そもそも私が介護職を始めたきっかけは、知り合いに勧められたからだった。<o:p></o:p>
「N君は見込みがあるよ、まずは介護職からでもいいから仕事をしてみないか?私が知っている先生がやっている病院だけど、有能な右腕を探していてね。最初は介護職からスタートして、そのうち先生の秘書的な存在になれると思うから頑張ってみない?」<o:p></o:p>
そのような口説き文句だったと思う。今思えば、そんなおいしい話があるはずがない。後に知ったことだが、私を職場にスカウトした人は派遣会社の社員で、介護職を病院に紹介してお金をもらっていた。それほど、介護職になりたがる若者は少ないのだ。<o:p></o:p>
私は、それまでやっていた仕事に嫌気がさして逃げるように退職をしたばかりだったので、その話に半分騙されて介護職という仕事を選んだ。最初は、自分は介護職だけど特別な存在で、いずれは院長の右腕として働くのだと本気で思っていた。数ヶ月経てばそんなのは実現するはずがないと気づくのだが。しかし、結果としてその職場でメンターと出会い、私の人生は大きく変わっていくことになる。<o:p></o:p>
Aさんは他の人から見れば変わり者だったのだろう。介護職にも関わらずスーツで出勤するし、髪型はきっちりと決まっている。別の仕事を持っていて、介護職は副業じゃないかと噂する人が出てきた。しかし、誰にでも親切に接するし挨拶もしっかりとしてくれる。ベテランの介護職のおばちゃんも最初は「新人への洗礼だ」などと言って、仕事をわざと残したり嫌がらせのようなことをしていたが、嫌な顔ひとつせず仕事をするAさんをだんだんと認めていった。<o:p></o:p>
介護職のメンバーでは時々、飲み会をやって愚痴を言い合っていた。そこにAさんを誘ったこともあるが、いつも彼は「予定があるから、申し訳ありません」と丁寧に断って参加することはなかった。最初は「ノリが悪い奴だ」と陰口を言う人もいたが、Aさんの性格や仕事をしっかりとする姿勢に陰口を言う人は減っていった。<o:p></o:p>
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