タザ記

目指せ枕草子。

小説 向かい風 最終話

2021-10-17 17:22:00 | 小説
お待たせしました。いよいよ完結です。
では、お楽しみください!
↑前回










「はいこんにちはぁ」
午後4時半。今日も練習がスタートする。
「試合も近づいてきました。意識を高く持ってやっていきましょう。はいお願いします。」
「お願いします!!
グラウンドに生徒達の声が響く。
あれから5年。陸上部の指揮を執っているのは他の誰でもないあの荻だった。
「元気ないよ〜声出して〜!」
立派に教師に復帰し、生徒指導部に配属され、日々精をだしていた。学校内では、
「めっちゃ怖い先生」のイメージが完全に定着していた。
また、この5年間、荻は教師になってからも体を鍛え続け、その筋肉はさらに輝きを増していた。

それから2日後…
荻の高校に教育実習生がやってきた。どうやら高校時代陸上部だったということらしい。実習期間中は一緒に陸上部の練習を見てもらえることになる。荻はそれだけ聞いていた。
「どんなやつなのか。結果は残していたやつなのか。」
荻はそんなことを考えていた。

そして、やってきた実習生の顔を見た荻はは目を丸くした。
「け…健樹(けんき)…?」
「久しぶりですね荻先生!」
なんと、そこに居たのはかつての教え子の健樹だった。
「健樹…お前先生になるんか?」
「そうなんですー。大学で先生いいなって思って。」
これは驚いたことだ。しかもまさか違う学校で再開するとは。2人はしばらく世間話などをしていた。
「しかし先生変わってないっすね!この胸筋とか昔のまんまじゃないっすか!!」
「やかましいわ笑」
「やっぱ先生はその胸筋あってこそですよね!見た目もいかつくなりますしね!」
「お…そうか?」
「はい!先生の胸筋は効果抜群ですよ!俺も当時はビビりまくってましたし笑」
「そうなんか?」
「先生気づいてなかったんです?」
「いや、俺は…。」

荻ははっとした。なぜ、俺は筋肉がないと教師に戻れないなどと考えていたんだ?
荻はそこではじめて、自分自身がずっと人を威圧していたことに気がついた。そして、そうしている自分が好きだったことにも気がついた。そのせいでどれほどの人が辛い思いをしていたのか…。
「健樹、すまん。俺はもう上がるわ。」
荻はそう言ってその場を離れた。
「俺は間違っていた。ずっとそうだ。まさか教え子に気付かされるとはな。」

その後、あの時自分の行いを教育委員会に通報し、退職へと導いた人物こそが、あの健樹であることを荻が知ることはなかった。

ー完ー

ここまでお読みいただきありがとうございました🙇‍♀️
この小説を読んだあなたが、読む前より少しだけ幸せになっていることを願います。

小説 向かい風 第5話

2021-09-22 21:45:00 | 小説
↑前回






荻は早速ジーグルマップで家の近くのトレーニング場を探し始めた。
「①夕方使えて、②フリーウェイトがあって、③コンビニが近いところがいいな。」
と、共通テストリスニングのごとく表に○×をつけていく。幸い、家からさほど遠くない場所によいトレーニング場を見つけることができた。

3日後、荻はお気に入りの紺のタンクトップでトレーニング場へ向かった。西に傾いたオレンジ色の夕陽が荻の影を赤く伸ばしていた。
荻はまずはスクワットに取り掛かった。現役時代は持ち上げられた230キロが今はびくともしない。まあ、いきなり230というのもおかしな話なのだが…。荻は自分の体の衰えをまたも感じてしまうのだった。
結局その日は体を慣らす程度になってしまった。
「俺の肉体はこんなもんじゃない!」
荻は自分に言い聞かせていた。

それからも荻はトレーニングを続けた。あの怪しいサプリも飲み続けた。少しずつ、持ち上げらる重さも増えていった。
「戻ってきている。あの俺が帰ってくる!!」
荻は確実な成長を実感していた。気がつけばサプリはあと1週間分になっていた。

そして1週間後、サプリを使い切った荻は体重を測ることにした。きっと減っているだろう。以前とは体の感覚が違う。期待を大いに抱いて荻は体重計に乗った。

’70.3kg’
「何故だあぁぁぁぁぁ!!!!」
荻は暴れ回った。またも足の小指をタンスの角にぶつけて我に返る。
「おかしい。絶対におかしい!」
そう叫んだ荻は、目の前の鏡に映った自分の姿を見て絶句した。そこにいたのは、胸筋がありえないほどに張りあがった荻だった。
「う、うおぉぉぉ!!」
荻はそこではじめて体重が増えたのは筋肉のせいだということに気がついた。
「帰ってきた…。あの時の俺が帰ってきたーーー!!!」
これならば、また教師にもどることができるかもしれない。夏の終わりの朝日が荻の背中を照らしていた。

続く…。

小説 向かい風 第4話

2021-09-05 00:18:00 | 小説
だいぶ遅くなってしまいましたが前回の続きです。
↑前回



荻は驚いて立ち尽くしていた。そこにあらわれた数字は

'65.2kg'

最後に測ったときは71.4kgだった。この短期間で約6キロ体重を減らすことに成功していた。
「うぉぉぉーーー!!!」
荻は喜びのあまり家の中で暴れ牛のごとく走りまくった。あのサプリ、めちゃくちゃ効果あるじゃねえか!!まさか本当にこんなに痩せられるなんて!
タンスの角に足の小指をぶつけた痛みで我に帰った荻は指に息をフーフー吹きかけながら考えた。
「体重は落とせているんだ。筋肉もつけてあの頃のように…」
荻は完全に自信を取り戻していた。サプリのおかげで自分を取り戻せることを確信していた。

もっとも、荻が痩せることができたのは、食生活を変えてみたり、部屋を綺麗にしたりしたことによるものが大きく、サプリの効果がどれほどなのかは分からないのだが…。どちらにしても、荻の心の中に曇りは無くなっていた。

それから、荻は本格的に筋トレも始めた。現役時代を思い出しながら何日か続けていった。最初は全く落ちてしまった自分の筋肉に落胆していたが、自信に溢れた荻にとってはあまりに小さな溝だった。
「ふんっ!ふんっ!ふはあっ!はあっ!」
荻の身体はさらにたくましくなっていくようだった。
そして1ヶ月後、荻は再び体重を測ることにした。1ヶ月前よりもさらに減っていることを確信していた荻は、そこにあらわれた数字にまたも驚いた。

'65.5kg'

ふ…増えているだと?何故だ?俺はこの1ヶ月筋肉を追い込んできたはずだ。それなのに体重が減っていないだと?

脂肪よりは筋肉の方が重いのだから、体重が増えたということはよほど筋肉が戻ってきているということなのだが…。
荻は数字ばかりに目がいってしまい気がついていなかった。

「くそ!これでは足りないのか!よし。ウェイトも入れていくか!!」
荻はさらなるトレーニングを重ねていくことになる…

次回へ続く…

小説 向かい風 第3話

2021-08-21 23:15:00 | 小説
↑前回。



階段でこけそうになってバランスを崩しながら荻は玄関へ走った。扉を開けるとやはり段ボールを持った配達員が立っていた。
「お待たせして申し訳ありません。ご注文の品です。」
「おお、待ってましたよ!!」
「受け取りのサインをお願いします。」
荻は人生で最も早く自分の名前を書いたかもしれない。期待は高まりすぎて溢れる寸前だった。
「では失礼します〜」
配達員が帰っていくと、荻は階段でつまづきながら猛ダッシュでリビングへ向かい、段ボールの封を切った。中にはプチプチで保護されたあのサプリが入っている。
「おお!これはすばらしいぞ!」
まだ開けてもいないのに萩は興奮していた。早速取り出し、使用法を確認する。
「なるほど。食後か。」
食後と分かれば荻はすぐに朝ごはん…と言っても冷凍のご飯とインスタントの味噌汁だが、爆速で平らげた。サプリが早く飲みたい。とにかく飲みたい。その一心で食べていたからか、ご飯の味はほとんど分からなかった。
「よし、飲むか!!」
遂に荻はサプリの袋の封を切った。中に入っているのはカプセルだ。
「こんなやつ陸上の合宿で見たことある!これは本物だ!!」
カプセルの見た目なんてどんなものでもそこまで変わりはしないが…。
荻は3錠を飲んだ。おかしな味はなく、飲みやすい。
「毎食後にこれをやるだけで痩せるのか!?最高じゃねーか!うおー!!」

それから、荻は何の疑いもなくサプリを飲み続けた。そのうち、「食事をもっと健康的なものにしたらサプリの効果が上がるのでは?」と思い始めてもいた。

そして1ヶ月。荻は1ヶ月の成果を見ようと思い、体重計に乗ってみることにした。サプリの効果を実感したかった荻は、サプリを注文した日を最後に体重計には乗っていなかったのだ。体が軽くなった気はしている。さあ、いざ…。
「な、なんだこれは…??」
そこに現れた数字に、荻は言葉を失った。

続く…。

ご覧いただきありがとうございました😄


小説 向かい風 第2話 「怪しいサプリ」

2021-08-11 19:42:00 | 小説
↑前回です。まだ見てない方は是非。






そこで荻の目に飛び込んできたのは、
「飲むだけで激ヤセ!食事制限、辛い運動一切なし!」
そう書かれたサプリの広告だった。なんだと?運動もせずに痩せられる?今の俺の体ではダイエットのための運動など到底無理だ。このサプリ最高じゃねえか!!

荻は希望が見えた喜びで疑うということを忘れていた。勉強をほったらかして円盤を投げまくったせいもあるのだろうか。
早速URLをタップしてサイトに向かう。
「⚠️在庫が少なくなっています⚠️」の文字。まずい、早く買わなければ。

爆速で必要事項を打ち込み、注文。なんとか間に合ったようだ。
「これで俺もあの頃の体を取り戻せる!」
梅雨明けの太陽の光が差し込んでくる。荻は喜んではしゃぎ回っていた。
これを機に荻は変わり始めた。部屋はたちまちのうちに片付き、ポテチもできるだけ我慢した。あの日の俺に戻るため。その一心で荻は生きていた。そしてまた…。

そして1週間程すぎた頃、メールが鳴った。
荻はケータイに飛びつき、画面を覗き込む。そこには
「お待たせして申し訳ありません。明日にはお届け致します。」とあった。
ついに明日だ。明日から俺の鋼の肉体を取り戻す日々が始まる。そう思うとにやけが止まらない。
「こんな体とはおさらばさ!はんっ!」
1人だけの家で荻は声高らかに言った。

そして、翌日…
家のベルが鳴った!

続く…。

読んでいただきありがとうございました😁