【経済観測】毎日新聞2020年3月6日
シケの日の仕事 気仙沼ニッティング社長・御手洗瑞子
気仙沼の漁師を訪ねたときのことだ。
海にいるのかと思いきや、岸辺の作業小屋でもくもくと慣れた手つきで
漁網の補修をしていた。
海が荒れているシケの日は無理に漁に出ず、穴の開いた網をつくろうのだという。
天候が落ち着き、いざ漁に出ようというときに、網に穴が開いていたら
とれる魚もとれない。「シケにはシケの仕事があるんだよ」とその漁師が教えてくれた。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、個人も企業も自治体も対応を迫られている。
いつもどおりの生活や営業ができない状況で、不安も募るが、淡々と
「いまできること」をすることも大切なのかもしれない。
小さなことではあるのだが、先日、「気仙沼のおばあちゃんに
『あみもの』を習おう」という企画をインターネットのライブ配信で行った。
学校が休校となり、自宅でひまになる子どもたちも多いだろう。
気仙沼で手編みニットをなりわいとする私たちにできることはないかと考え、
編み手がインターネットで子どもたちに編み物を教えるということに挑戦したのだった。
日ごろ、子どもに編み物を教えることも、インターネットでライブ配信すること
も慣れていないため四苦八苦。
不慣れで至らない点もあったが、ご覧いただいた方には楽しんでいただいたよう
だったし、私たちにとっても、新しいことに挑戦する機会となった。
「いつもと違う」という状況はストレスが大きい。
でも、こんなときにしかできないことをやるチャンスでもある。
なにをすべきかよく考えたい。漁師のシケの日の仕事のように。
同時にシケの仕事は、いつかまた漁に出る日がくるから意味があり、
成り立つのだ。ずっとシケが続いてはかなわない。
新型コロナウイルスの収束を切に願いながら今日も手を動かす。
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