるんだよね」
「いやか? 父上の名を『盗った』男の弟になるのは」
くすりと笑われ、ルネはばつが悪そうに顔を赤らめた。
「あなたが姉上にふさわしい人なら……、別にいやじゃないよ」
「ふむ……。つまり私たちは、それぞれたゆまぬ努力が必要というわけだ。だったら協力し合うのもひとつの手だとは思わないか?」
「……そうかもね」
「では、まずはきみの姉上に、楽しく食事をしてもらうというのはどうだろう」
ルネは少し考え、にっと笑った。
「悪くないね」
笑みを返したジャスティンは、ひらりと枝から飛び下りた。相変わらず体重を感じさせない動きだ。着地したときもほとんど音を立てない。感心したルネは慌てて後を追ったが、当然ドテッと音をたてて地面に転がってしまう。思わずジャスティンが振り向くと、ルネは負けん気いっぱいな顔で跳ね起きた。
「ねぇ、今のどうやったの? 教えてよ」
「きみが私の弟になったらな」
「あ。外堀《ソトボリ》から埋めるっていうやつだね」
「よく知ってるな」
呆れ半分、感心半分にジャスティンが肩をすくめる。ルネは父を亡くした以来初めて、晴れ晴れとした気持ちで笑った。
というわけで、ヒロインは外堀を埋められ、退路を断たれて捕獲されたのでした(笑)
余談ですが、ワタクシ元気な男の子が大好きでして、よくヒロインやヒーローの弟ポジションに出すのですが、結局削られることが多いです
少年マンガも好きなので、つい、ね……。
最後までお読みいただきありがとうございました
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