友
僕には夢があった 今はもう潰えてしまった夢だ
日本中を旅したいという夢だ
まだ元気な頃には あれこれと思い描いていた
諦めるには まだ早いと友は言う
解っている アイツは優しい奴だ
僕が病気になってからも変わらずに接してくれる
同情するそぶりも見せずに 友達でいてくれる
以前、一度だけ愚痴を言ったことがある
神様は不公平だと 僕が何をしたっていうんだと
すると彼は言った 神様がみんなを平等にしたなら
病人も居ない代わりに医者もいらなくなる
それじゃあ医者を目指している僕が困るよと
あまりに屈託なく言うので 僕は閉口した
僕には一つだけ 恵まれたと思うことがある
彼という友にめぐり逢えたこと
健康だった時には 考えもしなかった
なんだって出来る気になっていた
今では日常生活さえままならない
体調を崩して大学を休むようになった頃
一人暮らしの僕を心配して毎日部屋を訪ねてくれた
入院してからもそれは変わらない 忙しい筈なのに
最近は起きている時間より寝ている方が長い
朝、起きた時 まだ生きていることに感謝している
いっそのこと早く迎えが来ればいいのに
そう言った時 彼は本気で怒った
目に涙を浮かべて 彼は怒った
僕は最近 幸せだと思うことがある
それは見送ってくれる友がいるということ
彼は約束してくれた最後の時は必ずと
少し意外だった また怒るかと思った
だが友は冷静に 絶対に逢いに来ると
そんなに長い付き合いではない
それでも彼は孤児院育ちの僕を友とし
最後の時まで 見送ると約束してくれた
こんな幸せなことがあるだろうか
神様、もしも僕の願いを叶えてくれるなら
僕の残りの人生を 彼に与えてください
でも我儘を言えば あともう少しだけ
こんな幸せな時間を過ごさせてください