タザ記

目指せ枕草子。

オリジナル小説 冬烈火 最終話

2021-04-17 18:19:00 | 小説
ついに最終回です。では、どうぞ。

「これは・・・?」
俺たちはその光景に圧倒されその場に立ち尽くした。そこにあったのは黄金に輝く巨大な凱旋門だった。その先にはどこまでも階段が続いている。階段の終わりは見えなかった。
「これが幸界・・・?」
建樹が呟く。
「この階段登ればゴールじゃない?行こうよ!」鈴望の顔が明るくなった。
俺たちは輝く階段を登っていった。かなり疲れてはいたが、ゴールがもう目の前に迫っているのだ。そう思うと自然と体が動いた。

果てしない階段を登りきり、俺たちは雲を突き抜けた。そこにあった光景に俺たちは目を見張った。
一面の青空の中浮かぶ巨大な雲の上に、水晶のように輝く宮殿が建っていた。入口には虹色に輝く宝石で作られた狛犬が立派に立っている。まさに、「幸界」と呼ぶにふさわしい場所だった。
俺たちがその場から動けずにいると、宮殿から1人の男がでてきた。立派な白ひげを伸ばし、真っ白な衣服に身をつつむその姿は、まるで神さまのようだ。
「ようこそ、幸界へ。」
優しい声で男が言った。
「あなた方は、4人で力を合わせ、各人の個性を十分に発揮し、また尊重し、数々の困難に打ち勝ち、そしてここまでやってくることができました。その栄誉を称え、これを賞する。」
男は俺たち1人1人に賞状のようなものを渡した。俺たちはわけの分からないまま受け取った。
「あの、あなたは・・・?」
俺は恐る恐る聞いた。
「私はこの幸界の住人です。住人と言っても
私1人ですけどね。」
男は微笑んだ。そして続けた。
「あなた方は本当によく頑張った。この幸界に辿り着いたのはあなた方だけですよ。」
「!!」
俺たちは顔を見合わせた。それって、俺たちが1位ってことか?
「じゃあ、願いを叶えてもらえるんですか!?」
華日の目が輝く。
「・・・その必要はあるかね?」
男が静かに言った。
「あなた方はこの幸界に1番に辿り着きました。それは、あなた方が仲間を信じる力が誰よりも強かったからです。
男は続けた。
「この冬烈火、もしあなた方が1人で挑むことになっていたとしたら、ここまで辿り着けていたと思いますか?」
俺たちは4人揃って首を振った。
「あなた方はこの冬烈火で仲間というものの大切さ、素晴らしさを改めて感じたでしょう。もうだめだと諦めかけたこともあったでしょう。しかし、仲間と一緒だったから、乗り越えて来れた。どんなことでも諦めず、仲間を信じていれば、必ず道は開けるのです。あなた方の願いを叶える必要は無いはずです。もう、それだけ素晴らしい仲間を持っているのですからね。」

「それに、そもそも私に願いを叶える力なんてありませんしね。」
俺たちは顔を見合わせた。そして、男は笑いだした。
俺たちは、今一度仲間たちの顔を見つめ合った。そして、これまでにないくらい笑った。誰1人として、男を恨む者はいなかった。
~完~

ご覧いただきありがとうございました😁


オリジナル小説 冬烈火 第10話

2021-01-31 23:53:00 | 小説

〜あらすじ〜
ひょんなことから異世界へと迷い込んだ「畑崎(はたけざき)」とその部活仲間の「華日(はなか)」、「鈴望(れみ)」、「建樹(けんき)」。
その世界では「幸界(こうかい)」を目指すレース「冬烈火」が行われる。この冬烈火への参加を決意した4人は、参加者だけに与えられる特殊な力「戒(かい)」を駆使して1位を狙う。

途中、森の中で魔物と遭遇した4人。力を合わせて強烈な攻撃を叩き込むが、魔物を倒し切ることができず劣勢に立たされる。そんな中、今まで身を潜めていた畑崎が謎の行動に出る…。

「一体どうなってるんだ…?」建樹が思わず呟く。
「お前は俺に対して敵意を向けていない。何か理由があるんだろ?教えてくれ。」
俺は魔物にさらに問いかけた。
「ウグッ ガルッ…。」魔物は俺に答えるように吠えた。訳ではなかった。俺には何故かこの魔物が伝えようとしている事が理解できたのだ。

ー俺には沢山仲間がいた。みんな俺のことを大事にしてくれる奴ばかりだった。
俺も楽しかった。でも、何か心の中に引っかかるものがいつも残っていた。
それはー強さの違いからくる劣等感だった。周りの仲間達にはできることも、俺にはできなかった。仲間がどんどん成果をあげるのに、俺は全く結果も出せなかった。
仲間といるのが辛くなることはなかった。でも、みんなできるのに俺にだけできない悔しさはいつもあった。俺だってあんな風になりたいって思った。
その感情はいつしか憎しみに変わった。俺はとうとう仲間達と別れ1人孤独に生きることを選んだ。その方が楽だと思ったんだ。

だから、俺はお前を救おうとした。お前は他の3人の仲間と比べれば能力が低い。俺と同じ場所に立っているんだ。だから、お前には敵意を見せなかった。


魔物はこんな風に俺に伝えた。どうやら、3人はこの魔物の言葉は理解できないようだ。ただ呆然としていた。

さあ、お前も俺と同じように自由になろう。仲間なんて捨てて、劣等感など味わうことなく自由に生きるのだ!
魔物はさらにこう付け加えた。俺は少しの間俯いたままでいた。


「断る。俺は仲間と共に生きる。お前のようにはならない。」俺は返した。
「仲間の方が強いからそれが嫌になることも確かにある。でも、そこで逃げだしたら負けだ。自分より優れてるってことは、その分だけどっかで頑張ってるってことだろ!
だから俺だって頑張ろうって思う。ついていこうって思う。そうやってお互いを励まし合うのが仲間じゃないのか!?お前はそうしようとしたのか?仲間の姿をみて、ついていこうとしたのか?何とか追いつこうとがんばったのか?そんなこともせずに仲間を恨むなんてのは間違いだ。」
俺は必死になって訴えた。魔物は下を向いて黙っている。と、急に魔物の目の色は凶暴な赤い色に変わり、俺に襲いかかってきた。
「黙れ!お前も俺の敵だ!俺の気持ちを分かってくれるやつなんていねぇ!」
魔物の攻撃を俺は槍で必死に受け止める。
「そんなことはない!きっと分かってくれる仲間がいたはずだ!」俺は叫んだ。その間にも魔物は襲いかかってくる。
「そんな奴はいない!だから俺はこんな風になってるんだ!」
「いい加減にしろこの野郎!」
俺は魔物に槍を振るった。当たった。
俺はそこではじめて、まともに自分が戦っていることに気がついた。魔物の強烈な攻撃を受け止め、反撃を喰らわせていた。
「お前の気持ちも理解できるが、仲間はそんな扱い方をするのもじゃない。」
「まだ言うか!」魔物はさらに飛びかかってきた。俺は自分でも驚く程のスピードでその攻撃をかわした。
「天戒(てんかい) 天つ慈悲(あまつじひ)」
俺は静かに言った。
「辛かったんだな。おまえも。」
俺は槍を投げた。青い輝きを持ったその槍は鋭く、優しく魔物の胸を貫いた。
「ガウッ…」魔物はその場に倒れこんだ。
俺はそこに寄り添った。
「おやすみなさい。」俺は静かに言った。
魔物の目には涙があった。
続く…。

ご覧いただきありがとうございました😁
めっちゃ長くなってしまいました。投稿時間も遅くなった…。
疲れたので寝ます。おやすみなさい😇

オリジナル小説 冬烈火 第8話

2021-01-11 22:26:00 | 小説
〜あらすじ〜
ひょんなことから異世界へと迷い込んだ畑崎とその部活仲間の建樹(けんき)、
華日(はなか)、鈴望(れみ)。
4人はその世界で、「幸界」を目指すレース、「冬烈火」に参加することになる。
ゆく道で男4人組から戦闘を仕掛けられるが、これはなんなく撃退する。勢いに乗った4人は森へと入っていく…。

森の中は薄暗く、足場も悪い。動物たちの声も聞こえず、不気味な静けさに包まれていた。これは進むのが大変そうだ。
「思った以上に森だなぁ。」建樹が言う。
「私たちなら大丈夫だって!」華日がとっさに言った。他の人達は見当たらない。どうやら森は避けたようだ。この深さでは避けるのも無理はない。
「やっぱり暗いね。明かりがあればいいのになぁ。」鈴望が呟く。
「明かりならあるよ。」華日が答えた。と、
「陽戒 星華(ほしばな)」
とたんにぱっと明るくなった。華日が白く光る玉を浮かべている。
「これで明るくなったね。さあ、行こうか!」華日が得意げに笑う。
「華日すげぇ!」俺は思わず関心して言った。と、同時に少し落胆した。やっぱり俺以外みんな戒使えるじゃねぇか。
明かりも手に入り、4人はペースを上げて森の中を進んでいった。


「ふう〜疲れたぁ。」4人は大きな栗の木の下で休んでいた。もうすぐ日が沈みそうだ。どうやらこの森の中で1晩過ごすしかないようだ。
「とりあえず明かりはあるとして、安全に眠りたいよな。どうしようか。」建樹が言う。
「焚き火かなんかする?」華日が笑う。
「普通にそれでよくね?」俺は言った。
「私もいいと思う。」鈴望も賛成してくれた。俺たちは何か焚き火になりそうなものを集めてきた。集めるのに苦労はしなかった。集めてきたものに華日の戒で火と明かりをつけて焚き火を作った。
俺たちは焚き火にあたりながらいろんな話をした。いつだって仲間との話は楽しいものだ。

と、しばらくして、俺は何か気配を感じた。少し嫌な感じだ。
「ねえ、何か聞こえない?」鈴望も気がついたようだ。
「本当だ、聞こえるぞ。」建樹も顔をしかめる。
「危ない!後ろだ!」俺は叫んだ。そこにいたのは見た事のない生き物だった。目を赤く光らせ、犬のような見た目をしているが、その体は黒く、毛は逆立っている。
「こいつが魔物か。」
俺は言った。

続く…。
ご覧いただきありがとうございました。

オリジナル小説 冬烈火 第6話

2020-12-27 22:10:00 | 小説
金、土と失踪してました。すいません。
前回の続きになります。

疲れていた4人はすぐに眠りに落ちた…。

チュンチュン…
「う〜ん…」
俺は鳥のさえずりで目を覚ました。山の中にあるこの宿では鳥の声もよく聞こえる。
「あ、畑崎おはよう。
華日が先に起きていた。
「ああ、おはよう。」
2人が寝ているので、まだカーテンは閉めてある。やさしい明かりが部屋を満たしていた。
「2人ともまだ寝てるね。」
「相当疲れてたんだろうな。」
「そうみたいだね。2人とも頑張ってたもん。」
「俺たちがここにいるのも2人のお陰だもんな。」
「ねえ、私たち絶対1位とるよね!」
「あ、うん。あたりまえだ!」
そんな話をしていると、鈴望と建樹が起きてきた。
「あ、先起きてたんか。おはよう。」
建樹が目をこすりながら言った。
鈴望は寝ぼけているのかぼーっとしている。
「なあ、朝ごはんってまだ?」
俺は聞いた。急に空腹感が出てきたのだ。
「8時じゃなかった?」
鈴望が眠そうに答える。
「そっか。じゃああと30分ぐらいあるのか。」
その間、俺たちは顔を洗ったり着替えたり支度を済ませた。

「ごちそうさまでした!」
朝ごはんを食べ終え、俺たちは出発の準備を整えていた。
「よし、行くか!絶対1位になってやる!」
建樹はかなりやる気のようだ。旅館を出発する時に主人に声をかけられた。
「この街より先にはもう街はない。しっかり準備を整えて行った方がいいですよ。」
なんということだ。ということはまともに休めるのはこれで最後かもしれないということか?
「大丈夫です!私たち絶対1位とりますから!
鈴望が自信たっぷりに言う。
「あと、よければこれを…。」
そう言って主人は何かを下から取り出した。とても立派な刀と槍だ。
「え、これくれるんですか?」
俺は思わずきいて叫んでしまった。
「この先は魔物も増えてきます。鈴望さんは杖がありますが、さすがに武器なしでは厳しくなってくるでしょうから。」
「本当にいいんですか?こんなに立派なものを…。
「ええ。あなたがたには是非健闘して貰いたいですから。」
主人はこう言って笑った。


「すごい物貰っちゃったなあ。」
建樹が呟く。
「これでたいぶ心強いね!」
鈴望が嬉しそうに言う。しかし、これはレースだ。方向が掴めたし、ここからはどんどんペースを上げていく必要がある。
「よし、とにかく進んでみよう。ゆっくりしている時間はないぞ。」
俺たちはとにかく真っ直ぐに進んだ。自分たちはきっとできる、大丈夫だと自信を持ちながら。

続く・・・。
ご覧いただきありがとうございます。1〜5話も是非。

オリジナル小説 冬烈火 第5話

2020-12-23 22:54:00 | 小説
前回の続きになります。まだ読んでない人は是非1〜4話も読んでみてください。

「建樹!」
鈴望が叫ぶ。
「やばい。くそ!だめだ!」
建樹は何とかしようとするが、うまく行かない。俺はどうすることもできない。
「祝戒 輝く繭」
不意に後ろから優しい声がきこえた。と同時に建樹を純白の繭が包こんで、そのままこちらへやってきた。
「俺は…助かったのか?
建樹は何が起こったのか分からない様子だった。
「もう〜しっかりしてよ〜。
鈴望だ。さっきの繭は鈴望の力によるものだったのだ。
「いや、まさか空中だとあんなに戒が使いにくいとは思わんやん?」建樹が返す。
「でも、ありがとう。鈴望がいなきゃ死んでたわ。
「どういたしまして。」
鈴望がニコッと笑った。
すげぇ。みんな戒をバッチリ使いこなしてる。多分華日もうまいんだろうな。

「で、何か収穫はあったのか?」
俺は建樹に聞いた。
「おう。西だ。この道を西の方にずっといったところに小さい町があった。」
「やった!じゃあそこに向かおう!」
華日が言う。
「建樹ありがとね。でも無理はせんどいてよ。」
鈴望も言った。
俺たちは西の方へと進んでいった。日が暮れてきたので少しとばすとすぐに町が見えてきた。俺たちはその町の宿屋に入り一息ついていた。
「なあ、明日どーする?」
「やっぱり行ってみるしかなくない?」
「ここの宿の人何か知らないかな…。」
俺たちは明日からのことについて話していた。と、
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「はーい。」俺はドアを開けた。そこには宿の主人がいた。若い、清潔な感じの男の人だ。
「ご飯をお持ちしました。」
「ああ、ありがとうございます。」
珍しい。自分たちの部屋にご飯を持ってきてくれる宿屋なんてあっただろうか。
「どうぞごゆっくり。」
「あ。ちょっと待ってください。」
俺は引き止めた。
「幸界ってどっちに行ったら着きますか。」
さすがに質問が雑すぎると思った。しかし、
「幸界ですか。自分たちの思う方向に進めば必ず着きます。正解の方向なんてないですよ。」
主人は笑顔でこう答えてくれた。
「では、失礼します。」
主人は頭を下げて出ていった。

「ねえ、どういうことだと思う?」
「わかんない。方角は決まってないって…」
俺たちは主人が言ったことについて話し合っていた。が、いまいちピンとこない。
「まあ、思う方向に進めばいいってことは俺たちは間違ってるわけじゃなさそうだな。」
建樹が言った。
「自分達を信じて進めばいいってことだよね!」
華日はこう言う。
「とにかく、今日はもう休もうや。俺めっちゃ疲れたわ。」
俺はとにかく疲れていた。知らない土地を歩くのはかなり負担がかかる。
「そうやね。明日また考えよう。」
鈴望もかなり疲れている様子だった。
「そいじゃ、おやすみー。」
「おやすみー。」
4人はすぐに眠りに落ちた…。

続く

ご覧いただきありがとうございました😁