酔いどれ烏の夢物語

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

酔いどれ烏の夢物語 雲の上から

2023-02-06 22:17:26 | ポエム

      

       雲の上から

梅の花がほころぶ季節に 僕は人生初の失恋をした

最初は悪い夢でも見ている気分だった

時間が経つにつれ 段々と実感がわいてくる

三月の雨は こんなにも冷たいものか

独り夜道を歩きながら そう思った

傘に落ちる雨音が 僕を責めているかの様だ

夜の闇は僕の心を包み込んでしまいそうだ

 

春になって新入社員が入り 職場も賑やかになった

それでも僕の心は凍り付いたままだ

あの日の事を思い出すと とても辛い

胸を深くえぐられた様な痛みだ

独りで過ごす夜は こんなにも長い

スマホを握りしめて ベットに横たわる

僕は暗い湖の底に沈んでしまったみたいだ

 

夏が来ても僕の体調は悪く 食事も喉を通らない

あまりに胃が痛むので医者に診てもらった

潰瘍ができていると言われた

ふとガラスに映る自分を見た

そこに映るのは 酷く情けない姿だった

こんな思いをするくらいなら

いっそ、出逢わなければよかったのに

 

夏の半ばに小包が届いた 半年ぶりに見る名前だった

中には野菜と手紙が一通 そして写真

君は元気でいるだろうか?と

写真には少し日に焼けた彼と彼の母

気が変わらなくても構わないから

一度遊びに来てみないかと

久しぶりに人の優しさに触れた気がした

 

半年前に止まっていた時間が 動き出そうとしていた

もう何も迷うことはないだろう

心のままに動けばいい 悩むことは無い

休職届を出して荷造りをした

こんなに簡単な事だったのだ

飛行機の窓から外を眺めた

雲の上は晴れていて眩しかった

 

 

 


酔いどれ烏の夢物語 友

2023-02-05 22:19:30 | ポエム

        

         友

僕には夢があった 今はもう潰えてしまった夢だ

日本中を旅したいという夢だ

まだ元気な頃には あれこれと思い描いていた

諦めるには まだ早いと友は言う

解っている アイツは優しい奴だ

僕が病気になってからも変わらずに接してくれる

同情するそぶりも見せずに 友達でいてくれる

以前、一度だけ愚痴を言ったことがある

神様は不公平だと 僕が何をしたっていうんだと

すると彼は言った 神様がみんなを平等にしたなら

病人も居ない代わりに医者もいらなくなる

それじゃあ医者を目指している僕が困るよと

あまりに屈託なく言うので 僕は閉口した

 

僕には一つだけ 恵まれたと思うことがある

彼という友にめぐり逢えたこと

健康だった時には 考えもしなかった

なんだって出来る気になっていた

今では日常生活さえままならない

体調を崩して大学を休むようになった頃

一人暮らしの僕を心配して毎日部屋を訪ねてくれた

入院してからもそれは変わらない 忙しい筈なのに

最近は起きている時間より寝ている方が長い

朝、起きた時 まだ生きていることに感謝している

いっそのこと早く迎えが来ればいいのに

そう言った時 彼は本気で怒った

目に涙を浮かべて 彼は怒った

 

僕は最近 幸せだと思うことがある

それは見送ってくれる友がいるということ

彼は約束してくれた最後の時は必ずと

少し意外だった また怒るかと思った

だが友は冷静に 絶対に逢いに来ると

そんなに長い付き合いではない

それでも彼は孤児院育ちの僕を友とし

最後の時まで 見送ると約束してくれた

こんな幸せなことがあるだろうか

神様、もしも僕の願いを叶えてくれるなら

僕の残りの人生を 彼に与えてください

でも我儘を言えば あともう少しだけ

こんな幸せな時間を過ごさせてください

 

 

 

 

 

 

 


酔いどれ烏の夢物語 まぁるい氷

2023-02-02 20:47:02 | ポエム

      

      まぁるい氷

まぁるい氷が作れる製氷皿を買った

本当にまぁるい氷が出来た

それをグラスに入れて琥珀色の液体を注ぐ

買ったばかりのスコッチウイスキーだ

今宵はワンフィンガーで楽しもうか

音楽は何が良いだろう?スイング系?

それとも窓の外 降り続ける雪を眺めつつ

眠るまでの時間を静かに楽しもうか⁈

 

まぁるい氷が少しずつ小さくなっていく

まぁるい氷の真ん中には

まるで赤道を示す線の様な小さな溝がある

硝子でできた地球みたいだ その溝に

薄まって淡い金色になった ウイスキーが

しみ込んで 溝は徐々に大きくなり 二つに割れた

二つの半円形の氷は それでもまだ一つで

あり続けようとしている様に見えた

 

まぁるい氷が途中で割れてしまったのは

作り方が悪かったのかも知れない

今度は上手く作ろう 割れてしまわない様に

せめて僕が 琥珀色の液体を飲み干すまで

 

 


酔いどれ烏の夢物語 輪舞曲

2023-02-01 18:54:42 | ポエム

        

         輪舞曲

階段を上がる途中から ピアノの音が聞こえてきた

綺麗すぎるほどの旋律に その時何故か僕は悲しくなった

そのすらりと伸びた指先で 彼が奏でるメロディーは

美しくてどこかもの悲しい 初めて耳にする曲だった

何ていう曲なの? 僕の声に振りむいた彼は

『愛と憎しみのロンド』 そう言って優しく微笑んだ

聞いたことが無いでしょ だって今僕が作ったんだから

もっと聴いていたかったが バイトの時間だったので

彼に軽く挨拶をして その場を離れた

 

ロンドってどんな意味だっけ 音楽に疎い僕にはさっぱりだ

その後も二、三度 彼のピアノを聴くことが出来た

彼はいつも微笑んでいた 話し方も穏やかで心地よい

ピアノの音と調和して 僕の心を癒してくれるひと時

そんな彼が姿を見せなくなって 十日程経ったある日

大学内が騒がしい空気に包まれた 友人によれば

この大学の教授と学生が 都内のホテルで心中したという

教授には妻も子もあり 相手は依然噂になった男子生徒だと

 

にわかには信じられないが 学内には刑事らしき人が何人もいた

それぞれに学生を捕まえては 話しを訊いていた

僕と友人も写真を見せられて 話しを訊かれた

写真は間違いなくあの彼だった 僕は見覚えが無いと答えた

そういえば名前も聞いて無かったなと 思い出した

確かに不思議な人だった 優しい笑顔と同時に感じる冷たさ

それはまるで氷の彫刻の様で それでも美しいと思った

僕はもうじき大学を卒業する きっと彼の事も忘れるだろう

 

それでも時おり思い出す 月の美しい秋の夜

彼が弾いていたあのメロディーや 彼の横顔

優しい夕暮れ時の空 とても素敵な時間

もう二度と あんな時間は訪れることは無いだろう